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超人、あるいは変化をもたらす者。  作者: えくり
ウルム編
18/40

16.帰路、あるいは果てしないもの。

「そっちのテーブルどんだけ飲んだのよ」

 ミシェルを送り届けた帰り。宿へと戻る道中で、朱音が冗談めかしくいう。

 あるいはこんな会話もまた、サークルのあとの飲み会帰りのようで、懐かしい。

「そんなたくさんじゃなかったんだけどね。甘いお酒が度数高いやつだったみたいで」

「そういうことね。まあ春歌も楽しそうだったしいい気分転換になってそうでよかったわ」

「にしてもすまんね。面倒な役割を押し付けちゃって」

「まあリーダーだから仕方ないわよ。それに、私はこういうののほうが得意だもの」

 そんなわかりきった嘘をつかなくていいのに、晴人はそう思った。少なくとも、彼女が代表じゃなかったころから知っている自分には。

「それで、そっちはどんな話をしたの?」

「まあ、最初は普通に大学生の飲み会みたいな感じだったよ。お酒と食べ物の話をして、恋愛の話をして。そしたらミシェルさんにエンジンがかかっちゃって。あとはルチアーノたちに質問されてたかな。冒険者の稼ぎってどれくらいですかとか、どうやったら強くなれますかとか。あ、朱音たちともしゃべりたがってたよ」

「そう。まあ、今日はあれでもまた話す機会ならいくらでもあるでしょ」

「そうだね。登録のタイミングも近いし、実力も僕たちに近いと思う。多分この街だと一番」

「それは期待できるわね」

「まあそんなところかな。総じて普通の飲み会だったよ。そっちは? どんな話してたの?」

「こっちも似たようなもんよ。私たちの活動のこと訊かれて、あとはエアハルト氏が美波ちゃんに気があるみたいでね、なんかアピールしてたわ」

「ああ、まあそういうこともあるのか。大変だな。僕らはいずれ帰るのに」

「そうね。エアハルト氏はずっとウルムにいてほしいみたいなこと言ってたけどね。私情と政治的なことが半々なんでしょうけど、アンネが苦笑してたわ」

「そらそうだ」

「……私たち、帰れるのかしらね」

「帰れるでしょ、知らんけど」

「ずいぶん、楽観的ね」

「まあとくに悲観的になる理由もないからね。朱音は違うの?」

「……。……。今朝、夢を見たのよ」

「夢?」

「そう。みんなが死ぬ夢」

「それで今日は休みなんて言い出したのか」

「うん」

 朱音らしくないね、とっさに出かけた言葉を、晴人は飲み込む。

 それは、単なる気遣いというわけではなく。

「すごく朱音らしいね」

「そうかしら?」

「うん。自分が死ぬ夢じゃなくて、みんなが死ぬ夢を見たってとこが」

「……それもそうね。それでも、この先が不安なことには変わりないわ。少なくとも、気楽に大丈夫だなんて言えないくらいには」

「まあ、僕にだって不安な気持ちがないわけじゃない。こう見えてもね。選択のリスクを考えると悪い想像はしちゃうもんだし。でも。それでも大丈夫だよ。うん。僕たちは大丈夫」

「やっぱり楽観的ね」

「根拠はあるよ」

「聴かせてもらえるかしら」

「まず、後輩組。3人とも、ああ見えて結構しっかりしてる。1,2コしか違わない僕が言うのもあれだけど。去年の僕たちなんかよりずっとしっかりしてると思うよ」

「それは……否定できないわね」

「貴洋もいる。あいつはすごい奴だから、きっと後輩を守ってくれるし、あいつ自身も大丈夫だ。あいつはすごい奴だからね」

「ずいぶんな友情ね」

「それに」

「それに?」

「僕がいる。僕は頭がいいからね。みんなを守る方法も、魔王を倒す方法も、ピピっとひらめいちゃうのさ」

「シラフに見えてたけど、だいぶ酔ってるのね」

「違うよ。いや、違わないかもだけど。でも、僕がみんなを守るってのは、本当だよ。戦闘ではみんなと一緒にいられないからね、たぶん使えるのは頭くらいなんだろうけど」

「そう。正直、一番心配なのはあなたね」

「ちょっと、馬鹿にしてない?」

「ふふ、冗談よ。晴人はなんだかんだしぶとそうだもの」

 朱音が満面の笑みで言う。やっぱり馬鹿にされてるような気もしつつ、朱音の不安が減ってることを願う。

「ねえ、晴人」

「ん?」

「美波ちゃんのことは、気づいてる?」

「まあ、いちおうはね。でも深いことはわからないかな」

「そうなんだ、てっきり気づいてないのかと思ってた」

「それは暗に僕が冷たいって言ってる?」

「そんなつもりはなかったけど、そういわれるとそうかもね」

「まあ必要なケアは朱音と春歌がしてくれてるだろうから、そこまで心配してないというのが一つ」

「なるほど」

「みんなに心配されるとかえって居づらいんじゃないかというのが一つ」

「それは……そうかもしれないわね」

「けどまあそんなことは正直些細で。結局のところ僕は、彼女自身に、自分で決めてもらいたいんだと思う」

「また難しいこというわね」

「でも、そうじゃないとしんどいと思う。どっちを選んでも」

「まあ、晴人が言いたいことをわかったわ。私は結局心配だからいろいろ口出ししちゃうと思うけど」

「ありがとう。それでいいと思うよ」

「でもあなたが望むのとは違うんじゃないの?」

「でもそれが朱音だからね。君がそうだからこそ、僕がこうでも許されてるんだろうし」

「…………そうね」

「それにしてもあれだね」

「なに?」

「お互い飲みすぎたね」

「あんただけよ」


 無事に宿へと戻ってきた二人。

 晴人は部屋に戻るや必要なタオル類をもって銭湯へと赴く。お酒も飲んだし、夜道を歩いてとても心地いい気分だしで、正直そのまま寝てしまいたい気もしたが、いかんせん午後いっぱいを狩猟につかった日である。

 翌朝またパーティで行動することを考えれば、さすがに入浴しないわけにはいかないだろう。

 似たような気分だったのか、先に帰ったはずの貴洋と和眞も部屋にはおらず、どうやら銭湯に行ったらしい。

 銭湯の脱衣所には今出てきたのだろう和眞が身体から湯気を出しながら涼んでいた。

「ああ、晴人さん。思ったよりはやかったっすね」

「いやまあミシェルさんを送ってきただけだからね。貴洋はなか?」

「そうっすね。僕が早く出てきただけなんで」

「そう、ありがとう」

「自分はちょっと涼んだら先に部屋に戻ってますね」

「あい」

 そういって晴人は浴室へと入っていく。

「おう、晴人。早かったな」

「いやまあミシェルさんを送ってきただけだからね」

「もっとゆっくりしてきても良かったのに」

「ゆっくりする理由がないんだよなあ」

「あ? 飲み会の後に送るなんていうからてっきり“そういうこと”なのかと」

「僕が“そういうこと”から縁遠いの知ってるでしょ」

「それはそう。そうなんだけども」

「なんだよ」

「ミシェル氏はお前に気があると思うんだよなあ」

「またそんなテキトーなこと言って……。どうしても僕をモテさせたいんか」

「いやいや、お前が勝手にモテてるんだよ」

「じゃあもうそれでいいや。にしたってこの世界の人と恋愛どうこうってことはないだろ」

「まあそうなっちゃうよな。エアハルト氏もかわいそうに」

「やっぱりそっちの卓はそんな感じだったんだ」

「聴く? すごかったぜ」

 そういって、飲みの場でのあれこれを面白可笑しく語る貴洋。お行儀良くしていることを期待されてたせいか、あるいはお酒のせいか、いつもより口数が多いし、声が大きい。

 そんなくだらないゴシップ的な会話を数分したあと、突然貴洋が真面目なトーンになって投げかける。

「で、何の話をしてきたの?」

「何が?」

「いや、朱音と。」

「あー、そっちが本命か」

「まあな。で、どうなの? どうせ真面目な話してたんだろ?」

「そうね。僕たちはほんとに帰れるのかな、みたいな」

「なるほど。朱音にしてはずいぶん弱気だね」

「先輩だし代表だしリーダーだしで思うところがあるんじゃない?」

「そういう解決しようがない悩みをするのにお前は最適だしな」

「僕のことなんだと思ってんのさ」

「超楽観的なやつ」

「似たようなこと朱音にも言われたよ。で、貴洋は? どう思ってるの?」

「まあ、帰るしかないからね」

「できるかどうかは関係ないと?」

「そうだね。こっちでも暮らしていけるとか、サークルの人がいるとか、そういう次元じゃなく、俺たちの家はあっちにあるし、そこだけは譲れないかな」

「その過程で、死ぬとしても?」

「ああ、死ぬとしてもだ」

「そう。貴洋らしいね」

「晴人は違うのか?」

「僕は何よりも自由を愛するからね」

「それは……どっちだ?」

「どっちだとしてもちゃんと選ぶってことだよ。ま、ふつうに帰りたいけどね」

「いずれはそういう話もするんだろうな。反対意見も出てくるだろうし」

「とはいえ今は具体的な方法というか、近い未来のことで手一杯かな」

「それもそう。実際、考えなきゃいけないこともずっと放置してるし」

「その辺のこと朱音はどう思ってるんだろ」

「いや、そこはお前から言ってやれよ」

「まあ僕の仕事だよなあ」

「俺が言うよりはいいだろ」

「そう、かもね。最近戦闘中の指示出しも春歌に任せきりだし、仕事してなさすぎかもな、僕」

「そうだそうだ、働けー」

「みんなが優秀すぎるんだよ」

「ま、日常的なことは俺らでもできるからさ、もっと長い目で見てというか、難しいことを頼むよ。朱音もたぶん、嫌とは言わないだろうし」

「とりあえず近いうちにミーティングは開くよ」

 酔ったテンションとはいえ、帰り道にあんなカッコつけたこと言っておいて、今のところ何もしていない自分を認識して恥ずかしくなる晴人。

 やらなきゃいけないことはわかってるし、どうするのがよさそうかも、何となくわかってるのだ。ただ、日々を忙しそうにする友人たちに、話を切り出すタイミングを図れていなかっただけで。

 他のパーティがどうしてるかはわからないが、目途がたったのであれば早いほうがいい。安定したようにみえる日々が、牙をむいてくる前に。

「じゃ、俺は先にあがるわ」

「僕ももう出るよ」

 とはいえ睡魔にささやかれている晴人。ここに来た日みたいに、のぼせる寸前まで考え事をする、なんてことはなく。

 友人と一緒に、仮の住まいまで戻るのだった。

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