都合の良い関係
― 私は先輩の都合の良い恋人…
たった、1行だけの、短い文で呼び出される関係。
…
先輩には、とっても綺麗で男女問わずに憧れてしまう恋人がいました。
私はそんな彼女の1番仲のいい友人でした。
最初は、彼女の恋人という目でしか見ておらず、私には関係なんてないと思っていました。
でも、ある日を境に、私の彼を見る目は変わってしまいました。
…
あれは、夏休みが始まる少し前のことでした、バイト先のコンビニから、帰宅する途中でした。
見覚えのある横顔を道行く人の中からみつけました、それが先輩でした、隣にいるのは勿論、彼女かなと思い声を掛けようとしました、でも隣にいたのは、全く知らない女の人でした。
私は見て見ぬ振りをして、その場から逃げようとしました、見てはいけないとわかったから…。
でも、もう遅かったのです。
次の日、先輩が私に声を掛けてきました、昨日見た事は忘れて欲しい、彼女には言わないで欲しいと…
勿論、私は言うつもりは無かったし、言って友人を傷つけるのは嫌だったから「言いません」と答えました。
先輩は「ありがとう」そう言って、戻っていきました。
でも、別の日、またこの前とは違う女の子と一緒にいました。
その光景を何度も、何度も私は見かけました。
流石に、気になったので、彼女に聞いてみました。
「先輩と最近どう?」と…
すると彼女はびっくりした顔の後
「なんだか、最近忙しいみたい、バイト始めたらしいよ」と笑顔で言いました。
どうしたの?と聞かれたけど、なんでもないよと答えました。
じゃぁ、私が見たアレは、バイトなの?
疑問は消えないけど、私はそう思い、忘れる事にしました。
そして、夏休みが始まり、暫くした頃、彼女が家を訪ねてきました。
遊ぶ約束などしてなく、急に…
何か思い詰めた、そんな表情の彼女、どうしたの?と尋ねると、小さな声で、一言だけ言いました…
「先輩、他に女がいるみたいなの」
私は、ついにバレたのか…そう思いました。
理由を聞くと、バイトの帰りに偶然見かけてしまったと話してくれました。
「先輩には聞いたの?」
「聞いてない、聞けない怖くて…」
今にも、泣きそうなほどに小さな声で私の問いに答える。
暫くの沈黙の後、彼女は話し始める
「1ヶ月くらい前から、あんまり上手くいってなかったの」
私が先輩を見かけたのもそのくらいだった…
「最初はね、バイトを始めたのがキッカケかな?そう思ったのよ、でも違った、段々と、連絡は遅くなるし、会う回数もすごく減ったの…」
彼女の瞳から涙が零れ始めた…
「でも違ったの…1週間くらい前に会った時に、チラッとスマホを覗いたら、女の子からの連絡が沢山あった…バイトじゃなくて、他に沢山女の子がいたみたい…」
私は、知った上で友人に言わなかった…
彼女を傷つけたくなかった、なんてあとから着けた言い訳に過ぎない…、知っていたのに黙っていた私も同罪だ…
上手く言葉が出てこなかった…
「ねぇ、私どうしたらいいかな…」
彼女の瞳からは涙が零れ落ちて、真っ直ぐ私を見つめていた。
私はやっとの思いで口を開いた
「先輩に話聞いてみよう?なにか理由があるのかもしれない」
理由なんてものは無いのを分かっているはずなのに、私はそう答えるしか出来なかった…
翌日、彼女は先輩に聞いたらしい、帰ってきた言葉は、私の想像とは違うものだった…
だって、彼女はとても笑顔で、勘違いだったみたいと話すから…
私は、先輩に直接聞くことにした…
呼び出し、問いただすと、彼は想像しないことを口にする。
アレはバイトだと、彼女の誕生日にプレゼントを買いたくて大金を集めている、そう話すのだ…
きっと先輩は彼女にもそう話したのだろう…
それ以降も街で先輩をみかけることは増えた、何度も何度も…
彼女も、もうあまり気にしていないようだった…
ある日、私が友人に誘われ、バーでお酒を呑んでいると、先輩が入ってきた、最初は気づかない振りをしてやり過ごそうとした、でも先輩が気づいてしまった…。
こっちに来て、「元気?」そう声をかけてきた…
私は「お久しぶりです」と返した、すると、先輩は1枚の紙を差し出した。
「今度、一緒に飲も、聞いて欲しい話がある。都合いい時連絡して」そう言い残して、元の席に戻り、一緒にいた人と店を出た…
渡された紙は真っ白で、真ん中に、IDが書かれていた。
私は連絡する気なんてなかったし、先輩のことは許せなかった…
でも、気付いたら、連絡していた…
「連絡待ってたよ、次の火曜日、時計塔の前で20時」
簡潔に書かれた文字、たったそれだけ。
私は向かった…
そこに先輩はいた…時間前、本当に居た
「おまたせしました」そう言うと
「来てくれてありがとう、じゃあ、行こうか」と歩き出す。
個室のある居酒屋に行き、先輩の話を聞いた。
全然、大した話じゃなかった、くだらない話。
でも、私は聞いてしまった、「なんで私を呼んだの?」と
先輩は驚いたがこう言った「君が気になる」と
友達の彼氏で、女遊びの激しい嘘つき、そんな先輩
私の何が気になるのか分からなかった…
でも、ひとつ言えることは、私も先輩が好きだったという事…
気づいた時には友人の彼氏で、手の届かない存在になってしまったから、心に蓋をしていた…
だから、先輩の話にのった…「私もです」
そこからは簡単だった…
呼ばれたら行く。そういう関係。
私は友人と上手く付き合いながら、先輩の都合のいい恋人になった。
決して、これ以上になることは無い、呼ばれた時だけ愛される、呼ばれなければただの先輩後輩、友人の彼氏。
いつまで、こんな関係が続くんだろう。
―――― 「好きになんて、ならなきゃよかった。」
私の頬に何かが触れた…。
後味悪いやつが書いてみたかった。