表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超人、あるいは変化をもたらす者。  作者: えくり
序章
1/36

0.台風、あるいは始まりをもたらすもの。

 その日は、前日にも増して、とてつもない暴風雨だった。もはや例年より早いとは言えなくなった8月の台風が、河口湖を直撃しているのだ。

 外が暴風であるならば、人々は室内にとどまっているより他に選択肢がなく、内田陽人もその一人であった。サークルの夏合宿のために河口湖を訪れていた彼にとって、練習を中止させるその暴風雨がありがたいはずがなく、彼らは少し不服そうである。

 とはいえ、高校の部活であれば筋トレでもしているのだろうが、彼らは大学のサークル、めいめいに集まってゲームをするなり談笑するなりして、退屈ということはないだろう。2日3日も続いてほしくないというだけで。

「なあ貴洋、君は大ホール行かなくていいのか?」

 陽人は部屋の中で同じようにダラダラしていた友人、潮見貴洋に声をかけた。それが仲のいい友人だったからなのか、あるいは室内に貴洋しかいなかったからなのかはわからないが。いずれにせよ、スマホをいじってダラダラしているだけの時間には飽きてしまったらしい。

「俺はパスだな。あんま1年と仲良くないし。あっち行くくらいなら4年の飲みにまざりたいわ」

「それはそう。けどなあ、朱音怒るとめんどいからなあ」

「まあけっきょくここにいるのが一番よな」

 専らテニスの活動に勤しんでいる健全サークルの彼らだが、かといって雨が降れば何もしないかといえばそうではない。宿のホールでは執行代の3年生が中心になってレクリエーションが催されている。

 練習でもない暇つぶしの活動なので完全なる自由参加なのだが、1,2年生のほとんどは参加しているだろう。ひるがえって3,4年生はといえば、主催者である幹部を除けば各々自由な時間を過ごしていた。

 まあ、大学生の自由な時間といえば飲酒を伴うのが世の常で、陽人たちもそうするつもりだったのだが、何かあったときに執行代が酔っているのはまずいということで、代表である山口朱音に禁止されてしまったのだ。同期が後輩を頑張って楽しませている傍らで、言いつけを無視するのもばつが悪い。彼らは行くあてを失ってダラダラし続けるのである。

 ちなみに部屋は学年性別ごとに分かれているから、陽人としては、同じく3年男子で非幹部の貴洋と二人でいるか、他の学年の部屋を訪れるかの二択だったが、他の学年の部屋を訪れるモチベーションがあるなら、最初からレクに参加している。あるいは、陽人よりもいっそう後輩が苦手な貴洋を気遣ったのかもしれないが。

「そういや、朱音と司わかれたらしいよ」

「え、マジ? いつ?」

「期末終わってすぐだって。俺も小野さんから聞いただけだから詳しくは知らんけど」

「時期えぐ。 合宿で気まずいじゃん」

「それな。朱音からフッたらしいよ」

「じゃあ1年とか司のこと狙ってるんだろうなあ」

 退屈に風穴をあけるのはいつだってゴシップ話だと相場が決まっている。陽人と貴洋も多分に漏れずうわさ話に花を咲かせていった。大学のサークルはある程度閉鎖的だし、合宿前後ともなれば一緒にいる時間も長い。それに、少なくない大学生がサークルに出会いを求めているのである。それが一過性のものにせよ、真摯で誠実なものにせよ。

 陽人はどちらかというと自分から情報を集めないし拡散もしない。朱音たちの話も、合宿3日目でようやく知ったくらいだ。わりとゴシップには疎いほうだろう。それでもサークルで“浮かない”のは、貴洋という噂好きの友人がいるからに他ならなかった。

 そんなこんなでレクがもうすぐ終わり夕食の準備が始めるだろうか、という時間になり「それ」はおこった。

 最初は、誰もが地震かと思った。合宿所の建物全体が大きく揺れたのだ。地震の多いこの国で、それ以外の何かだと考えるのはほぼムリだろう。とても強い揺れに、台風に加えて地震なんてツイてないななんて思いつつ、一応安全のための行動をとった彼らは、通常、褒められてしかるべきだ。

 陽人と貴洋は、部屋を出て大ホールに向かった。部屋で待機するのと迷ったが、大ホールはレクの最中だ。ケガ人が出ているかもしれない。そうでなかったとしても、後輩の数と幹部の数を考えれば、朱音たちも人手が欲しいはずだ。少なくとも幹部に呼ばれるのを部屋で待っていることなど、期待されていないだろう。

 途中、4年生が集まっている部屋があったので、一応声をかけておく。何なら酔っぱらっている彼らこそ最も気を付けなければならない。

「失礼しまーす。陽人ですけど、みなさん大丈夫ですか?」

「ああ、陽人。私たちは大丈夫。台風で買い出しに行けなくて、そんな量は飲んでないし、地震でケガした人もいないよ。ありがとう」

「それは良かったです。僕たち大ホールに合流しますけど、どうします?」

「じゃあ、たちも行こうかな。4年だけ離れてても幹部は面倒だろうし」

「おけです」

 部屋に散らかっている空き缶の量は、そんなに飲んでないといえるか微妙だったが、彼らが大丈夫というなら大丈夫だろう。そう判断して陽人たちは一緒に大ホールへと向かう。

 4年生たちは足取りはしっかりしているものの、顔赤いの恥ずかしいだとか、酒が入った今なら1年とも仲良くなれる気がするだとか、にぎやかに話している。大きな地震が起きた直後とは思えないほど楽しそうで、陽人と貴洋は苦笑いをした。

「おーい、朱音。とりあえず来たぞ」

 大ホールに着いた陽人は扉をノックして中に呼びかける。ふつう地震が生じたら扉を開けっぱなしにして逃げ道を確保するべきなんだが、そこまで頭が回らなかったのだろうか。

 声をかけて少ししても反応がない。パニックになっていないのはいいことだが、もう少ししゃべり声なり、指示の声なりが聞こえてもよさそうなものだが……、そこまで考えて陽人は焦る。声が出せない状態にあるのだとしたら。

「おい、大丈夫か」

 勢いよく扉をあけると、そこには奇妙な光景が広がっていた。

「え? なにこの光。え? 誰もいないし」

 地面にうっすらと光る幾何学模様が描かれていて、そこには誰もいなかった。

 時間的にはみんないるはずだし、建物の構造的にそんな大人数とすれ違える場所はなかったと思うが。それに室内にはものがほとんどないから下敷きになっているとも思えない。ここは2階だから窓から外に出たとも考えにくいが……。

 陽人が状況に困惑していると、後ろにいた貴洋たちが続々となかに入っていく。

「なにこれ、魔法陣じゃん」

「朱音たちはどんなレクをしてたんだ」

「予算……」

 そして、貴洋と4年生たちが部屋の真ん中らへんまで歩くと、その姿が消えてしまった。

「え? 消えた? え?」

 陽人にはわけがわからなかった。部屋に描かれた魔法陣、消えた友人たち、そしてその魔法陣の光もまた徐々に弱くなっていった。

 陽人に残された選択肢は二つ。このまま部屋の外にいて一人残されるか、急いで部屋の真ん中まで行って彼らの後を追うか。

「いやあ、一人残されてもね」

 いうまでもなく、後者を選んだのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ