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What happens in Vegas stays in Vegas.(旅の恥は搔き捨て)

作者: たみすけ

僕はいつも、電車通勤、大阪環状線に乗って通勤している。

大阪環状線は、その名の通り大阪の中心部をぐるりと回る路線で、便利さも相まって利用客も多い。


先日、とある平日の18時。一日の仕事に疲れた僕は、大阪駅に着くと同時に環状線のホームへ向かった。

よく、通勤ラッシュの話題になると東京が取り上げられるが、関西の通勤ラッシュも負けず劣らず人が多く、人波に流れて歩いていけば気がつけば環状線のホームまでたどり着いている、なんてことはザラだ。


この日もいつものようにぐったりしながらホームに立っていると、後ろから突然「Hey‼」と呼びかける声が聞こえた。


後ろを振り返ると、短髪で長身、サングラスをかけた一人の男性が立っている。右手にはスマホをくっつけた自撮り棒。見るからに欧米の外国人だ。


ホームは混雑していたが、完全に目が合った。僕に向かって話しかけているらしい。

彼は続けてこう言った。


「アノー、テンノウジ、イキタイ!」

「て、天王寺?」

「Yes‼」


今更だが、僕は街を歩いていると道を聞かれることがとても多い。

特に繁華街を歩いていると旅行者や他所から来た人がどんどん僕の方へやってくる。そんなに聞きやすい顔をしているのだろうか。

今回の彼は天王寺に行きたいらしい。


大阪駅から天王寺に環状線で向かうには、内回り行きの電車に乗ればいい。

地下鉄に比べると時間もかかるが、乗り換えなしで乗ってたら着くからちょうどいいかな。


僕はたどたどしいカタコト英語でこう伝える。

「ループトレイン、ナンバー2!バウンドフォー天王寺、バイ西九条」


合っているかはわからない。伝わればそれでいい。


欧米サングラスの彼は「No.2?」と尋ねた。

「いえす」僕は答える。


「Oh! Thank you so much!」


どうやら理解してくれたらしい。

そこから彼は僕に自撮り棒を向けて、嬉しそうにペラペラと話してくれた。

「僕はカリフォルニアから来たんだ」

「日本が大好きで、いつか旅行に来てみたかった。今回夢が叶ったんだよ」

「昨日まで東京と京都にいた。街並みがとても素晴らしかった。そこでもたくさんの人が僕を助けてくれた。日本人はとても優しくてアメイジングだ」

僕は相槌を打つ間もなく聞いていた。最後に僕に向けている自撮り棒のことを聞いた。



「これ?今Youtubeでライブ配信しているんだよ」

こらっ!勝手に撮って配信すな!


センキューセンキューと礼を言いながら、彼は内回りのホームに到着した大和路快速に乗り込んでいった。

それを見て僕はあっ、と声を出す。

大和路快速は天王寺には停車するが、天王寺を通り過ぎるとそのまま環状線を離れて奈良へ行ってしまう。彼はちゃんと降りられるのだろうか。


まぁいいや。明るい彼ならなんとかなるだろう。

また奈良に着いたときにはさっきの調子で言うんだろうな。


「アノー、テンノウジ、イキタイ!」と。


彼とは反対の外回り電車に乗り込んだ僕の足取りは、

なぜかさっきより軽かった。

ー完ー


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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルが気になって読ませていただきました。ベガスで起こったことはベガスに置いてくる..おしゃれな言い回しですよね。ふんわりした物語ですが、読後感が温かでよかったです。  ありがとうございま…
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