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なぎちゃんとこはるちゃん

 秋山君は鈍感だと思う。重ねるが、普通に考えて放課後の呼び出しを喰らったらそういう展開を想像しちゃうものだろう。

 納得がいかなかった。こっちはなけなしの勇気を振り絞って靴箱に手紙を仕掛け、そして告白まで行かなくとも未遂までいったのだから。これは告白したようなものである。殺人未遂も罪に問われるのだから、これも同じようなものである。誠意をもって答えてもらわなければフェアじゃない。

 というのが、渚の一方的な言い分であった。はっきり言って理不尽である。

 しかし、目下最大の問題と言えば、彼がアキラの中の人であるという可能性が捨てきれないことである。どちらかと言えば、彼女はその可能性を認めたくないのだろう。

 秋山君に人として好意を寄せているのは事実なのだろう。それ以前に、彼女はアキラというキャラクターを応援していた。それは手の届かぬ花を愛でるような、あるいは偶像崇拝のような。

 きっと。雲の上の存在を汚すようで、住む世界の隔絶を見せつけられるようで、きっとどうして良いか分からなくなってしまう。

 暖かい陽気の中にため息を漏らしながら通学路を抜けていく。足取りは重い。正直に言って会いたくなかった。遅かれ早かれ同じクラスなのだから必然的に顔を合わせてしまう訳だが。

 自分でも処理しきれない事案をどうにかこうにか切り盛りしていたせいか、渚はその接近に気づかなかった。突然横から大きく柔らかい衝撃が加わったのだ。

「なーぎちゃんっ! おはよっ!」

「おわっと、いきなり抱き着かないでよ、びっくりしちゃうから……。おはよ、こはるちゃん」

 至近距離から小動物のような愛らしさを醸す笑顔を向けてくるのは、クラスメートの相田小春だ。顎の下をくすぐりたくなる。

「ね、どうしたの? 浮かない顔してたけど」

「え、そんなに?」

「うーん、たった一人だけ世界の終わることを知ってしまったみたいな?」

「いや、そこまで壮大じゃないし深刻じゃないから。というかそれ、もう為す術ないから悩む必要もなくない? 逆にお金の心配がなくて楽そう」

「まあまあ、この頼れるこはるさんに何でも相談してってことなの! 世界の終わりでも恋愛相談でもきっと何とかなる!」

 ぎくりとなった。もちろんセカイ系な悩みではない。個人の願いと押し潰すような義務感の狭間で苦しむなんてことは実際あり得ない。確かアキラが饒舌に話していたか。視聴者は配信者に似るとはよく言ったものだ。

 さて、自信満々にない胸を張るこのおてんば娘の申し出をどうするか。話して楽になりたいという気持ちと、気恥ずかしさの間で揺れる。刹那の葛藤の末、苦し紛れに導き出された答えがこれだった。

「これは友達の友達の話なんだけど」

 さあどうくる? と横目で小春の様子を窺う渚。神妙な面持ちである。悪いが、バカで助かった。

「説明しにくいんだけど、好きな人が二人いるみたいなの」

「何と! これはもしやデロデロの昼ドラ展開ですか⁉」

 やめようかな、と思った。

「それを言うならドロドロでしょ。それで、片方は本当に好きかもしれないなって感じで、もう片方はどちらかというと憧れに近い感情を抱いているっていう状況らしくて」

「クラスのイケメン男子って感じ?」

「まー、近いかも。手の届かないことを自覚していて、結ばれることすら想像もしないようなね」

「じゃあ決まったようなものじゃないの?」

 二者択一ならどれほど良かったものか、とため息をつく。

「話はここから。どうやらその二人は実は同一人物らしくて」

「……はえ? イケメン男子とノーマル男がおんなじ? どゆこと?」

「仮面の舞踏会で出会ったらしいの」

「ああ、なるほど~!」

 小春の太陽のように爛々と輝く瞳から思わず目を背ける渚。

(ああっ! なんて純粋なの……っ! ごめんねこはるちゃん、私はいつも嘘ついてばっかりで!)

 あとで何か美味しいものを買ってあげようと心に誓う。

 きっと知恵の実を食べなかった人間は、この子のように、まっさらで一点の曇りもない心根を持っているのだろう。

(神様、どうかこの子だけでも楽園へ帰してやってください。私は地獄に落ちます……)

 友人の目が見れなかった。見てしまったが最後、きっと罪悪感に押しつぶされて洗いざらい吐いてしまうことだろう。

「それは本気でアタックするべきだよ!」

「ど、どうして?」

「シンデレラは王子様と結ばれたんだからその子もきっと結ばれるはずだよ! わたしも応援してる!」

「ああっ、こはるちゃんはずっとそのままでいてね! 私が世界からきっと守り切って見せるから!」

 闇に塗れた世界から光を絶やしてはいけない。きっとそういうことなのだ。


着地点わけわからんことになった。スマソ。

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