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第六十七話

 早朝、ルイーナの姿はセルペンテの屋敷の中庭にあった。

「おはようございます」

「おはようシリル」

 陰としての仮面を付け、屋敷からパタパタと駆け寄ってきたシリルにルイーナは口元に笑みを浮かべ片手をヒラリと振った。

「昨日も遅くまで起きてたんだって?」

「あっ、えっと……本を読んでて」

「起こってる訳じゃないよ。でも寝ないと大きくなれないぞ〜」

「気を付けます」

 わざわざ整えてきたらしい髪を崩さないようにルイーナがシリルの頭を撫でれば、彼は嬉しそうにはにかんだ。

「読んでいた本って彼女の?」

「はい。あの方もそうですが、あの本も凄いんです! 魔法は得意では無かったんですが、あの本の通りやってみたら今までに無いくらい上手く出来たんです!」

「今日はソレを見せてくれるんでしょう?

昨日教えてもらってから楽しみにしてたんだ」

 昨夜、夕食や風呂も終えそろそろ寝ようと言う所でルイーナは控えめに鳴らされたノックの音に仮面を付けて答えた。

陰として共に動くジュラルドやロドルフォ、セルペンテや彼の部下達であればノックの後に名を名乗り入室の許可を取るだろう。

それが無いという事は、彼等以外の人物ということ。

その条件が当てはまる人物は、この屋敷にはただ一人だけ。

「夜分遅くに申し訳ありません」

「大丈夫だよ。でも、こんな遅くにどうしたんだ?」

 扉の先にいたのは、ルイーナの予想した通りシリルが立っていた。

「あの、明日お時間はありますか?」

「うん? 大丈夫だけど……何かあったの?」

「アマラさんがくれた本なんですけど、僕自身魔法が得意では無いんですがスペランツァ様に見て頂きたくて……」

「あぁ、そういう事か……。

勿論いいよ。明日も朝から稽古するんだよね?」

「はい」

「それじゃあ、彼には俺から言っておくから明日は俺とやろうか」

「いいんですか?よろしくおねがいします!」

 それが昨夜の出来事だった。

アマラの魔力を受け継いだルイーナは彼女の精錬され磨き上げられた魔力から、彼女自身が優れた魔法師である事は分かっていた。

だからこそアマラの残した魔法師としての技術はルイーナ自身も気になっていた。

「それじゃあ、何を見せてくれるの?」

「スペランツァ様は蝶はお好きですか?」

「まぁ嫌いでは無いよ」

「でしたらこんなのはいかがでしょう」

 言ってシリルが自身の周囲に浮かばせたのは、仄かに淡くオレンジ色に光る蝶だった。

「おぉ〜、綺麗だね」

「ただ綺麗なだけではありませんよ。

この蝶は自身の魔力に形を持たせ、その込め方によって攻め方も変わっていくんです」

「へぇ?なら俺に撃ち込んでみなよ。

手加減は要らないから」

「………では、お言葉に甘えて」

 そう言って指揮者のようにスイッと手を動かしたシリルの動きに合わせるように蝶が本物の蝶の様に自然な動作でルイーナの元へと飛んできた。

「あ、成程そういう事ね」

 そしてルイーナの目と鼻の先まで近付いてきた蝶は、急激にその魔力を暴発させた。

それは小さくも凄まじい爆発を齎し、直撃すれば火傷だけでは済まないだろう威力があった。

 蝶の魔力が膨張し爆発する直前に、その魔力の変化に気付いたルイーナは背後に跳躍する事でその攻撃を避けたが、蝶は爆発した一匹を除いてもまだ複数シリルの周囲に漂っている。

 空中にいるルイーナへと更に追撃を掛けるように漂っていた蝶がルイーナ目掛けて飛んできた。

空中にいては足場もない中、その攻撃を避ける事は難しいだろう。

だがそれでもルイーナは焦り一つ見せること無く、それどころか楽しそうに笑みを浮かべていた。

「じゃあ綺麗な物を見せてくれたお礼に、剣技を見せてあげよう」

 腰から下げていた剣を抜き出し、目の前の蝶を躊躇なく斬りさいたルイーナは地面に足を着くと同時にぐるりと体を回転させ、囲むように飛んでいた蝶を一気に切り捨てた。

それでも今だ増え続け飛んでくる蝶をまるで舞うように切り裂いていく。

切り裂かれキラキラと鱗粉めいた魔力を残し消えていく蝶の中心で踊るように剣を振るう姿は、まるで楽しげに踊る妖精のようだった。

「はい、お終い」

 そして最後の一匹を切り裂いたルイーナは、その剣先を地面へと突き刺しシリルを見て言った。

その顔にはあれだけ動いていたにも関わらず、汗の一つもかいてはいなかった。

「流石としか、言いようがありませんね……。

やっぱりスペランツァ様はお強いです」

「ふふ、でもシリルのも中々強かったよ。

蝶に込めた魔力って一つじゃないでしょう?

器用だね」

「あはは、火の魔力と風の魔力を込めてみたんですけど……すぐに攻略されちゃいましたね」

「そこはまぁ、経験の差かな?

でも俺もうかうかしてられないね。すぐに追いつかれちゃいそうだ」

「スペランツァ様を護れるくらい強くなりますからね」

 クスクスと楽しげに笑うルイーナとシリル。

 屋敷の中から二人を呼ぶ声がかかるまで、そのまま二人は魔法と剣術について話し合っていた。

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