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世界を壊したいほど君を愛してる  作者: 音無砂月


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20.狂った愛が崩壊させたのは私を閉じ込める檻だった

「どうして、こんなに穏やかなの」

森の奥には強力な魔物がいるはずだ。だから私を森に捨てた騎士も長居せずにさっさと行ってしまった。

あの騎士の実力では一人で強力な魔物を討伐することは不可能だからだ。

自分の実力を知っていることは評価に値すると心の中で悪態をつきながらも私の心は困惑だらけだった。

先程から魔物に出くわさないのだ。

「何だか、不気味だわ」

私は馬車の轍を辿りながら早く森を抜けようと足を早めた。

その途中で壊れた馬車とおびただしい血が地面に染み込んだ跡があった。

「・・・・・・私が乗せられた馬車」

騎士の死体は無い。

地面に染み込んだ血の量を考えるに逃げられたとは考えにくい。それに騎士一人分の血のはずだから魔物から上手く生き延びられたとしても持って数分の命だろう。

死体は恐らく、巣に持ち帰られた。

「早く森を抜けよう」

騎士をやった魔物が戻って来ないとも限らない。それにエーベルハルトがいつ戻るか分からない。できれば彼が戻る前に合流したい。


***


「・・・・・な、に」

何とか森を抜けると王城から黒煙が出ていた。

もし見つかったら逮捕されるかもしれないという思いはあったけど、それでも確かめずにはいられなかった。

なぜかそこに向かわなくてはならないという思いがあり、私は王城に走った。

門番の死体が二つ、王城の前に置かれていた。

彼らの死体だけではない。王城にはたくさんの死体が転がっていた。生きていても、かろうじてという状態のようで追放された私のことを気にしている余裕はなさそうだ。

何が起きたのかまるで分からない。今朝まで何の問題もなかったのに。

「・・・・・聖女様」

視線を向けると怪我をした騎士が縋るように私を見てきた。彼の顔には見覚えがあった。いつも悪態をついていた。魔物討伐の時も私を全面に立たせて、スラム出身の私が貴族の騎士の盾になるのは当然だと恥ずかしげもなく言っていた。

「聖女様、助けてくれ」

彼は足を怪我していた。皮膚が抉れて、骨まで見えている。聖女の力で完治させない限り、彼の騎士生命は終わりだろう。

彼の言葉で私に気がついた騎士たちが私に縋ってくる。

「聖女様、治療を」

「聖女様、助けてくれ」

「痛い、痛いよ、早く治してくれよ、聖女様」

こんな騎士たちは初めて見た。

思えば、彼らはいつも安全な場所で討伐に参加していた。騎士でも貴族の子息だ。お飾りに近かった。ここまでの大怪我を負ったことがないから痛みに対する耐性がないのだろう。

これだけの大怪我をこれだけの人数を治すとなるとどれだけの痛みに私は耐えなければならないのだろうか。

「聖女様?」

「・・・・・」

耐えなくてはいけないのか?

私は今日、用済みだとばかりに森に捨てられた。武器も持たされずに。それがどんな結果を生むか魔物討伐としてさんざん森に入ってきた騎士なら分かるはずだ。

私が今、生きてここにいるのは運が良かっただけだ。

「聖女様、治療を」

「聖女様、助けてくれ」

助けなくてはいけないの?自分を利用し、殺そうとする相手を。なぜ?私が聖女だから?

「リズ」

心がどす黒く染まっていきそうになる時、甘く、優しく響く声に涙が溢れそうになった。

私をそう呼ぶ人はこの世でたった一人。彼しかいなかった。

「・・・・・・エーベルハルト」

でもその彼は恐らくこの状況を作り上げた人なのだろう。

「聞く必要なんてありません」

彼はいつものように微笑む。まるでこの状況など見えていないかのように。

「リズ、他人の為にあなたが何かする必要なんてありません」

彼の手が私の頬に触れる。氷のように冷たい手だった。彼の心もこの手のように冷たく凍ってしまったのだろうか。

「エーベルハルト、これはあなたが?」

「あなたを苦しめるだけの国など必要ありません。けれどあなたがこの国に拘るのなら滅ぼしてしまいましょう。そうすれば、あなたを捕らえるものは何もなくなる。そうすればあなたは私だけを見てくれるでしょう」

エーベルハルトは優しい人だった。とても優しい人だった。

「私からあなたを奪うものはなんであれ許しません。そしてこの国は私からあなたを奪った。滅ぶのは当然の罰です」

そんな彼を私が狂わせてしまった。

私が聖女でなければ、貴族に見つからなければ、彼の前からいなくなったりしなければ今も彼は変わらずに優しいままでいられたのだろうか。

「愛しています、リズ。私たちが一緒になれる場所に行きましょう。何も心配はいりませんよ。あなたを苦しめるもの、あなたを不安にさせるもの。全て私が排除しますから。二人でたくさん愛し合って、幸せになりましょう」

そう言って彼は私を抱きしめる。



神様、もし彼の行いが地獄に落ちる物であるのならば私も一緒に地獄へ行きます。

彼の罪は私の罪です。

だから共に地獄へ行き、その罰を受けます。

だから神様、どうか今は見逃してください。

この世で彼の望む世界で彼の望む幸せを手にすることをお許しください。

手前勝手な言い分であることは重々承知しています。

それでも、どうか神様。この不遇な人を生きている間だけはお救いください。


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