みかんのふる日 初夏
『今日は朝からみかんが降っていますが、それもお昼ころには止みそうです』
円菜いちごはテレビで天気予報を確認すると、スクール水着とバスタオルを通学用サブバッグに忍ばせて、家を出た。
みかんが降っているので、傘を差して登校する。
いちごが生まれ育ったこの町では、たまにみかんが降る。
空を見ると良い天気なのだが、良い天気であってもみかんは降る。
もちろん、雨とみかんがいっしょに降ってくる日もある。
日に日に夏が近づいてきており、太陽が眩しい。
まだ朝夕は涼しくて過ごしやすいが、日中は汗ばむ程度に暑くなる日が増えた。
「いちごー、おはよー♪」
「おはよう、りんご♪」
通学路で、同じクラスの木荷成りんごと合流した。
りんごが差している傘の先端に、小振りのみかんがひとつ刺さっていた。降ってきたみかんがたまたま刺さったのだろうが、面白いのでいちごはそれを黙っておいた。
「最近、みかんよく降るね」
「ねー。毎日暑いし、みかんは降るし。これだけ降ると、今日は午後から『みかん集め』になるやろなぁ」
みかん集め。みかんが大量に降ったあとは、あちこちに落ちているみかんを町のみんなで拾い集める。
降ってきたみかんの大半は町の中心部にある、みかん工場に勝手に転がっていくのだが、一度にたくさんのみかんが降るとどうしても工場に回収されない迷子のみかんが出てくる。
それをしっかり回収しないと、後で町がカビだらけになってしまうのだ。
朝の予報通り、長く降り続いたみかんは昼に止んだ。
午後の授業がすべて中止になり、いちごたちは給食を食べたあと、学校でみかん集めをすることになった。
木に引っ掛かったみかん、屋上に降ったみかん、ちょっとしたすき間に嵌まってしまったみかんなどを、生徒と教師がいっしょになって拾い集める。
集めたみかんは学校のプールに入れておき、後でみかん回収車にまとめて工場まで持っていってもらう。
学校周辺のみかんを一通り集めるとみかん集めは終わり、ほとんどの生徒は下校した。
しかしいちごたち数名の生徒は学校に残り、プールの脱衣所に行って水着に着替える。
りんごは朝、家で水着を着てきたらしく、制服を脱ぎ捨ててさっさと脱衣所から出ていってしまった。
(私も次からそうしよう)と思いながら、いちごも急いで着替えた。
プールはみかんで溢れていた。
「いちごー♪こっちこっち」
りんごが、みかんのプールのなかで気持ち良さそうに浮いている。
いちごもプールに飛び込んだ。
降ってきたばかりのみかんたちは空の上でよく冷やされており、ひんやりしていて気持ち良い。
ここ最近、まだ梅雨入り前だというのに真夏日が連発していたため、彼女たちはみかんのプールに涼を求めた。
空を見上げれば、どこまでも広がる青い空と白い雲。
周りを見渡せば、太陽の光を浴びてキラキラ輝くみかんと同級生たち。
まだ今は初夏。本格的に暑くなる夏は、もうちょっと先。