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第六十八話

 朝食を食べ終えたシリルは、アマラから受け継いだ本を読み更に魔法を上手く使えるようになるんだと部屋へと戻った。

そしてそのシリルを見送ったルイーナは、セルペンテを探すと同時に屋敷内の探索をしていた。

「セルがいない…………、と言うかそれにしても凄いなこの屋敷。

でも、ここ何処だ?」

 屋敷の中を当てもなくフラフラと彷徨い、セルペンテを探していたはずが、何故かルイーナは今日まで一度も見たことのない場所にいた。

 教会を連想させる色鮮やかなステンドグラスが正面と頭上から差し込む光に照らさている。

 今にも神様か天使様でも降りてきそうな雰囲気だった。

「はえ〜、ここに居たら俺も天国に逝けるのかな?」

自嘲気味に思わず溢れでた自分の言葉に苦笑して、その部屋に備え付けられていた椅子に座り頭上を仰ぎ見たルイーナ。

「貴族様が死んだら、あの人も死ぬんで勘弁して下さい」

「…………せいえーさん?」

「そうですけど………脳みそ蕩けてます?」

「……暖かいから、少し眠くなって」

 ぼーっと頭上のステンドグラスを眺めていたルイーナの視線を遮るように、長い前髪でその瞳を見ることは叶わないが一人の青年が顔を覗かせ、手を軽く振った。

暖かな日差しに眠気を覚えていたせいか、特段驚くこと無くぼんやりとその人物を寝ぼけ眼で眺めるルイーナ。

「こんなとこで寝たら風邪ひきますよ。

それにここは綺麗ですけど、そんないい場所じゃないんで。

アンタがいる所をボスが見たらどうなるか分かんないっすよ」

「…………セルが?」

 欠伸を溢し目を擦りながら座っていた椅子から立ち上がり伸びをしたルイーナは、青年の言葉に首を傾げた。

 ルイーナにとってセルペンテは大切な友であり志を同じくする同志であり、陰として頼れる部下の一人だ。

そんな彼がこの場所を造ったことにも驚きだが、好きに見て回っていいと言っていたセルペンテが、ルイーナがこの場所にいるのは何か不都合な事でもあるのだろうか。

ならどうして初めに言ってくれなかったのかと不思議に思ったのだ。

「別にボスに見られなければ居てもいいと思いますけど、良くも悪くもあの人は俺らと同じなんで。

盲目的に神や天使、悪魔を信じるボスとそんなあの人の後を信者のように付いてく俺らってなんか似てません?」

「そう、なのかな?」

 互いに首を傾げていた二人だが、とりあえずここから移動しようと青年の案内の元、ルイーナはその神聖で不思議な場所から後ろ髪を引かれる思いでその場を離れた。

「探検ですか?

それとも迷子?」

「セルペンテに聴きたい事があって探してたんだけど、見つからなくて」

「なら案内しますよ。俺場所知ってるんで」

「お願いします」

 青年の言葉にルイーナがこの場所に迷い込んでしまった経緯を話すと、青年は頷きセルペンテの元に案内すると先を進んだ。

「それにしても、よく俺が精鋭の奴だって分かりましたね?」

「その袖口のボタンです」

「コレで?」

そう言って、青年が掲げた腕の袖口には金色の小さなボタンが付いていた。

「シリルを探す時にいた人達は銀色でしたけど、セルが精鋭だと教えてくれた人はその金色のボタンでした。

だから、貴方もそうかなと」

「おぉ、よく見てるんですね。アンタの言う通りこのボタンの色で分けられてます。

金色は精鋭…まぁ幹部的な存在で銀色が部下ですね」

 凄いなと感心する青年に偶々だと照れたように頬を掻くルイーナ。

そんな彼の様子をチラリと見やり、青年はルイーナを自身のボスがいる場所へと案内する。

「(確かにボスの言う通り穏やかそうな人だけど、なーんか腹に抱えてそうだな)」

 穏やかで清廉、それが青年が見たルイーナの第一印象だった。

あの美しく不気味な場所は、ルイーナによく合っていた。

それこそ彼の為に造られたのでは無いと知っていても、それでもしかしてと思ってしまうほどによく似合っていた。

 人の事ばかりの平和主義者は只自分に酔った人間ばかりだと思っていた。

だから初めはコイツも同じなんだと心の何処かで思っていた。

 だが実際は違う。そんな生易しいお綺麗な人間じゃなかった。

「(この人、俺らやボスと近いんだ。

ただそれを隠すのが異様に上手いだけで…)」

 青年は自分のボスも仲間達も狂っていると自負しているし、だからこそこの場所では息がしやすいのも自覚している。

 だからこそ不思議だった。

何故そんな狂っているボスが、こんな甘ったれな奴を主と仰ぐのか。

 だが、どうだ。

この人も十分狂っているじゃないか。

異様なまでに人の死に敏感で恐れている。

だが自分の命は何とも思わない。

護れなければ意味がない。生きる価値など無いと言うように。

 狂気的なまでの自己犠牲。

何故こうなったのか。

何が彼を壊して狂わせたのか。

知りたいと思うと同時に恐ろしい。

それを知ればもしかしたら自分も………………。

 ゾクゾクと背筋を駆け上がるコレは恐怖か快楽か。

それを表す言葉は分からないが、ただ面白いと、そう思った。

「ボスはこの先の部屋ですよ」

「案内してくれてありがとう。助かりました」

「別に、俺もこっちに用事あったからアンタのはついでだから」

 まぁ自分がそれを知れるのはまだまだ先だろうと、青年はルイーナをボスのいる部屋まで案内した後、鼻歌交じりにその場を去った。

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