表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/161

第九十二話

「ルイーナ様〜、まだ起きないんですか?」

 明るくも何処か拗ねたような声が響いた。

ズルズルと重いものを引きずる音と共にルイーナの眠る部屋へと入ってきたのは、ジュラルドとロベルトそしてジュラルドに連れてこられたセルペンテだった。

「………離して下さい。急にここまで引っ張ってきて、一体何なんですか」

「何時までもキミが引き籠もって無ければ、俺だって引きずってまで連れて来なかったよ」

「放っておいて下さいよ。貴方には関係ないでしょう」

「まぁまぁ、落ち着いて下さいよ二人共。ルイーナ様の前ですよ?

………アーテルは貴方の事が心配だったんです。

あの時、ルイーナ様の近くにいた貴方が自分を責めてるんじゃないかって」

「ッロベルト!!」

 声を荒らげ、掴んでいたセルペンテの襟首から手を離し今度はロベルトの両肩を掴み揺さぶるジュラルド。

その顔はこの寒い部屋の中でも湯気が立ち上がりそうな程に赤くなっていた。

「私は、ここに来るべきでは無いでしょう。

ルイーナ様がこうなってしまったのは、私のせいであることは変わらないのですから」

「………ほらな、やっぱりなってた」

 その場にしゃがみ込み自身の腕に顔を埋めるセルペンテの溢した言葉に、ジュラルドは溜め息を溢しながらロベルトから手を離し片手で顔を覆った。

セルペンテの屋敷に行く前に、ジュラルドとロベルトの元へとあの屋敷では見たことの無い精鋭が彼らの元を訪ねてきたのだ。

長い長髪を束ねたその精鋭はセルペンテをルイーナに合わせてやってくれと二人に懇願した。

『勝手なことだとは重々承知している。

だが、このままだとボスは……』

これは自分の独断の行動であり礼は何でもするからと、過去に極東から伝わったとされるドゲザなるもので頼み込むその姿にセルペンテは良い部下に慕われているのだなと思ったものだ。

『彼奴は屋敷にいるんだな』

 そんな上司思いの部下のささやかな願いを蹴り飛ばす程クズではない。

『任せろ。俺達が彼奴をあの人のもとへ連れて行く』

『忝ないッ!!この礼はいつか必ず……』

『もう十分過ぎる程見せてもらったから、礼は要らない』

『え……しかし自分は何も』

『お前の行動力と判断力、そして上官を想いやるその心根を見せてもらっただけで十分お釣りが来る』

だから気にするなと言えば、その精鋭は再度忝ない言葉を溢し去っていった。

 精鋭が来た翌日にロベルトを連れセルペンテの屋敷を訪れた。

そして彼の部屋に通され、自身の目を疑った。

『何か御用ですか』

 青白い肌に血管が浮き出る腕。

目の下にはクマが広がり、何時もなら綺麗に片付けられた部屋は書類や本、衣服が散乱している。

そして何よりの問題は彼の目だ。

何の用だと聴くくせに、手元の書類から目を離さない彼が一瞬だけこちらを見た時に伸びた前髪から覗いたその目。

濁り深く沈んだ、闇を孕んだその目は誰が見ても彼が限界であることを嫌でも分からせる。

『行くぞ』

『何を………ッ?!』

 だから彼をここまで無理矢理引っ張ってきたのだ。

ルイーナ様がこうなったのは、彼のせいでは無いのだから。

「あのな、言っておくがルイーナ様がこうなったのはお前のせいじゃないからな。

………これはあの人が望んだことだ」

「これをですか?誰よりも家族を愛しているルイーナ様が、その家族を悲しませることを望んだと?!」

「そうだ」

「何を根拠にッ………!!」

 立ち上がり、先とは逆にジュラルドの胸ぐらを掴み睨みつけるセルペンテ。

人一人殺せそうな程の鋭い目で睨みつけてくるセルペンテを、ジュラルドはただ静かに眺めていた。

「あの子供は、自身が周囲に与える影響を正しく理解していない。

自分がいなくても護りたいと願った者達は幸せな日々を送れると信じて疑いもしない

そういう人だから、彼をこちらに繋ぎ止めておきたかった」

 キミもそうだろう? と問うたジュラルドにセルペンテの肩がピクリと跳ねた。

「俺達のカングやカテーナと同じ様に、キミ自身もあの子に何かしら思う所があったんだろう?祈り(プレガーレ)

「わ、たしは………」

 掴んだまま体を震わせるセルペンテの手をロベルトが優しく外した。

襟元を整えたジュラルドも、再度目をセルペンテへと向ける。

「………ここにいるのは俺達だけだ。

泣きたい時くらいちゃんと泣け」

そして俯いたセルペンテから溢れた滴を見て見ぬ振りをし、ぶっきらぼうながら彼の頭を撫でた。

彼らから見て、ルイーナもセルペンテも子供だ。

子供なら泣きたい時に我慢なんかせずに泣けば良い。

それを咎める者などこの場にはいないのだから。

「護りたかった……笑っていてほしかった頼ってほしかった!

何故独りで決めていってしまうんですか?!

何故連れて行ってくれないんですか?!」

 何でと何度も零されるソレは、ジュラルドもロベルトも思っていることだ。

早く目覚めて欲しい。

そして今度こそ知ってほしい。

貴方はこんなにも愛されているのだと。

貴方に救われ共に貴方の護りたいモノを護りたいのだと。

貴方は決して独りでは無いのだと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ルイーナいつ目覚めるの...。 ルイーナの愛する護りたい人達が悲しんでるよ。読んでいてすごく切ない気持ちになりました。ここからどうやって物語が進んでいくのか楽しみです。 [一言] 体調に気…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ