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世界を壊したいほど君を愛してる  作者: 音無砂月


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14.誰の足場も脆く崩れやすい

返事をするどころか誰かを確認する間さえも与えられずに手を引かれてダンスホールへ連れて行かれた。

「今宵はとても麗しい姿をしていますね」

金色の髪を後ろに束ねた青い目の男性。見た目はイケメンの分類に入るのだけどチャラ男という感じがする。

「ガートラント伯は随分とあなたにご執心のようだ」

目を細めて私を品定めする姿はまるで蛇みたいで気持ちが悪かった。

「でも気をつけた方がいい」

にっこりと笑う名前も知らないその男の顔を私は知っている。

「彼は私生児という噂がある。彼の母親が男と逃げたんだ。だからもしかしたら彼も本当は伯爵家の血を引いていない可能性があるんだ」

その顔は数多の貴族が何度も他人に見せて来た。

「それに男娼のような真似事をして今の地位に就いたって話だ」

それは他人を貶める時の顔。

優越に満ちたその顔はまるで自分が綺麗で特別な存在だと言いたげなその顔に何度、泥を塗りたくりたいと思ったことか。

「だからさ、俺にしときなよ」

「素性を明かさずに女性を口説くのがマナーですか?私の知っているマナーとは違うようです。そういう価値観って大事だと思いません?価値観の合わない人とは長続きするとは思いませんのでこれで失礼させていただきます」

上位貴族の顔と名前は覚えている。

けれど彼は私の記憶の中にはいない。

ならば多少の無礼は許されるだろう。それに彼は私以上の無礼を私に働いている。

「随分と手厳しい御令嬢だ。けれど言葉には気をつけた方がいい。偽物の公女様と違って俺は生粋の貴族だ。これでも子爵家出身なんだよ。スラムの害虫が子爵家と付き合えるんだ。光栄だと頭を垂れるのが筋ってもんだろ」

器の小さい男だ。

さっきまで余裕かましていたチャラ男のくせに今は顔を引き攣らせて怒りを露わにしている。しかも子爵家って。

「良かった。私が公女であることは知っているんですね。先ほどから変わったステップをされているので平民が紛れているのかと思いました」

バンっ

頬に衝撃が走り、体が床に激突した。頭を揺さぶられるほどの強い衝撃にすぐに起き上がることはできなかった。

暴力に慣れていない周囲の令嬢から悲鳴が聞こえる。でも、怒りに震える彼の耳には届いていないようだ。

ちょっと刺激しただけでここまでしてくれるなんて。

「スラムの害虫風情が僕を侮辱するな!僕だってなぁ、王女殿下の命令でなければお前みたいな薄汚いスラムの害虫なんか相手にしたくなかったんだよ!」

「つまり、これは王女殿下のご命令であると」

「そうだよっ!」

「ジョンっ!」

王女が慌てて間に入るのが見えた。でも、もう遅いよ。

「王女殿下っ!」

私は目に涙を溜め、恐怖で体を震わせる。

「私は臣民として、聖女の役割を果たして来ました。時には命の危機に晒されることもあります。それでも聖女の役目から逃げなかったのは一重にこの国を思ってのこと。その私に対してこのような仕打ちをなさるなんてあんまりです」

「わ、私の指示ではないわ」

本当にそうかしら?

男をけしかけたってことは最終的にどうなるかなんて学がなくても分かることよ。それに、私はエーベルハルトと一緒に入場した。あなたがエーベルハルトと婚約しようとした貴族の令嬢にどのような仕打ちをしたのか。

あなたの立場を考えて誰もが口をつぐんでいるだけであって、誰も忘れたわけじゃないのよ。私はあなたたちの言うスラムの雑種かもしれない。でも、この場でどちらの言い分が信じられるかしら?

ねぇ、王女殿下。

あなたが今いる地位はスラムの雑種如きで揺るがないほど強固だと言えるのかな?

「では彼が嘘をついていると言うことですか?子爵家の人間が王女殿下の御名を勝手に使ったとおっしゃるんですか?」

「そ、そうよ!」

あくまで自分は関係ないと主張する王女殿下だけど、それは無理がある。

周囲に視線を向けると誰もが疑わしい目を王女殿下に向けていた。それもそうだろう。なんの力もない下位貴族が王家の名前を使えば一族諸共、抹消されるのは必然。普通は避けるよね。高位貴族だって王家の名前を使うことに細心の注意を払うんだから。

「ファナーディア」

事態を静観していた王から威圧するように名前を呼ばれた王女殿下は体をびくつかせた。

「お、お父様、違うんです、これは、彼が勝手に、私は無関係で」

それでも必死に自分の無実を訴えるあたり、親子だから大目に見てくれると思っているのだろう。世の中、そんなに甘くはないよ。

「その男がお前の取り巻きの一人であることは誰もが知っていることだ。仮に彼が勝手にしたことだとしても自分の取り巻きも管理できない無能であることを周囲に知らしめるだけのこと。恥を知れ」

「っ」

いや、そこで私を睨まれても。全部、身から出た錆じゃないか。

「陛下、公爵家からも正式な抗議をしても問題ない案件であると思いますが。この件、そこも考慮に入れて頂きたい」

同じように静観していた私の養父殿が出てきた。事態が好転したのを見て、王家に貸しを作るチャンスだと思ったのだろう。本当、自分の利益に忠実だよね。

「聖女は国にとって重要な存在。それを蔑ろにすることは許されるべきではない」

都合がよろしいことで。今まで散々蔑ろにして、侮蔑の対象にしておいて何を言っている。

「そこの子爵家の小僧は牢に、ファナーディアは部屋に連れて行け。おって沙汰を申し付ける」

陛下の命令を受けた衛兵が二人を連れて行った。

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