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掌編小説集『掌心』  作者: 泡月響怜


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弾丸

 一発だけの丸い魔弾が弾倉を上がり、薬室に乗り込む。引き金が引かれ小規模な爆発と共に的礫たる魔弾は大気を破り一点目掛けて空間を滑り出した。

魔弾は瞬く間に音速を超えた。人間には知覚できない速度で人混みの間をすいすい縫うように抜けていく。大地も見えない。雲も見逃した。風さえ横を突っ切っても気づくことがない。公園の古い枯れかけた木の下にぽつんと置かれているベンチに姿勢よく座る猫だけがつまらないものを見るように魔弾を追っていた。


 魔弾はグングン進んでいく。荘厳な滝が流れ落ちる谷を越え、雄大な自然を抱える山を越え、様々な生物の憩いの場となっている湖を超えた。既に数千キロメートルは進んでいる。されど速度は落ちるどころか今もなお加速し続けている。どこに向かいどこに当たるのか魔弾は知っていた。弾倉が、銃の手入れをした人間が、発砲した射手が、関わったすべての人間が知っていた。但しそれぞれの思惑は違う。


あるものは魔弾に幼子を叱る愛を持たせた。あるものは懺悔の念を押し付けた。あるものは歓喜の思いを共有した。実にさまざまな想いを魔弾は背負っている。想いが爆発し、想いが推進力を与え、想いがどこに行くべきかを示した。魔弾には何の迷いもない。ただ背負った想いを運び、届けることだけが己の使命だと理解している。

只管飛ぶだけだった。


 想いは全てたった一人の女性に向けられている。魔弾は彼女が幽明異境に移り住むことを止めるために放たれたのだ。魔弾は常に疑問を抱いていた。どうしてこれだけの想いが寄せられているにもかかわらず消えてしまいそうになるのか。そうして気づく、単純に伝わっていないのだ。受け入れられていないのだ。小さなポストにタンスが入れられようとしている。そんな状態なのだと気づいた。今になって漸く自分が飛んでいる意義を本当の意味で理解した。よくよく見れば想いの一つ一つが慈愛に満ちていることが見て取れる。懺悔は今の取らざるを得なかった行動に対してのものなのだ。


伝わらないことを伝えるには無理矢理にでも直接納得させる他ない。その手段が自分なのだ。想いで作られた自分は彼女が愛おしく思えて堪らない。出来る限り強く、静かに優しくしたい。想いと魔弾が真に一体となった。


 何も知らぬ北東を向いた彼女が黄昏れている。酷くやつれそれでも作り笑いを浮かべて穏やかに振る舞う姿が痛々しい。早く解放してやらねば。そして今、遥か上空から飛来する慈悲に溢れた祈りの弾丸が彼女の心の奥深くに叩き穿たれた。

ただ一人に捧げる。

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