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第八十二話

 見せつけるように、または煽るように小脇に抱えていたアルバを再度抱え直しその小さな顎を掴み顔を向けさせるペーゾに、ルイーナは殺意を滾らせた。

「セル、状況説明」

「はっ!異形のモンスターは残り一体。

ルーチェ様や国民は騎士団とあのお二方が守護し避難は完了しています」

『るビィーナ・ヴァウズドォ……』

「あの何とも言えない風体の子供は?」

「人間と竜種のキメラとでもいいましょうか…。

ですが本当の子供ではなく、実年齢詐称ババァですよ。

皮は誤魔化せても内は誤魔化せなかったみたいですね」

 ルイーナの問い掛けに彼の側に移動したセルペンテは朱の映えるナイフを手の内で弄りながら嘲笑う様な声とともにそう答えた。

「実質ロリババァ」

『う”るざいぃぃぃ………ボグわババァじゃァない”い”い”ぃぃ』

「ロリは認めてんじゃん。しかもボクっ子とか属性盛り過ぎでは?」

「異論はありません」

 ペーゾから一切目を逸す事無く軽口を叩くルイーナの顔は感情自体を消したかの様な無表情だったが、その目。

その目だけがギラギラとした明確な殺意が側にいるセルペンテにも伝わってきた。

 そのゾクリと背筋を震わせる快楽にも似た感覚に頬恍惚とした表情を浮かべたセルペンテに気付いたのは、彼等と対峙する少女とペーゾだけ。

「随分と狂った狂犬を飼ってるな?

お前に付き従っていた騎士も癖が強そうだ」

「俺の仲間をお前如きのものさしで測んじゃねぇよ」

 苛立ちを隠すこと無くそう告げたルイーナにペーゾは心底おかしいとでも言うように笑い声を溢した。

未だその腕にはアルバが抱かれているせいで下手に動くことの出来ない状況に歯噛みする。

だが状況は更に悪化しようとしていた。

「だから俺も強い仲間が欲しいんだ。

…………お前の弟、この闇と相性良さそうだよなぁ?」

「あぁ”?」

ペーゾは何処からともなくランタンらしきものを取り出した。

一見何処にでもありそうな普通のランタン。

だがその中でゆらゆらと浮いれている炎は普通ではなかった。

赤、青、緑、紫、茶色に黒………揺れる度に色が変化し定まらない炎。

 だが唯一共通しているのはそのどれもが禍々しい闇の魔力と同じ禍々しさを持っている事か。

「あの方から頂いた闇の魔力。

これをお前の弟に注ぎ込んだら、どうなるだろうな?」

「_____」

 カラリと音を立てて揺れるランタンとその言葉に、まるで心臓が握り潰されたようだった。

この世界で一番の変化は悪役であるアルバが闇落ちせず、それ以上に元々闇の魔力を持っていない事だ。

もし、もしも世界が本来のものにしようと動いているのであればアルバは_____。

「ふざけんな!止めろぉ?!」

なりふり構わず叫び、走り出す。

「ハハッ、いいねその顔……唆るわ」

 苛立たしいまでに遅い自身の足に苛立ちを募らせながら、ルイーナは走り出した。

抱えられるままのアルバとの距離が、なんて事のない距離が遠い。余りにも遠い。

アルバの名を叫び伸ばした手。

フルリと揺れた瞼。その瞼が持ち上げられ僅かに覗いた緑色の宝石の様な瞳。

「に、さ……?」

ルイーナの叫びに、伸ばされた手に手を伸ばし返すかの様に零された兄を呼ぶ声と向けられた眼差し。

互いの目が合ったその瞬間。


「じゃあなアルバ・ファウスト。

そして誕生日おめでとう」


ペーゾの手で揺れるランタンからソレが放たれた。

ソレはゆっくりとアルバの身体に入っていく。

まるで時が止まったかのようだった。

世界が色を失う。

その全てが僅かな火の粉を残しアルバの身体の中へと消えていく。

___瞬間、この世界の悪役が産声を上げた。

アルバを中心にあの炎と同じ色の球体が形成された。

 ペーゾの腕から離れ禍々しさとは裏腹に緩やかにルイーナの少し先に墜ちた球状体の中で、アルバは苦しげな叫びと共に頭を抱えだした。

その叫びを聴いているだけで、その姿を見ているだけで足が竦みそうになり伸ばした手は何も掴むこと無く浮かんでいる。

「ア、ルバ………」

 立ち尽くす事しか出来なかったルイーナの言葉はアルバの叫びに呑み込まれ誰にも届かない。

永くも感じられたその叫びは、唐突に鳴りを潜め周囲には異様なほどの静寂が訪れた。

『アァ………ぁ…………』

球体が消え、暫くの間俯けていた顔が上げられた。

そして向けられた光の消えた、感情のない深緑の瞳がルイーナを捉えた。

 その直後、ルイーナの身体は空中を舞い、そして地面に叩き付けられた。

「あッ、がっっ…………!!?」

打ち上げられ、地面に叩き付けられた身体が燃えているかのように熱を持つ。

痛みを訴える身体を無理矢理地面から引き剥がしアルバを見上げたルイーナ。

彼に駆け寄るセルペンテの声も姿も、今野彼には何も聴こえないし見えていなかった。

 ただ無感情のままの瞳でこちらを見るアルバの姿だけを、彼の手の中から零れ落ちた宝を見詰めていた。

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