表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/161

第七十七話

戦場と見紛う程に荒れた王都。

家々は瓦礫と化し、人々は怯え恐怖に脚を竦ませている。

「回復魔法を使える人は一人でも多くの人の治療を!

騎士様方が戦ってくれているのです。

魔物と相対する力が無くとも、私達には私達の戦い方があるのですから!」

「ルーチェ様!治療用道具と魔力回復ポーションをお持ちしました」

「ありがとう」

 そして怪我人や避難民達が身を寄せ合うこの教会でも、皆が皆己の持つ力を最大限に使い戦っていた。

一人でも多くを救おうと、自身の魔力が尽きるまで回復魔法を行使するルーチェ。

彼女自身も少なからず体に傷を負っているが、それでも彼女は涙を流しながら苦悶の表情を浮かべながらも何度も何度も魔法を使い、それでも魔力が足り無ければ自身の手で怪我人の治療を行っていた。

「ヴァレリオ卿だって他の騎士様達だって、諦めずに戦っているの……。

私が、私達が諦めるわけにはいかないのッ!!」

 時を同じくして、ルーチェや避難民達がいる教会の周辺では、今も壮絶な戦いが繰り広げられていた。

「クレメンテ団長!もう無理ですその体じゃ……」

「撤退しろノックス!これ以上傷が開けは命を落とすぞ!!」

 戦況は、最悪の一言に尽きた。

教会の周辺はモンスターが集まり、死体の山を築いているがそれ以上のモンスターの大群が押し寄せている。

そしてここにも、ルイーナ達と同じ様に通常のモンスターとは違うキメラが一体存在した。

食人花のモンスターだったのだろうその体から伸びる触手はカマキリを彷彿とさせる鎌のようで、本来なら幹や根の部分に相当する場所はムカデの脚のようだった。

「私は、アーテル様から団長の任を任された………。

テネブラエ様から騎士団を頼むと託された。

その私が敵に背を向けるなど、護るべき人々を見捨てる等……出来ない!!」

「だがそれ以上は!!」

 カマキリの鎌の様な無数の触手がノックスの体を切り裂かんと迫りくる。

その攻撃を剣で流し、または切り飛ばし自身の背後にある教会を護るように一人殿を務めるノックスの体は誰が観ても限界であることは明らかだった。

 どんなに触手を切り裂いても、その次にはすぐにまた新しい触手が生え迫ってくる。

途切れること無く繰り返される攻撃は、着実にノックスの体力を削っていく。

「魔法の使える者はそれぞれ教会周辺のモンスターをノックスに近寄らせるな!

それ以外の者は防御を固めろ!」

「「「はっ!!」」」

騎士達にそう指示を出したヴァレリオは、自身も魔法でモンスターを倒していく。

それでも湧き出てくるモンスターの数は減らず、ノックスに加勢に行こうにも行けない状況だった。

「ノックス!」

「がひゅッ…………?!」

 地面に絶え間なく滴り落ち、足元に小さな出来ていた血溜まりにノックスが足を取られた。

体制を崩したその一瞬に、カマキリを彷彿とさせる鎌がノックスの体を貫いた。

ズルリと抜き取られたソレに片膝をついたノックス。

それに対してまるで嘲笑うように体をくねらせるキメラのモンスター。

「全員、持ち場を離れるな!!」

だがノックスの治療や彼の元に駆け付けようとする仲間の騎士達を、他でもないノックス自身が咎めるように吠えた。

「うぐッ………絶対に持ち場を、離れるんじゃない。

護るべきはこの国の人々だ!」

 手に出した火球で突き刺された箇所を炎で焼き止血をしたノックスは、剣を支えに立ち上がった。

フラフラになりながらも、それでも彼は諦めなかった。

「お前達には何が見える」

ノックスの前には未知なる異形のモンスターが。

騎士達の前にも無数のモンスターがその命を食らいつくさんと迫りくる。

「恐怖か、それとも絶望か。

だが我らは誇り高き騎士なり!

例えこの身が朽ちようと、その想いは不滅!

臆するな前を向け!敵は待ってはくれないぞ!!」

毅然とした声で言葉を放つノックスの目は、ただまっすぐに目の前の敵を見据えている。

そこに恐怖はなく、絶望もなく、ただ護るべき者達を護らんとする強い意思だけがその瞳の中で燃えていた。

「まだこの体は動く!まだ戦える!騎士である我らが敵を前に臆することはない!!」

ノックスの言葉に胸が揺さぶられ恐怖に屈しそうだった者達の瞳にも炎が燃え盛る。

手に持った剣や盾、杖を持つ手が震える。

「私は仲間である君達を誇り思い、決して屈することは無いと信じているが_____それは私の勘違いか?」

 息を呑み瞠目する仲間の騎士達を一瞬だけ横目で見やり不敵な笑みを浮かべたノックス。

「そんなわけ無いでしょう」

「自分達は護りたいものを護るために棋士になりました。ここで屈して何が騎士ですか」

「団長の仲間として、ここで負けてなんかいられませんよ」

 再度強く握る湿られた剣が、盾が、杖が、戦意を取り戻したように光沢を放つ。

応え気炎を吐き奮起する騎士達の声にノックスは笑みを深め、ヴァレリオは悲観の消えた燃え盛る炎の如き気迫を上げる騎士達に流石だなと言葉を溢した。

 ノックスの言葉に投じられた火種が彼等の中で燃え上がる。

地面を蹴り飛ばし異形のモンスターへと走る。

モンスターを相手取る騎士達の手は先よりも強く気迫に満ち満ちていた。

そこには、先までの恐怖も何もなくただ前だけを見据える者達がいた。

 どれだけ傷付こうとも決して屈しず助け合い支え合いながら彼等は敵を見据え剣を振りかざし、盾で仲間を背後にいる護るべき人々を護り、杖で魔法を行使する者は敵を葬り仲間を護り回復させ戦場をより有利なものにしようと戦っている。

 恐怖に屈しず絶望しない人間達に苛立ったように、無数にいたモンスターも異形のモンスターもその牙を打ち鳴らし鎌を振るう。

前へと突き進むノックスは、その鎌が自身の鎧や肌を傷付けるのも気にせず敵を倒すことしか見えていない。

そしてその剣が、遂に異形のモンスターのムカデの様な脚を斬り落とした。

勢いはそれだけに留まらず、剣を振り回しその身を切り裂き苦痛に鎌を振るうその触手さえも次々と切り裂いていく。

「っクソ!」

 だが異形のモンスターもただやられている訳ではない。

一つでも厄介な触手を複数束ね、ノックスへと横薙ぎに振るったのだ。

剣で何とか防御したノックスだったが、その威力は凄まじく、殺しきれなかった勢いでノックスの体は背後へと吹き飛んだ。

吹き飛ばされた背後では、この勢いを利用して串刺しにでもする気なのだろう。

ノックスの背後では彼を待ち受けるように、異形のモンスターのあの触手の刃がその背に迫っていた。

何とか剣を地面に突き刺し勢いを殺そうとするも間に合わない。

何とかこの状況を覆そうと思考を回すも、その間にも時間は過ぎていく。

「_____よく耐えた。お前に団長を任せて正解だったな。

でもその傷を放置するのは頂けないぞ?」

「_____矢張り任せて正解でしたね。

無茶のし過ぎは身を滅ぼしますよ」

「アーテル様、テネブラエ様…………」

「俺達も手を貸す。お前は他の者に指示を出して戦うんだ」

背後に迫った触手を切り飛ばしたロベルトに、ノックスの体を受け止め魔法師達の元まで運んだジュラルド。

まだ戦えると動こうとするノックスを押し留め回復ポーションをその手に握らせ、分隊から離れた二人の魔法師に回復魔法を行使する様指示を出した。

一旦回復に集中しろと命じたジュラルドの言葉に不服そうな顔を隠そうともしないノックスに苦笑を溢したジュラルドは、動ける様になったなら来いと言って異形のモンスターと対峙する片割れの元へと駆け寄った。

「せっかく部下が男を見せたんだ。その上司であった俺達が何もしないわけにはいかないさ」

「避難も完了させましたし、後はこのモンスターを倒すだけですからね」

ノックスの声に、叫びに、想いに心を揺さぶられたのはジュラルドとロベルトも同じ。

ビキビキと音をたてる異形のモンスターを前に、二人の騎士が立ち塞がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ