類似点 謎の女バブーシュカ・レディ
第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンと第35代アメリカ大統領ジョン・F・ケネディとの間に多くの共通点があることは、今では有名な話だが、そのことが噂されるようになったのはケネディ大統領が暗殺された後のことである。
しかし、このことに一早く気付いていた人物がいた。後にバブーシュカ・レディと呼ばれるようになる謎の女性だ。
ある国からアメリカに送り込まれた女スパイがまだ議員であったケネディに狙いを定めたのは、本国の指令ではなかった。彼女は腕利きの諜報員であったが時折り私情が入る癖があった。それでも、任務は忠実にこなす力は十分にあったので組織も大目に見ている。
結婚前から女性にだらしがなかったケネディだから、彼の愛人になることなど彼女の一流のスパイテクニックを駆使しせずとも容易かった。
それから数年が過ぎ、ついにケネディは大統領となる。そのころ女スパイは諜報活動は続けつつもすっかりケネディの虜になっていた。 ケネディもいずれは奥さんと別れると言ってくれた。彼女もそのすべてを信じているわけではなかったが・・・
1962年5月のある日、スキャンダルを恐れたケネディは別の愛人であったマリリン・モンローともども彼女に別れを切り出した。彼女が一流のスパイとはいえ相手は大統領である、そう易々と連絡を取ることはできない。何度もケネディとの接触を図ろうとしたが、ケネディのガードは固く全く相手にしてもらえなくなってしまった。
そのためスパイ活動も滞るようになり、本国からの情報要請とケネディの裏切りとに業を煮やした女スパイは、翌年ついにケネディ暗殺を思い始める。
そして、女スパイはある男と何度も密会を繰り返すようになる。
ある日の夜、女スパイは、リンカーンとケネディの共通点について男と語りあっていた。グラスを片手に女スパイは、
「リンカーンが初めて議会に選出されたのが1846年。ケネディが初めて議会に選出されたのが100年後の1946年」
それに続けて男も言う。
「リンカーンが大統領に選出されたのが1860年。ケネディが大統領に選出されたのが100年後の1960年」
「二人とも現職の副大統領を破っての当選ね」
「二人とも公民権運動に熱心というのも共通点だね」
「重要なのは、彼の最後よ。リンカーンは復活祭前日の金曜日にフォード劇場でジョン・ウィルクス・ブースに暗殺された」
「ケネディも暗殺されるっていうのかい?」
「よく聞いて。リンカーンが暗殺され、その後継者となった人物は、南部出身の1808年生まれのアンドリュー・ジョンソン」
「ジョンソン・・・・」
「そうよ!ケネディの後を継ぐのは!あなたしかいないのよ!!!!」
「南部出身・・・ 1808年・・・ジョンソン・・・」
「これは、神の啓示なのよ!!」
感謝祭前日の金曜日にパレードが行われることは誰もが知るところであったが、パレードに使われる車がフォード社のリンカーンに変更されたことを知るのもはいない。
男は部下に命じてジョン・ウィルクス・ブースと共通点ををもつ人物を捜させ、丁度ブースと100年違いの1939年生まれのリー・ハーヴェイ・オズワルドを確保した。
女スパイが持つ受話器からリンドンの声が聞こえる。
「決行日が決まったよ」
男は暗殺場所を女スパイに告げた。
「そう。それじゃあ私は特等席で見物させてもらうわ」
果たしてパレードは始まり、男が女スパイに告げた通りケネディは暗殺された。
パレードを撮影した写真やフィルムには、謎の女性がカメラの様なものを構えた映像が多く残された。
当局は、この女性が写した写真、またはフィルムに重要な手がかりがあるかもしれないと、情報を呼びかけたが、誰ひとり彼女を知る者はいなかった。
数日後、ホワイトハウスを見渡せる公園のベンチに男女の姿があった。
男は言った。
「そういえば、彼らの共通点を調べているうちに、もう一つ発見したんだが、彼らは二人とも大統領就任中に子供を亡くしているね?」
女はそれには答えず、
「これ、もう要らないからあなたにあげるわ」
と、言って二つ折りのオペラグラスを男に渡すと、そのまま公園から姿を消し、アメリカからも忽然と姿を消した。
次期アメリカ大統領には、南部出身で1908年生まれのリンドン・ジョンソンが当選した。
謎の女性は正体がわからないまま「バブーシュカ・レディ」と呼ばれ現在でもケネディ暗殺事件の謎として語られている。
バブーシュカとはロシアのお婆さんが被るようなスカーフのことである・・・