独ソウ
独走
日が落ちる。
赤く燃える夕日よりも、それが照らす反対側の空が好きだ。
オレンジ色の雲と青色の空の間にピンク色が現れる違和感に神秘を感じる。
スケッチブックを取り出した僕は早速その空を緑で塗る。
僕には家族がいない。
そして周りと違う行動ばかりとるため当然友達もいない。
最近は過ごしている孤児院をこっそりと抜け出して絵を描くのがマイブームだ。
地面に生えた芝をむしり紙に擦り付ける。
空はこれで良し、地面も昨晩の雨でドロついた土を擦り付けて塗り終えた。
しかし空を塗る肝心のピンク色がない。
さて、一体どうしようか。
…。
そういえば聞いたことがある、赤と白を混ぜればピンク色になると。
赤は血で代用が出来そうだが白色を代用できるものは思い浮かばない。
「…。」
こうして、白色を探して絵を完成させるための旅が始まった。
翌日の17時日の入りの1時間前。
「行くよ、アルタイル」
ワン!っと威勢の良い返事を返した犬は、僕の飼い犬だ。
チワワやプードルなどが入り混じったいわゆる雑種犬、先週たまたま見かけて残り物のチキンをあげてから僕についてくるようになった。
首輪なんてないが、アルタイルはしっかり後ろをついてくる。
ふと彼を見た時、その尻尾は絵を描くのに使えるのでは?と感じた。
ふわふわとした素敵な尻尾で描く絵はぜったい素敵になるに決まっている。
そんなことを考えている僕をアルタイルは渋い顔でみつめていた。
しばらく歩くと灯台が現れた。
煉瓦が敷き詰められた円柱のような形で螺旋階段の上まで登ると見える景色は絶景である。
絵を描くためによく来るのだが、その塔を見上げてあることに気がついた。
塔のてっぺんに停まっている鳥が白い。
あの鳥を捕まえてすり潰して紙に擦り付ければ白色が完成する筈だ。
雲を地面で描いて地面も地面で描く。
そして空を鳥と自分の血液を混ぜて塗る。
空にあるものと自分を交えて描く絵。
なんだか、とてもロマンチックな気がしてきた。
「待て」
アルタイルを塔の下に座らせて螺旋階段を駆け上がる。
いち、に、さん…
数えるよりも早く駆け上がる。
駆け上がって、駆け上がって、上に向かって助走をつけて、
飛んだ。
羽が生えたように軽やかに。
すかさず必死に手を伸ばすと微かに翼を掴めた気がした。
その翼を掴み取って、大事に抱えて、夢を膨らませながら、
落ちた。
ぐしゃりと音を立てた体、腕の関節は1つ増えたらしい。
「…。」
誤算だった。
鳥を捕まえた後のことを考えていなかった。
「…。」
なんだか、痛いというより気持ち悪い、
ドロドロした血液が僕の耳の裏をさわる。
下で寝ていたアルタイルが近寄ってきた。
「アルタイル頼むよ、僕をお食べ、死ぬなら君に…」
アルタイルは無言で僕を無茶房食う。
猫とは違い犬は一度食べ始めると止まらない。
そうして少年から出た大量の血と手に握りしめた羽根は混ざり合って見事なピンク色を作り出した。
犬は尻尾にそのピンク色をつける。
そして少年の抱えているスケッチブックを真っ赤な口で捲り、ピンク色の尻尾で余白を染め上げる。
独創
空の色だけは周りと見え方が違う