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第七十八話

触手をうねらせ鎌を振るう。

その攻撃は単純だが余りにも数が多く、一つでも判断を間違えれば致命傷になりかねない。

その動きを見極め最小限の動きで攻撃を避け、いなしては斬り落とし小さくも幾つもの傷を与える人間に、異形のモンスターは苛立っていた。

 その異形のモンスターを彼女と呼ぼう。

彼女は生まれた時から『声』を聴いていた。

憎しみと憎悪、恐怖と絶望に満ちた様々な声を。

だからこそ彼女は理解したのだ。

自分はこの声に生かされ、それを渇望しているのだと。

彼女は自身が創り出された意味を正しく理解したのだ。

だからこそニンゲンを喰らうことに喜びを感じた。

その自身の体を切り裂く武器を持つ腕を押さえ付けて握りつぶす。

振るう腕を、逃げる脚を失ったニンゲンの出す悲鳴ごとゆっくり味わいながら全てを貪り尽くす。

それだけで自身の何かが満たされ満ち足りていくようで。

まだ足りない。まだ、まだまだもっともっと喰らい尽くしたいのに………。

自身の目の前に出てきたニンゲンが邪魔だ。

もう少しであの喰いごたえのありそうなニンゲンを喰えそうだったのに、邪魔をする。

彼女は苛立った。

怒りのままに振るう鎌も防がれる。

このままでは己はこのニンゲンに殺される。

それは駄目だ。己はまだ満たされていない満足していない。

もっと喰らいたい、あの悲鳴を叫びを聴いていたい。

そして彼女は、鎌ではない自身の武器を使うことにした。


「総員!防御態勢を取れ!!」

天を仰ぐように伸びる先端。

その体には幾筋もの線が入り、遂にはその上部にあった頭部らしき部分が____咲いた。

そして毒々しく広がった極彩色の花弁の中心部。

所狭しと敷き詰められた種子が、弾丸のように撃ち出された。

咄嗟に吠えたノックスの指示に従い、騎士達は盾を構え身を低くし弾丸を防ぐ。

他にも自身の武器を盾にする者や魔法で防壁を貼り防ぐ者もいた。

咄嗟の指示にも瞬時に反応し対応する様は流石と言えるだろう。

「___ッ!?」

周囲のモンスターも巻き添えにしたその種子の弾丸を防ぐ中、一つの息を飲む声が異様に響いた。

「ロベルト!」

誰よりも前線に立っていたロベルトが、無数の弾丸を躱しきれず一発の弾丸を左腕に喰らったのだ。

「これは……蔦、か?」

腕を抑えるロベルトに駆け寄ったジュラルドの言葉の通り、種子が撃ち込まれたロベルトの腕からは幾本の蔦が生えその腕に絡みついていく。

「____ハハ……」

 だが、武器を持つ腕を奪われたからと言って騎士たる彼は彼等は動じない。

それどころか、よりによってロベルトに種子を撃ち込み蔦を生やさせた異形のモンスターに憐れみすら覚えていた。

「………お前らー、あの異形に近寄るなよ。ロベルトの餌食になるぞ」

「総員、各自残りのモンスターを討伐!

だが決してテネブラエ様の邪魔にだけはなるな!!」

蔦の巻き付いていない方の手で髪を掻き上げたロベルトの顔には何時も浮かべられている朗らかな笑みなど微塵もなく、ただ目の前の敵をどう葬るかを考える狩人の顔をしていた。

「ロベルト、好きに暴れていいぞ。

俺はサポートに回る」

「了解」

 ジュラルドが下がった直後、地を蹴り瞬時に異形のモンスターの懐へと肉薄したロベルトは持っていた長剣を投げ捨て、握り締めた拳でその肉体を殴りつけた。

その攻撃が自身を傷付けるに至らないと判断した異形のモンスターはその拳を気にする事無くその身を切り裂き肉を喰らおうと触手を伸ばす。

 だが、ロベルトの拳が届くと同時にそれは間違いだったと思い知らされた。

異形のモンスターの巨体が、その拳の勢いに耐えきれず僅かに浮かんだのだ。

「?!」

鎚か何か、それこそ重い鈍器で殴りつけられたかのように体に響く打撃。

それは留まることを知らず何度も何度もその体に打ち込まれた。

これ以上は危ないとロベルトを引き離そうと触手を伸ばすも、前方から打ち込まれるジュラルドの魔法によって弾かれてしまう。

 遂にはその巨体を地面に叩き付けられた異形のモンスター。

追い打ちを掛けるように怒涛の連続攻撃(ラッシュ)がその身を襲う。

「潰す」

拳に闇の魔力を纏わせたロベルトは更に重く鋭い攻撃を打ち込んでいく。

 彼女は困惑し怒り狂っていた。

知らない、知らない知らない知らないッ!!

何故このニンゲンは倒れない?!

何故己よりも弱い体で戦える?!

何故ニンゲンでありながらそれ程までの強さを持っている?!

単なる食料、単なるオモチャでしか無かったニンゲンにこうも簡単に捕食する側の己が狩られているのか。

種を植え付けたニンゲンは皆、恐怖に喚き喰われるだけだったのに。

どうしてこのニンゲンは己をこうまで追い込むのかっ?!!

彼女は震えていた。

あのニンゲンがその腕に纏うものには見覚えがあった。

初めて抗えないと、殺されると確信した主が持っていたものだ。

それは全てを飲み込み消し去るものだ。

それは己を殺すものだ。

逃げなければならない。

離れなければならない。

このニンゲンは、危険だ!!

 彼女は触手を一つに束ね何とか攻撃を跳ね除けこの場から逃げ出そうと起き上がり背を向ける。

屈辱も今は甘んじて受け入れ、この命を護らなければ。

ニンゲンは何時でも喰える。今はまだその時では無いだけだ。

「行かせるわけないよねぇ?」

「これ以上被害を広めるわけにはいかない!」

ジュラルドの放った魔法が土壁を造り行く手を阻む。

ノックスの放った魔法が傷口から入り込みその身を竦ませる。

「お前は、ここで()に潰されておけ」

ゆっくりと近付いてくる己を殺す男の足音が。

殺られるわけには行かないと、鎌を振り回し種を男目掛けて撃ち込むも、尽く躱され魔法で相殺される。

彼女の攻撃は届かない。

「コレで終わりだ」

何も出来ず彼女は初めて身を持って恐怖と死を感じた。

そして自身の命が刈り取られる音を最後に、彼女の意識は呆気なく途絶えたのだった。


「流石〜、久々に昔みたいに暴れてたね〜」

「……恥ずかしいので余り言わないで下さいよ」

「俺はあの君も好きだよ?」

「物好きな人ですね、相変わらず」

 額に浮かぶ汗を拭うロベルトに近寄ったジュラルドは片手を上げそう声を掛けた。

戦闘の疲れとはまた別に顔を僅かに赤く染めたロベルトは気恥ずかしそうに、ジュラルドと同じ様に片手を上げた。

種子の主である異形のモンスターを倒したからか、ロベルトの腕に巻き付いていた蔦は枯れ落ちていた。

「まだイケる?」

「あの程度のモンスターは準備運動にしかなりませんよ」

「やっぱりロベルト君は最高の相棒だよ」

「恐縮です」

互いに掲げた手を打ち鳴らし、勝利を噛みしめる。

そして数は少なくなったものの、未だ多く存在するモンスターへと向き直る。

「それじゃあ、早くこの現状を終わらせようか」

「そうですね」

 似通った笑みを浮かべたジュラルドとロベルトは、今も戦っている同胞達の元へと駆け出した。

 戦いはまだ終わっていない。

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