第六十四話
「やっぱり魔力が吸われてるような感じがするな……」
部屋に案内されたるイーナは、ふかふかのベットに寝転びながらボソリと誰に言うでもなく呟いた。
あの日、ダンジョンを出た時から。
そしてその後に起きたファウスト家に押し入った賊の一人を取り逃した時から。
その時から違和感はあったが、今回のアマラから受け継いだ魔力でハッキリした。
彼女の魔力は自分の中に色濃く感じられるのに、アルバと並び多いはずの自分の魔力があまり感じられないのだ。
これはもう只の不調では済まされない。
違和感は対処が遅くなればなるほど取り返しがつかないことになるのは、ルイーナがまだルイーナになる前の経験から良く身に……いや最早魂レベルで沁みているとも言えるだろう。
「吸われた魔力は何処にいってるんだ?」
今も意識を極限まで集中させれば、少しずつ少しずつ魔力が何処かに吸われているのが分かる。
何に吸われているのか。
もしくは誰に吸われているのか。
いくら考えても分からないそれに頭を抱え、ゴロゴロとベットを転げ回る。
「何かに使われてる?俺の存在のせい?
俺がした事で物語が少なからず変わってるし、ソレを戻そうとしてるのか……?」
二次創作であるような救済だったり物語をハッピーエンドにしようと紛争するが、原作やその世界が物語を本来のものに戻そうと色々手を回してくるなんて話は前の世界ではピル支部やその他の投稿サイトで書かれていた。
「その手の話だったら、原作に無かった敵キャラとかオリジナルで出たりしてたけど……もしここでも同じ事が起こったら俺は皆を護れるのか?」
魔力が身近に無かった何十年間を経験しているせいか、ルイーナにとって魔法は便利だが元より魔法が身近にあるこのゲームの住人よりも日常生活に溶け込んでいるわけではなかった。
確かに戦闘面では役に立つ。
攻撃も防御も出来る。
それに考え方や使い方によっては戦術の幅が広がるのだから。
だがルイーナにとっては、それだけでは足りなかった。
もし魔法が使えない状況になったら?
確かに魔法は強力だ。
だが重要な時に使えないなんて事になれば、それは何の役にも立たないのは火を見るよりも明らかだ。
魔法が使えない時に役立つのは己の頭と体だけ。
武器が無い場合や奪われた場合も考慮して、大切を護るために常に最悪の事態を想定しなければならなかった。
「…………もっと強くならないとな。
託されたものもある。叶えなければならない約束がある。
そして何より、俺には護りたい人達がいる」
足りない。まだ足りない。
ゲームはヒロインと悪役が学園に入学してからが本番なのだから。
ベットに寝転がった状態で目前に伸ばした腕を掲げ、拳を握りしめる。
強くなりたいと願う今のルイーナは、余りにも危うく今にも折れてしまいそうなほどに脆く見えた。
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「本当にコレであの人達を助けられるんだな」
「あぁ」
誰もが寝静まる丑三つ時
蝋燭の僅かな明かりが照らす暗い室内には二人の男がいた。
「団長達があんな餓鬼に付き従うなんて何かの違いなんだ。
今度は俺が、俺があの人達を助けるんだ……」
「それであの子供が掛けた魔法が解ける。
そうすればお前の望む通りになるだろう」
「感謝する、ペーゾさん」
「なに、俺もあの子供とは色々あるからな」
ペーゾと呼ばれたフードの男から受け取った小箱を握り締め、これさえあればとブツブツと呟く男。
その様子にペーゾは薄っすらと口元に笑みを浮かべた。
「(単純なやつ程、扱いやすい者はいないな)」
夜の闇は更に色濃く重い帳で世界を包み込んだ。
その闇に紛れるように、様々な思惑の混ざりあった悪意の手がルイーナと彼の護りたいと願う者達にも伸ばされている事を、この時はまだ誰も気付いていなかった。




