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第八十一話

「匂い?」

「おう。俺は魔法はからっきしだが、魔力独特の匂いには敏感なんだよ。

んで、さっき殺った蛇野郎からなーんかお前に似た匂いがすんだよなな」

そう鼻をひく付かせ首を傾げるブランドにルイーナも彼と同じ様に首を傾げた。

「普通人間の持つ魔力の匂いはその人間のものだか魔力適性が複数あっても匂いは変わらない。

でもアレはキメラで弄られてるから匂いが複数あるのは分かるが………」

お前人間だよな?と訝しげに見遣るブランド。

ルイーナも暫くの間ブランドに言われた匂いについて考えていたが、本来の魔力とは違うと言う言葉で理解した。

そしてそれが何であったかを思い出したルイーナは顔を青ざめさせ身震いした。

「…………もしかして、それってこの匂いと言うか魔力だったり?」

「それだそれ。それお前の魔力じゃないだろ」

「確かに、俺のじゃない託された魔力だけど……」

「おい、どうした?顔青いぞ」

 ルイーナがその手に纏わせたのはアマラから受け継いだ厄災と通ずると言われる闇の魔力。

外れていて欲しいと願った思いは、ブランドの言葉で砕け散った。

 つまり、このキメラを造ったのは闇の魔力を持つ誰か。

それも通常のでも厄災と通じていると分かるのに、アマラの様により深くそして決して切れることのない鎖で繋がっている誰かが関与していると言う訳で………。

「後さ、もう一つ気になってんだけど」

「コレ、お前のだよな」

そう言って手渡されたのは、アルバとルーチェと揃いのブレスレット。

嵌め込まれた緑色の魔石が砕けたそれに、更に嫌な予感がルイーナの背を粟立たせる。

闇の魔力……このゲームの本来のシナリオはどうだった?

 本来ならこのゲームはモンスターとの戦闘もあるが、それでも乙女ゲームなりに学園生活と様々な魅力溢れるキャラ達との恋愛を楽しむものだ。

ヒロインは神の愛娘であるルーチェ・ファウスト。

そしてこのゲームの悪役は、闇の魔力を持つアルバ・ファウスト。

全てに絶望し全てを破壊しようと悲しみに暮れた、悪にしかなれなかった少年……。

 今起こっている事はゲームには無かったストーリーだ。

そう、無かったはずなんだ。

もしも俺というイレギュラーのせいで起こったんだとしたら?

もしも、このゲームの世界が本来あるべき世界線に戻そうとしているんだとしたら?

そうなれば、この世界は_____

「っおい!急にどうしたんだよ?!」

その考えが頭に浮かぶと同時にルイーナは何処へともなく走り出した。

ルーチェは神の愛娘、そしてこの世界のヒロインとして重要な人物だ。

命を落とすことなどありはしないだろう。

だが、アルバは?

悪役としての在り方を求められているアルバはどうだ。

 ゲームのアルバ・ファウストは闇に墜ち全てを憎んでいた。

今この状況で、もしもアルバが事を起こした敵の手中に墜ちてしまっていたら?

そうなれば、ルイーナがしてきた事も何もかも無駄になる。

嬉しいと楽しいと語っていた、あの輝かんばかりの笑顔が失われてしまう。

あの天使の如き存在が失われてしまう。

大切な、今度こそ護ると誓った家族がまたこの手から零れ落ち、取り返しのつかない事になってしまう。

「嫌だ、もう何も失いたくない」

ここに来て何度も願っていた。

失いたくないと。

そして高を括っていた。この世界は言い方はアレだが所詮は乙女ゲームの世界。

よくあるRPGのような展開はないだろうと、そう心の何処かで思っていた。

 それは余りにも楽観的で安直な思い込みだったのだと今この状況が語っている。

「奪わせない。あの子達はまだ子供だ。

…………子供なんだ。

その背に世界なんて重いものを持たなくていいじゃないかッ」

 噛み締めた唇から流れる血を気にする事無くルイーナはブランドを置き去りに疾走る。

紫煙が立ち上り、炎が辺りの民家を燃やす瓦礫が散乱する道とも呼べぬ道をひたすら疾走る。

 そして何かの爆発音と地響きのする場所へとその脚を運ぶ。

近付く度にヒシヒシと感じる肌を刺すような空気。

遥か郡上から落ちる落雷、そこから漂う嫌な気配。

「_____アルバ様ッ?!」

 耳に入ってきた言葉に、悲鳴を上げる身体を無視してスピードを上げその場所へと急いだ。

そして目に入ってきたソレに一瞬瞠目するも、瞬時に怒りに染まった目を敵へと向けた。

「お前ッ………」

「久しぶりだな、ルイーナ」

「馴れ馴れしく俺の名を呼ぶなフード野郎」

「口が悪いぞ?俺にだってペーゾって名前があるんだがな」

 あの日、ファウスト家を襲い両親を傷付け捕えることの出来なかったフード男がルイーナの目の前で、今度は彼の宝を抱え嗤っていた。

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