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1.スラム出身の聖女

「ブルーローズ、咲き誇れ」

魔物の頭上を突き刺し、青い薔薇がついてレイピアにそう命じるとレイピアにまとわりついていた茨が意志を持った生き物のように動き、魔物を捕らえ、青い薔薇が咲く。

苦しみもがいていた魔物はやがてその薔薇に命を吸い取られて死んだ。

私の名前はマリアローズ・ダーウィン。スラム出身だけど、私が国に一人いれば良い方だと言われている聖属性の魔法を使えた為、十二歳の時に母親から無理やり引き離されてダーウィン公爵家の養女になった。

聖属性の魔法は魔物に汚された土地を浄化したり、怪我を治すことができる。そのせいか、聖属性の魔法を使える女性を聖女、男性は聖人と呼ばれる。

「さすがは聖女様だ」

「ああ、美しい」

「聖女様、怪我人の手当てをお願いします」

「分かりました」

先ほどの戦いでかなりの怪我人が出た。私は重傷者順に治療魔法をかけていく。

「っ」

治療魔法は行使すると相手が感じている痛みを伝えてくる。身体中に走る痛みに耐えて立ち上がろうとした時、治療する相手が多過ぎたせいで足元がぐらついた。

「大丈夫ですか?」

倒れそうになった私を受け止めてくれたのはとても美しい男性だった。

灰色の髪に薄水色の瞳、私はこの男性を知っている。

「・・・・・ええ。ありがとうございます。あの、あなたは」

「エーベルハルト・ガートラントと言います」

子供の頃、まだスラムの薄汚い子供だった時に私は彼と何度も会っていた。いつも一人だった私の唯一の話し相手で、私の初恋の人。住む世界が違うし、いつかはさよならしてもう二度と会うことのなくなる人だと思っていた。まさかこんな形で会うことになるなんて。

私のこと、覚えているだろうか。

「どうかしましたか?」

「・・・・・いいえ、何でもありませんわ」

確かめるのはやめておこう。

きっと忘れている。覚えているはずがない。だって、もう何年も前のことだもの。あんな薄汚いスラムの子供のことなんて覚えているはずがない。

「聖女様、浄化魔法をかけてください」

「はい」

私は一緒に来ていた騎士団の指示を実行するべく急いで彼から離れた。その為、彼の澱んだ目が私をずっと見ていたことも彼の呟きにも気づかなかった。


「やっと、見つけた。やっと会えた。リズ。私の唯一。私だけのリズ」


私は辺り一体に浄化魔法をかけた。

魔物が出没した場所は魔物が放つ瘴気のせいで作物が育たなくなったり生態系に異常が出たりするのだ。それを防ぐ為に浄化魔法で一気に瘴気を消し去る。

浄化魔法を使わない場合は瘴気が消えるまでそこを立ち入り禁止にして瘴気が消えるまで待つしかない。瘴気の濃さにもよるが大体数年単位で瘴気は消える。

「今日はこれで任務完了です。では、城に戻りましょう」

「・・・・・」

治療魔法も浄化魔法をかなりの魔力を消費する。その上私も騎士団と一緒に魔物と戦ったからかなり疲労が溜まっている。できれば少し休ませて欲しいのだけど、この騎士団長は私の疲労具合などに興味はないのだろうな。今に始まったことではないが。

聖女とは人の為に尽くして当然だという認識がこの国にはある。全く馬鹿らしい認識だが。

「団長様、少し休ませて頂けませんか?」

「は?」

うわっ。虫ケラを見るような目で見られた。

まぁ、今は公爵家の養女だけど実際の出自はスラムだ。貴族様にとっては”ような”ではなく実際に私は虫ケラなのだろう。

「浄化魔法に治療魔法を使用したので今動くのはかなり厳しいです」

「はっ。この程度のことで弱音を吐かれては困ります、聖女様。我が儘を言わないでいただきたい」

ぶち殺すぞ。と、言うわけにもいかないので心の中に留めて。

「申し訳ありません。何せ今日は治療する人数が多く、それに治療した人間の殆どが重傷者だったので。ご存じとは思いますが治療魔法は魔力消費量が多い上に、相手が感じている痛みも魔法を介して伝わってきます。その状態で浄化魔法を使ったので流石に休憩なしでの行動は厳しいです」

お前たちが弱いせいだろと遠回しに言ってやれば面白いぐらいに騎士団長の額に青筋が浮かび上がった。このまま血管切れて死んでしまえば良いのに。

「薄汚いスラムのガキが誰に向かって口をきいている」

「騎士団長とは馬鹿でもなれるのか?」

「騎士を愚弄するな」

「私は騎士を愚弄したわけではない。お前を愚弄したのだ」

「何だと」

騎士団長が私の胸ぐらを掴んできたので、私はその腕を掴む。

「私はマリアローズ・ダーウィンだ。出自がどうであれ、今は公爵家の人間であり、国唯一の聖女だ。身の程を弁えろ」

「っ」

さすがに自分の行いに問題があることを理解したのか騎士団長は私から手を離した。忌々しげではあるが、休憩時間も与えてくれた。

どうせ休憩時間といっても微々たるものだろうから早く休もうと思って、休みやすい場所を探していると騎士団長を睨みつけているエーベルハルトが目に入った。

仲が悪いのだろうか?

まぁ、さっきのやり取りからして好感が持てるような性格はしていないのは確かだからきっとエーベルハルトとも何かあったのだろうとこの時は気にも止めなかった。

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