第六十六話
「敵の拠点は?」
「それらしい場所は全て探しましたが、良い報告はありません」
「手を貸した貴族に囲われてるか、もしくはダンジョンに潜ってるのか……」
「ん?何でダンジョンなの?
確かにモンスターを売り捌く様ならダンジョンに潜ってた方が効率はいいけど、それ以上に危険じゃないか?」
敵の拠点について話し合っている際にロドルフォのこぼした言葉に疑問を持ったルイーナが、不思議そうに首を傾げた。
ダンジョンは常に内部には無数のモンスターが存在する。
それも隠れられるような場所は大抵がモンスターの巣穴かトラップの類が殆どだ。
「ダンジョンに入るには許可証の発行が必要の筈でしょう?
それに入り口には警備がいるのにどうやって……」
「ダンジョンはその存在自体が未知数です。
そのため、稀に許可証を発行されていない者の死体や遺品らしきものが発見される事があります」
「つまり、ダンジョンにはこちらも把握していない入り口が存在しているって事〜」
「ダンジョンは天然物なのでギルドも把握できていない場所があっても可笑しくはありませんからね」
「あぁ、だから候補にダンジョンも入ってたのか………」
ロドルフォとジュラルド、セルペンテの言葉に納得し頷いたルイーナにセルペンテは懐から地図を取り出しテーブルの上に広げた。
「現状怪しいと判断された貴族三人の監視、そして比較的国に近い場所に存在するダンジョン内部の捜索を行っていますが、ご覧の通り数が多く人員も足りていません」
セルペンテが広げた地図には、この国の周辺に存在するダンジョンが赤丸で示されていた。
そして赤丸と共にそのダンジョンに派遣した人員数も書かれていた。
「貴族の三人には精鋭達がついています」
「その精鋭ってのは本当に信用できるの?
特にヴァランガ・チミテーロ伯爵のところは気配にも敏感だし、誰も寄せ付けないので有名でしょう?」
セルペンテを信じきれていないらしいジュラルドが煽るような目を向けるが、ソレに対してセルペンテは苛立った様子の一つ見せること無く、無表情でただ静かにジュラルドを見つめ、その背後を見遣った。
「……アルファ、止めなさい」
「ッ?!」
「承知致しました」
いつの間にいたのか、ジュラルドの背後には黒装束に身を包んだ人物が立っていた。
____その手に持ったナイフをジュラルドの首筋に当てて。
「彼は私の精鋭の中の一人です。他にも何人かいますが、彼等についてはまた後日ご紹介いたします」
「………もしかして、俺の部屋に食事を用意してくれたり、何時の間にか片付けられてたり紅茶とかを用意してくれてるのって?」
「彼ですね」
「そうだったんだ……。ありがとう」
ナイフをジュラルドの首筋から離し数歩背後に下がった黒装束__忍者のような装い__の彼を見つつ尋ねればそうだと言うように頷いたセルペンテ。
そして返ってきた答えに、笑みを浮かべて礼を言えば黒装束の彼は何も言わずペコリと小さく頭を下げた後、まるでその場に溶け込むように姿を消していった。
「この屋敷は私と精鋭たちで造ったものですから私達だけが知っている抜け道もあります。
それに、陰である主に仕えているのですから周囲に溶け込み気配を消す方法も心得ています。
それだけではまだご不満ですか?」
「………いや、これに関しては俺の見る目が無かったみたいだね。済まない、謝るよ」
「お気になさらず」
姿を消したアルファと呼ばれた彼を見送り、これでもまだ不満があるのかと静かに問いかけるセルペンテに、ジュラルドは肩を竦め降参だと両手をあげ謝罪の言葉を口にした。
それに対してセルペンテが小さく鼻を鳴らした。
「そう言えばこの屋敷凄いよね。
職人が造ったとしか思えないよ………」
「恐縮です」
改めて室内を見渡しながら言葉を溢したルイーナ。
屋敷は外装も内装もシンプルながら美しい物だった。
神聖さを感じさせる細かく美しい装飾に、その神聖さを損なわせない色合いを考えて置かれた家具の数々。
頑丈な作りのこの屋敷は、誰が見ても素晴らしいものだと答えるだろう程に完成されていた。
「ルイーナ様に気に入って頂けたなら私も、そして彼等も喜ばしい限りです」
恭しく左胸に手を当て頭を下げたセルペンテにクスクスとルイーナが笑う。
その場にあった重い空気が消え去り、空になった全員のカップに再度温かな紅茶を注ぎ、菓子を摘む。
暫くの間、その場には楽しげな声と話し声が木霊していた。
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「では明後日にはファウスト家に戻るのですね?」
「うん。聴きたいことも聞けたし、パーティもあるからその準備をしないと」
「そのパーティですが、子供の誘拐事件といい今回のモンスターの件といい、状況はあまり良くありません。
当日は私供もそちらに向かいますが、どうかお気を付けて下さい」
「分かった」
ジュラルドとロドルフォが席を外した際にルイーナへと掛けられた言葉。
その言葉に嬉しそうに、気恥ずかしそうに笑みを溢しつつ感謝を伝えたルイーナに、セルペンテはいつもの無表情でなく不安そうな表情をして彼を見ていた。
「私は、貴方に救われました。
貴方の為に、どうか私をお使い下さい」
「………ありがとうセル。頼りにしてるよ」
祈るように告げられたその言葉に、ルイーナは目を細め感謝を告げたのだった。




