0.その人は優しく微笑みながら欲望の為に祖国を滅ぼした
エーベルハルトの過去作品もあります。
<a href="https://ncode.syosetu.com/n0238hl/">エーベルハルトの物語〜彼がヤンデレになった理由〜</a>
「聖女様、治療を」
うるさい。
「聖女様、助けてくれ」
うるさい。
「痛い、痛いよ、早く治してくれよ、聖女様」
うるさいっ!!
誰もが私に縋る。
私が聖女だから。
誰かの為に行動することは当たり前で、他人の為に犠牲を払うことは当たり前。それを拒めば咎められる。
聖女は決して自分の為に動いてはいけない。
自分の利益を優先させてはいけない。
聖女は人ではない。
聖女は奴隷だ。
「聞く必要なんてありません」
美しい顔で微笑む、美しい男性は目の前でうめいている怪我人を全員無視して私に言う。
「リズ、他人の為にあなたが何かする必要なんてありません」
見捨てろと彼は言う。
彼は優しい人だと評判の人だった。
「あなたを苦しめるだけの国など必要ありません。けれどあなたがこの国に拘るのなら滅ぼしてしまいましょう。そうすれば、あなたを捕らえるものは何もなくなる。そうすればあなたは私だけを見てくれるでしょう」
冷たい手が私の頬に優しく触れた。
「私からあなたを奪うものはなんであれ許しません。そしてこの国は私からあなたを奪った。滅ぶのは当然の罰です」
エーベルハルト・ガートラント、私の初恋の人。私を唯一、リズと呼ぶ人。そして私のせいで狂ってしまった可哀想な人。私に囚われてしまった人。
「愛しています、リズ。私たちが一緒になれる場所に行きましょう。何も心配はいりませんよ。あなたを苦しめるもの、あなたを不安にさせるもの。全て私が排除しますから。二人でたくさん愛し合って、幸せになりましょう」




