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第六十三話

 本を回収し、ルイーナとシリルは洞窟内を後にした。

「ご無事で何よりです、スペランツァ様」

 屋敷の前で二人を出迎えたセルペンテが怪我もなく森の中から出てきた安心して僅かに表情を綻ばせた。

 だがそれも一瞬で片眉をあげルイーナの背後にいるシリルを睨み付けた。

「シリル、何故勝手に森に入った……。

この森が危険だということはお前が一番良く知っているだろう」

「申し訳ありません」

「この子を責めないであげてくれ。

この子のお陰で知りたかった事を知る事が出来たんだ」

 知りたかった事?と目で語るセルペンテにルイーナは薄っすらと笑みを浮かべた。

そのルイーナの表情でこれ以上の詮索は出来ないと判断したセルペンテは仕方ないと頭を振った。

「はぁ………、まぁ良いでしょう。

菓子と温かい紅茶を用意してありますのでどうぞ」

「ありがとう、セル」

 屋敷の扉を開き招き入れるセルペンテにだけ聞こえるようにルイーナが通り際に囁やいた言葉に、セルペンテは小さくため息を溢した。

 部屋へと案内される中、シリルは疲れたのかそれとも屋敷に戻ってきて安心したのか目を擦っていた為、ルイーナとセルペンテンに促され自身に与えられた部屋へと戻っていった。

「あ、スペランツァ様」

「無事で何よりです」

 シリルと別れて案内された部屋には、今のルイーナと同じ様に仮面を付けたジュラルドとロベルトがいた。

シリルが来ても良いようにと念の為に付けていたようだ。

「心配してくれてありがとう。あの子はいないから外して大丈夫だよ」

 ソファに座り仮面を外したルイーナに習うようにジュラルドとロベルトも仮面を外した。

そして目の前に置かれた温かな紅茶を飲んで一息ついたルイーナにジュラルドの質問が飛んできた。

「それで?

ルイーナ様、勿論ソレについての説明ありますよね?」

「何が?」

「分かってるよね?

……その魔力、森で別れる前には感じられなかった」

 ルイーナの魔力と混ざった得体のしれない魔力を忌々しそうに睨み付けながら告げられた言葉に、矢張り彼は気付くかと苦笑を溢したルイーナは持っていたカップをソーサーに置き席に座りこちらを見る三人を見据えた。

「森の至る所で観測された魔力の一部と、今のルイーナ様から感じられる魔力は似たものの様に感じるのは俺だけ?」

「………別に隠すつもりは無いよ?

ちょっと縁があってね」

「も・ち・ろ・ん、ちゃーんと説明あるんですよね??」

「ちゃんと説明するから睨まないで……」

 また何か良からぬ者でも引っ掛けてきたのかと疑うような目線に、ルイーナは降参だと軽く両の手をあげシリルを見つけた洞窟内で会ったアマラとの事を話した。

「彼女は誰かに託したかったんだよ。

だからシリルには自身の知識を纏めた本を託し、俺には彼女自身の魔力を託して天に昇って逝ったんだ」

 ただし、アマラが自身の王に誓った忠誠の儀式を他でもないルイーナ自身が解呪した事は隠して。

今後、忠誠の儀式はルイーナの計画の邪魔となる。

ただでさえ動きにくくなっているのだ。もしもルイーナが忠誠の儀式を解呪する方法を知ったとわかれば、ルイーナに何故か過保護な彼等が何をしでかすか分からない。

「(これで嘘と本当を混ぜればバレないし、あの痛いのが発動しない事も分かったな)」

 嘘を付いた場合に起こるあの現象も、本当を混ぜれば起きない事に内心安堵した。

「うーん、疑ってる訳じゃないけど後でシリルって子供から本を見せてもらおうか」

 気になるからね〜。と表情を崩し笑うジュラルドは言うが、目が笑っていない事からルイーナの話が本当かの確認も兼ねているのだろう。

だが、何もルイーナはその対策を怠ったわけではない。

 屋敷着く前にシリルの記憶を少しだけ弄らせてもらったのだ。

記憶の全てではなく断片的に。

三人に話した通りルイーナが忠誠の儀式を解除した事をだけを消し、綻びがないように繋げて。

「取り敢えずただ魔力を受け継いだだけで何も問題は無いよ?」

「確かに問題は無いかもね?

………ただ魔力を受け継いだだけなら」

「何か言った?」

「何も?

それよりルイーナ様も疲れたでしょう。

少しだけでも休んだ方が良いんじゃないですか?」

「そうですね。部屋にご案内します」

「ありがとう、そうさせてもらうね」

 セルペンテと共に部屋を後にするルイーナの姿が見えなくなった途端、ジュラルドの纏う雰囲気は重苦しいものへと変わった。

「ロベルト」

「はい」

「さっき言ったのは本当だな」

「はい、確かに感じられました。

ルイーナ様から今まで感じられなかった闇の魔力が」

「あーぁ、あの子はなんでこう………」

 項垂れ頭を抱えるジュラルドの空になったカップに紅茶を注いだロベルトも何とも言えない表情を浮かべていた。

 ジュラルドはルイーナの魔力に彼のものではない誰かの魔力は感じられたが、その魔力が何であるかは分からない。

だが、ルイーナから感じられた魔力が何であるかロベルトだけが分かった。

その魔力は、ロベルトにとって馴染み深いものであったからだ。

 ロベルトが自身の掌に出したのは黒く燃える炎。

何もかも飲み込んでしまいそうな闇が、その手にはあった。

「………私よりも色濃い闇の魔力が、ルイーナ様の魔力と混ざり合っていました」

「闇の魔力を持つ君が言うんだから間違いないだろうな」

 ジュラルドは知らない。

ルイーナが忠誠の儀式の解呪方法を見付け、今後何を計画しているのかを。

 ロベルトは知らない。

闇の魔力が厄災と同じだけでなく繋がっているという事を。

 セルペンテは知らない。

ルイーナが闇の魔力を持ち、近い将来遠くに逝こうとしている事を。

 ルイーナは知らない。

闇の魔力を持った事を知られている事を。

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