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掌編小説集『掌心』  作者: 泡月響怜


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4/7

群青

 村に代々伝わる話があるんだ。

それは僕がまだ鼻水を垂らしたまま走り回っていた時、祖母に教えられた。

曰く、「空は神の使いである。」ということなんだ。最初聞いた時はよくわからなかったのだけど、それから成人し結婚して少し経ったときに祖母が危篤という知らせが届いて駆けつけた。そのときに明日には空に飛び立つであろう祖母が僕を一目見て、初めて話すように例の話を口にした。その頃はもう認知症が進行していたから祖母はあの時に戻っていたのだろう。


今度こそちゃんと聞かなければならないと注視して喰らいつくように静かに話を聞いた。祖母の口調はたどたどしかったものの内容はきちんと纏められていて歴史の長さを感じさせられたよ。


話は二部構成になっていて一部は空について、二部は空と人間の関係についてだった。祖母が言うには空は神の使いで、その姿は鳥であるらしい。どうして鳥だとわかるのかと言うと、この村では数百年に一度神の使いの姿を視認できる者が生まれるらしい。その者の話によると鳥らしく、後に現れるものも鳥だと言うから間違いないと返された。


そういうものなのかと、取り敢えずは受け入れて続きを聞くと、祖母は一度深呼吸をしてから話し始めた。

 空の体は青色、嘴の先から尾羽の一枚まで真っ青らしい。一羽で行動することはなく必ず数えることもできないような大きな群れで行動しているようだ。体の色は歳を重ねるにつれて少しずつ色が抜けて白色に近づいていき最後は透明になって消えてしまう。体の色だけを僕たちは見ることが出来て、それが「青空」で、「雲」なんだと、そう教えられた。


一息ついた祖母を見ると少女時代に戻ったかのように目をキラキラとさせベッド横の窓から目には見えない大群を見つめている。

その姿が心なしか話し始めた時よりも背筋が伸び血色が良くなったように思えて知らずに口角が緩んでいた。しばらくして私が話を聞く準備ができたと気づくと祖母は居住まいを正して浮き足だった雰囲気が嘘だったかのように空気が張り詰めた。


時代は数十年前に遡る。ちょうど公害が問題化してきた1950年代くらいの出来事らしかった。人間による工場の排気ガスによって「鳥」が大量死したことに起因して、空が真っ黒に染まり日の光を遮ってしまって人々が狂乱した。こうした自業自得の人間の振る舞いを見兼ねた神が当時使いを見ることのできた者に天啓を授け、国に事態を知らせたことによって収束したという。それ以来そのようなことが二度と起こらぬよう徹底して防止に努め今日まで続けてきたのだと、そう締め括って話を終えた。


話し終えた祖母の顔は上気して満足そうに見える。しかし今度は目をキラキラとさせることもなく苦々しげに一点を見つめていた。

「二度と繰り返してはいけない。繰り返せば次は天罰が下る」

そう言って元の生気の感じられない青い顔に戻ると外で遊んでこいと急かして僕は部屋から追い出された。


それからしばらくして祖母は息を引き取った。最期は外を見ながら笑っていたそうだ。きっと祖母にも鳥が見えたのだろう。

そしてほぼ同時期に僕の息子が生まれた。青く透き通った目をした子だ。これが鳥を見ることのできる者の特徴なんだろう。よく空を眺めて笑っている。君にはどう見えているんだろうね。この何処までも広がった群青の世界が。

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