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世界を壊したいほど君を愛してる  作者: 音無砂月


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9.疑念

討伐も浄化も終わって、こんな居づらい場所からさっさと退散しようと起きた。

カーテンの向こう側は晴れ渡り、美しい青が空には広がっていた。

清々しい朝という表現にぴったりの朝だった。ある出来事さえなければ。

「どうかしたんですか?」

邸の空気はどんよりとしており、まるで通夜のようだ。けれど、使用人は慌ただしく動き回っている。

「お前のせいだっ!」

部屋から出て、外で待機していたエーベルハルトに何事か確認しようとしていたら涙目になりながらダミアンが近づいて来た。今にも私に掴みかかりそうな勢いでくるものだからエーベルハルトが私を守ろうと前に出る。

仕方がなくダミアンの足は止まるが私を親の仇のような目で睨みつける。

一体なんだというのだ。

こっちはあんたらが魔物と瘴気をなんとかしてくれと言うから来たのに。

来たら来たで、アイネは私を突き飛ばそうとするし、討伐を終えた朝は意味も分からずに敵意を向けられるし。

感謝こそされ、こんな扱いを受ける謂れはない。

まぁ、感謝なんて殆どされたことないけど。

彼らにとって私は聖女でも公爵家の養女でもない。ただのスラムの薄汚いガキなのだろう。だったら頼らなければいいのに。こっちだって好きで関わっている訳ではない。

私に頼らないと自分達だけではどうすることもできない。でも、貴族のプライドとしてスラムのガキに頼るのは嫌だとかそういうくだらない葛藤があるんだろうけど。

「何をもってそのように言われるのでしょうか?」

「お前のせいでアイネが死んだ」

「えっ」

なんで?

魔物討伐の時に巻き込まれた?いや、でもあんな目立つお嬢さんが現場にいたら気づかない訳がないし、そもそもこっそりとついて来る訳がない。

じゃあ、どうして?

私はなぜかエーベルハルトを見てしまった。私の視線に気づいてエーベルハルトが私に微笑みかける。

今、人が死んだと言われたのになぜ微笑むことができる?まるで彼の言葉など耳に入っていないみたいだ。

「アイネは、アイネはその男に殺されたんだっ!」

ダミアンはエーベルハルトに指を差した。

「仕方がなかったんです」

エーベルハルトはダミアンではなく私に言い訳をする。まるで親のお説教から逃れようと饒舌になる子供のように。

「ケイレン伯爵令嬢は聖女様を害そうとしたので」

「嘘だっ!」

すかさずダミアンが口を挟む。

「嘘?」

ダミアンの言葉を復唱しながら首を傾けるエーベルハルトは微笑んでいるけど、どこか冷え切っていてまるで死神が微笑んでいるみたいだ。

ダミアンも彼の笑顔に恐怖を感じたのか、顔を強ばらせ後退りする。最初の勢いは完全に削がれていた。

「短剣を持って聖女様の寝室に忍び込もうとしない限り、私がケイレン伯爵令嬢を殺す理由はありません。現に彼女の手には短剣が握られていました。これは言い逃れできない事実です」

だけどアイネは手をエーベルハルトに握り潰されていた。痛みに耐えれば短剣を握るぐらいはできる。足の骨が折れていても走ることができるのと同じように。

でも、伯爵家のお嬢様がその痛みに耐えてまで私を殺そうとするだろうか?

怒りによる感情の興奮感で痛みを一時的に忘れることはあるだろう。そんなにスラムの私にプライドを傷つけられたのが許せなかった?

考えられなくはない。貴族のプライドってこっちが予想もできないぐらい高く、あらぬ方向に向かうから。住む世界が違うから考え方とか感じ方が違うのは仕方のないことだ。

ただ、お嬢様が自分から自分の手を汚しに行くだろうか?

ああいうお嬢様は見下している使用人に頼むものではないだろうか。

「何が嘘だと言うんですか?」

一歩、一歩、ダミアンが下がる度にエーベルハルトは前に進む。問い詰めるように、獲物を追い詰めるように。

ダミアンの後ろには開いた窓があり、彼はそこからバルコニーに出た。でも、エーベルハルトから距離をとることに集中しているダミアンは気づかない。エーベルハルトがダミアンに何をさせようとしているのかを。

落とす気だ。エーベルハルトはダミアンをバルコニーから。

ダミアンの背中がバルコニーの柵にぶつかる。そこで初めてダミアンは自分が逃げ場を奪われたことに気づいた。アイネを殺した人間に逃げ場を奪われればどうなるか、彼でも容易に想像できたのだろう。顔を青ざめさせている。

けれどエーベルハルトの顔は依然、微笑んだままだ。

「や、め」

「っ」

ダミアンに伸ばされたエーベルハルトの手を私は掴んだ。

「ダミアン卿、私はケイレン伯爵からの要請を受けてここへ来ました。魔物討伐や瘴気の浄化には命の危険を伴います。それでもあなた方が『助けてくれ』と言うから私たちは来たんです。私の身分があなた方の言う卑しい出身であることは事実です。でも、だからって自分達の為に命をかけた者に対して貶めたり、侮辱する行為が崇高なことだとは思いません。妹様のことは残念ですが、本当に私を害そうとしたのなら同情するつもりはありません。スラム出身というだけでは殺される理由には不十分ですので。それでは失礼します」

私はエーベルハルトの手を引っ張ってバルコニーから出た。

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