第六十二話
「あれ?でもそれと貴女がここに縛られている事と何の関係があるんですか」
「うむ。
厄災は王の全てを手に入れること無く子の地に降り立った女神に封じられたんじゃがなぁ」
「待って欲しい。王の全てはってことは、厄災は王の何かを手に入れたって事か?」
「厄災は封じられる直前に王の魂の半分を奪ったのじゃ………。
忠誠の儀式をしたにも関わらず、王を護れなかった儂等は王がこの世を去った後も厄災と共に封じられた王の魂が天に昇るまで縛られておるのじゃよ」
護れなかった儂等にはぬるすぎる罰じゃなと様々な感情の合わさった下手くそだと形容できるような笑みで話す女性は、涙を流しはしないものの泣いているようだった。
「儂等はそれぞれ故郷の地に縛られておる。
ここも嘗ては沢山の人々が住まう美しい国があった。
だが戦争が起き何もかもが消えた。
それを何も出来ず見ている事しか出来なかった儂は何度も死にたいと思ったさ。
まぁそんな事出来ないと分かっているがの……」
どれだけ悲しんだのだろうか。
その思いは計り知れないものだろう。
何も出来ず見ているだけしか出来ないことは、何よりも辛く苦しいものだ。
どれだけ叫んでも、どれだけ手を伸ばしても、どれだけ止めてくれと懇願しても何も届かないし何も変わらない。
救うことも、慰めてやる事すらも出来ない。
死にたいと願ってもそれすら許されず、何も出来ない己など殺してくれと叫んでも誰にも聴かれず答えなど返っては来ない。
「………もし、もしも天に登れるとしたらどうしますか」
「ははは面白いことを言うなぁ。
そうさなぁ…、天に召します儂等の王の元へ逝きたいものさね」
そう苦笑と共に言う女性に、もしかしたらという考えがルイーナの中に浮かんだ。
ルイーナ自身、考えていたのだ。
忠誠の儀式での誓いを無効にする方法、解呪する方法を。
「その王の魂の半分でも天に昇っているのなら、俺は貴女をここから開放できるかもしれない」
「?!」
驚きに目を見開いた女性はルイーナを信じられないと言った様に見ていた。
ルイーナの傍に腰掛けていた子供も、驚いた様に見上げていた。
「貴女がそう望むのなら、俺は自分に出来る全てを用いて貴女を救います」
ルイーナは忠誠の儀式をされた側だ。
だから分かる。今目の前にいる女性を縛り付けているのは儀式によって繋げられて魔力のせいだと言うことが。
忠誠の儀式はされた側はした側の魔力を流し込まれす。
流される魔力は互いを繋ぐ糸となるのだ。
魔力は人の命そのものだ。
「貴女は今も魔力があるんじゃないですか?」
「確かに魔力はあるが、魔法は使えんぞ」
その言葉に、ルイーナは自身の考えが合ってるのだと確信した。
女性の魂には、恐らくその王の魔力が女性自身の魔力と混ざり合っている。
だから天に昇ることも出来ずに、今も厄災と共に封じられている王の魂の半分に引っ張られるようにこの地に縛られているのだ。
「その魔力が貴女をここに縛り付けている」
「魔法も使えないこの身では、魔力を使い切ることは出来ないと分かっているじゃろう?」
「はい。ですから、貴女さえ良ければ貴女の魔力を俺に下さい」
「……スペランツァ殿、自分が何を言っているのか分かっておるのか?」
その問いかけに、ルイーナはただ笑みを浮かべた。
魔力をルイーナに流すだけなら、魔法が使えなくても簡単に出来る。
だがそれはつまり、ルイーナがその王の魂の半分と繋がるということ。
ルイーナ自身は死んでいないから、魂だけとなって縛られることはないが死ねば彼女と同じ様に魂だけとなって天にも昇れず何処かに縛られるということ。
「元より俺の目的は厄災から大切な家族を護る事です。
それまで死ぬつもりは微塵もない。
厄災に王の魂が囚われてるのなら、俺が必ず救い出します。
その王が願ったように厄災も必ず」
「は……はははははははははっ!!
スペランツァ殿、主は儂等の王によく似ておる。
その狂気じみた真っ直ぐさがな」
「貴女のような美しく聡明な方が忠誠を誓った王に似ているなんて光栄です」
「………本当に良いのか?」
「何も打算が無いわけでは無いですよ?
護るには力がいる。
その為に俺は貴女の魔力も後悔や未練も利用しているだけです」
「……優しいな。王と同じくスペランツァ殿は優しすぎる。
いつかその優しさに殺されるぞ?」
「そう簡単にくたばってなんてやりません」
ルイーナが彼女が気に悩んだりすることの無いように態とそんな口調を使っているのだと分かった。
それ故に、彼女は警告した。
嘗ての自身の唯一の王とよく似ているこの子供が、その優しさで身を滅ぼす事とならないように。
「強いな、スペランツァ殿は。
………どうかこの老いぼれの魔力で良いのならもらっておくれ。
そしてどうか、儂等の王を救ってくれ」
「はい、必ず」
「感謝するスペランツァ殿……。
儂の名はアマラ・ギャレットと言う。
あぁそうだ、儂の話し相手になってくれていた主は姓が無いと言っていたな。
せめてもの感謝にこの先にある儂の知識を書き留めた本と儂の姓を貰ってくれないか」
「良いんですか」
「君にも救われらからなぁ」
「………ありがとうございます」
子供は女性、アマラの言葉に頷き軽く頭を下げた。
それに嬉しそうに表情を綻ばせたアマラはルイーナへと向き直り、立ち上がり近くへと歩いてきたルイーナへと彼女自身も近付いて行った。
片膝を付き頭を垂れたルイーナにアマラが手を伸ばす。
「どうか王を頼む」
触れるだけの口付けがルイーナの仮面から僅かに覗く額に当てられた。
そしてその触れた部分からアマラの願いや想いと共にルイーナの中に彼女の魔力が流れ込んできた。
「はい。
どうかよい夢を」
「ありがとう……」
魔力を全てルイーナへと流し入れたアマラの体は背後の岩肌が透けて見えるほど、薄っすらとしたものになっていた。
そしてルイーナの言葉に、大輪の花を思わせる少女のような笑みと一筋の涙と共にアマラは姿を消した。
まるで初めから何もなかった様に……。
だが、アマラがここにいた事をルイーナの中に流れる彼女の魔力が、アマラから姓と知識を受け継いだ子供がいるこの事実が彼女が存在していたというい事を物語っている。
「……それじゃあアルマさんが残してくれた本を持って来たら家に帰ろう。
そういえば、まだちゃんと名前を聞いてなかったな」
「あ、そうでした……。
改めまして、僕の名前はシリル・ギャレットと言います。よろしくお願いします」
嬉しそうに、そして誇らしそうに名前を告げたシリルにルイーナは彼が本を持ってくると言ってアマラが示した洞窟の先に走って行く背中を、ただ呆然と見ている事しか出来なかった。
「嘘じゃん……」
シリル・ギャレット
それは後のゲームの攻略対象の一人の名前だった。




