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わたくしはこの国を見限らせていただきますわ

「不貞のみならず、このわたくしをっ!政を行わせるためだけの便利な道具としかみなさない王太子などに、誰が嫁ぐものですかっ!!」


叫び終えた後、踏みつけたヴェールを拾いあげ、ペンダントと共にユリアーナに投げつけた。


「きゃっ!」


避けることも出来ず、ユリアーナはそれらをとっさに手で掴んだ。


「貴女がどういうつもりで王太子殿下との間に子を儲けたのか、わたくしは知りません。王太子殿下の言う通り『真実の愛』で結ばれた故のことなのか、それとも殿下の命令を拒絶できなかったのか……。ただ、貴女は貴女の責任を取りなさい。……ああ、誤解のないように言っておくけれど、王家に対する責任ではないわ。その腹に宿る子に対しての責任よ。俯いていればいつか誰かが助けてくれるなんて思わないで。自分の手で、自身の力でその子を守りなさい。生まれてくる子に罪はない。わたくしが貴女にかける言葉はそれだけよ。そして……」


リーゼロッテはジェレミーを振り返る。


「わたくしの大事な家族は返していただきます。それから……このエッケルシュタイン王国がどうなろうとわたくし、知ったことではございません。滅ぶも発展させるもご随意に。この国に対する責任は、国王陛下、王妃殿下並びに王太子殿下のものでしょう。わたくしはこの国を見限らせていただきますわ」


コツコツと足音を響かせて、リーゼロッテは祭壇から下りる。まっすぐに前を見つめて。

犇めき合っていた大勢の列席者は、リーゼロッテの気迫に押されたのか、さっと左右二手に分かれた。祭壇から聖堂の入り口まで、真っすぐに道が出来る。


「と、捕らえよっ!誰かリーゼロッテ・フォン・ハイデルベルグを捕まえるのだっ!」


国王が叫ぶが、誰一人として動く者はいなかった。


コツコツと、リーゼロッテの足音だけが響き、そして扉の前でその足音が止まった。


「ふふっ。《録画》魔法だけしか使えないわけはないでしょう?《固定》魔法を展開させていただきました。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、三日ほど動けなくしております。ゆったりと、そのままでお過ごしくださいませね。わたくしに対する扱い……、そしてわたくしの家族を拘束し、わたくしを脅したことを、その動けない体で反省すればよろしいのですわ。……ああ、他国の皆様に対してはそのような魔道は展開しておりません。せっかくお越しいただいたというのに大変失礼ですが、全ての罪は其処にいる国王、王妃、王太子のものです。父と母が人質などになっていなければ、きちんと事前にご説明を差し上げることが出来たのですが……。それが出来ずにお時間を割いてしまったことは、深くお詫び申し上げます」


リーゼロッテが頭を下げると同時に、聖堂の扉が開かれた。そしてその扉の向こうには、リーゼロッテの父や母達がいた。


「お父様お母様……ご不便をおかけして申し訳ありませんでした」

「良いのだよ、リーゼ。お前が無事で良かった」

「ええ……。それよりこれからどうしたら……」

「大丈夫ですわ、お父様お母様。……すぐに迎えが参ります」


神殿を背にしたリーゼロッテがすっと空に向かって両手を掲げた。


その手につられたように、リーゼロッテの父母達や、「せめてその姿を一目見たい」と考えた一般市民たち、そして警備の者達が一斉に空を見上げた。


雲一つない晴れ渡った空に、何かが飛んでいた。


「あれは……」

「ど、ドラ……ゴン……?」


一匹の巨大なドラゴンが神殿目掛けて……いや、リーゼロッテを目掛けて飛来してきた。そのドラゴンの後に、何頭もの飛竜の群れが続き、ゆっくりと神殿へと降り立ってくる。

リーゼロッテを見ようと集まっていた群衆は、ドラゴンたちの飛来に慌てて逃げて行った。


「ドレイク様っ!」

「……待たせたか?」


ドラゴン……ではなく、がっしりとした体躯を持つ青年が、リーゼロッテの伸ばした腕を掴み、そして、そのままリーゼロッテを引き寄せた。


「いいえ、ちょうど清算が済んだところでございますわ。それに、ドレイク様の部下の皆様方にわたくしの両親や使用人たち……皆をお助けいただきました」

「そうか……。ではもう後顧の憂いは無いな?」

「はい。このエッケルシュタイン王国にもう用はございません」

「では……、俺の花嫁としてベオグラードに来てもらえるな?」

「ええ、もちろん喜んでっ!」


リーゼロッテは頬を薔薇色に染めながらもはっきりと頷いた。そして神に祈るように両手を組み、膝を折って、誓いの言葉を告げる。


「ドレイク・リンドウィルム・ベオグラード陛下。わたくし、リーゼロッテ・フォン・ハイデルベルグは、わたくしの魂、わたくしの発する言葉、わたくしの行う行動……その全てをもって、貴方様に生涯の忠誠を示し続けます」


リーゼロッテの誓いに、ドレイクは「ふっ」と笑って、リーゼロッテを抱き上げた。


「愛を誓ってくれるのではなく、忠誠を誓うのか?」

「まあっ!昨今『真実の愛』など薄っぺらい『偽物の愛』の代名詞のように使われているでしょう?そんな幻想のようなものを、わたくし、ドレイク様に誓いたくはございませんわ。もっと確固たる絆を、わたくしはドレイク様に捧げたいのですが……、丁度良い言葉が見つからなくて……」

「それで『忠誠』か?」


ドレイクはくすりと笑った。


「ええ、ドレイク様でしたら『愛』をどのような言葉に置き換えますか?」


ドレイクは少しだけ考え、そして答えた。


「そうだな……。『執着』かな?俺はリーゼが他国の王太子の婚約者であろうと、奪ってでもリーゼが欲しかった。幸いリーゼの元婚約者は阿呆だったからな。奪うに良心の咎めなど感じなかったし……それに、俺は半分ドラゴンだ。人の法などドラゴンには無関係だろうよ」

「では、ドレイク様。……『愛』以上の、眩暈がするほどの『執着』をわたくしにお与えくださいませ。わたくしは貴方様からの『執着』を『忠誠』に変え、この生涯、お傍にお仕えいたしますわ」


真摯に告げるリーゼロッテに、ドレイクは苦笑した。


「ま……言葉選びはどれでもいい。ただ、俺がリーゼを愛していること……、リーゼを欲していることを、生涯、いや、未来永劫忘れないでくれ」


そう言ってドレイクはリーゼロッテの額にくちづけた。


炎のように熱い印が額に宿ったようで、リーゼロッテはこれ以上もない蕩けるような瞳をドレイクに向ける。


「さて……これ以上はこの場ではなく、我が国に戻ってからにしよう」


ドレイクはその身をドラゴンに戻すとその背にリーゼロッテを乗せた。

ドレイクの部下達……リーゼロッテの両親たちを捕らえられていた牢から連れ出した者たちも次々とその姿をドラゴンに変え、リーゼロッテの両親たちをその背に乗せた。


数十という数のドラゴンがエッケルシュタイン王国から飛び去っていった。




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