第七十四話
「なんで……」
何事も無く終わるはずだったパーティは、突如として終わりを告げた。
そして悲鳴が響き渡り、国中が炎に包まれた。
今まで見た事もないモンスターが国中を闊歩し、恐怖が国を満たしていった。
事が起こる数時間前、パーティもそろそろお開きだと言う頃にそれは起きた。
「ルイーナ・ファウスト!!俺はお前の悪事を知ってるぞ!!」
パーティの席で、急に声を荒らげた男がいた。
「お前は騎士団の団長であるジュラルド・アーテル様とロベルト・テネブラエ様を洗脳しただろう!!」
「洗脳?」
「そうでなければあの方々がお前のような、当主争いに負けたお前如きと共にいくために騎士団を辞めるはずがない!!」
「……ルイーナ様、彼はこの間お話したブランドと言う男です」
そばにいたロベルトがルイーナの耳元に唇を寄せす囁いた。
確かに聞いていた話の通りの性格だということは真っ直ぐすぎる目を見れば分かった。
だがブランドと言う男は、その目に憎悪と嫌悪といった感情を乗せてルイーナを睨んでいた。
「失礼ですが、洗脳とは?」
「お前は闇の魔力を使ってジュラルド様とロベルト様を洗脳したんだろうが!」
「えっと………申し訳ありませんが私に闇の魔力の適正はありませんよ?」
「金で闇魔法使いでも雇ったんだろう?!
ファウスト家なら金でなんでも解決できるんだからなぁ?」
パーティ会場にいた客達がざわつき始めた。
それもそうだろう。
ルイーナが闇魔法を使って騎士を洗脳したと叫ぶ男がいるのだから。
だが、その当事者であるルイーナはその状況に陥っても慌てる事もなくただ小さく首を傾げているだけだった。
「確か彼って魔法は余り得意では無いんだよね?」
「お恥ずかしながら魔法の腕は良いとは言えませんね」
だからかと内心ルイーナは呟いた。
闇魔法は確かに洗脳が出来る。だが洗脳するには本人が闇魔法を使用しなければ意味がない。
例え他者の力で洗脳したとしても、その魔法を行使した相手にしか洗脳された者は言うことも聴かないし反応を返すこともない。
それに闇魔法は長時間使用し続けていれば、その身に纏わり付く闇の気配は濃くなる。
魔法の心得がある者であれば、コレを知らない者はいない。
「少しいいか」
「…………チミテーロ伯爵」
「ルイーナ殿が魔法を使ってそこのロベルト殿やジュラルド殿を洗脳したと言っていたが、証拠はあるのかな」
「証拠も何も、こんな何も持たない病弱な子供に騎士団団長とその右腕である方が騎士団を抜けてまでついて行こうとするわけが無いでしょう」
「では質問を変えよう。彼等が騎士団を抜けてから何日たった?」
「少なくとも一ヶ月以上はたっていますが、それが何か?」
「ならば、彼等から他者から使用されたであろう闇魔法の気配が感じられないのは何故だ?」
「そんなの……」
「あぁ因みに闇魔法の気配は洗脳魔法を使用していれば隠す事は歴戦の魔法使いでも難しいだろう」
言葉を詰まらせるブランドにヴァランガはあの鋭い目を向けている。
周囲で話を聴いていた客達も初めはルイーナにブランドと似たような目を向けていたが、他でもないヴァランガが言うのであればそうなのだろうと、今度は訝しげな目をブランドへと向けていた。
「っ何だよ………、だがコレを使えば俺の言うことが本当だって事が分かるだろう!!」
「アレは………」
ブランドが胸元から取り出したのは、禍々しい色をした手の平サイズの珠だった。
その珠から漏れ出る闇の気配。
身の毛もよだつ闇という寄りは死の気配に、咄嗟にロベルトが魔法を使いその珠を破壊しようとするが、それは障壁のように展開された防御魔法に邪魔されブランドにも珠にも当たることは無かった。
床に叩き付けられ、ガラスの砕ける様な音と共に周囲に蔓延し出す闇の気配。
だが、ブワリと珠から解き放たれたのは気配だけではなかった。
大気を震わせ、人の本能的な恐怖をも震わせる咆哮が放たれた。
一言で言うならば様々なモンスターの集合体とでも言えば良いのだろうか。
巨大な蛇を思わせる体躯に収まりきれていない骨や肉塊がその体を突き破りウゴウゴと蠢いている。
ギョロリと周囲を見渡す四対の血の如き真紅の光だった。
人狼族特有の赤い瞳よりも色濃く毒々しい。
成人した大人の体でも丸呑み出来そうな程に巨大な大顎。その口の両側には九つの孔が空いている。
その特徴を持つモンスターを、ルイーナは実際には見たことは無いが知識としては知っていた。
「ラムトン………」
イギリスの竜伝承で語られるワームの形をしたモンスターが、その全貌をルイーナ達の前に現した。




