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第四十八話

縛りは、王を死なせないた為の物だった。

縛りは、王をこの世に繋ぎ止める為の物だった。

王はこの時、初めて人の前で涙を流した。

自分独りが犠牲となれば民も国も世界も救われると言うのに、何故自分を厄災の元へと逝かせてくれないのかと。

何も出来ない自分を、何故求めるのがと。

王を止めた者達は言った。

王に死んで欲しくないからだと。

自分達に幸福と救いを与えてくれた王を失いたくないのだと。

………だからこそ、縛るのだと。

王を死なせたくなかった。

王を贄になどさせたくは無かった。

恨まれても憎まれても、それでも構わなかった。

それでも王には生きていて欲しかった。

王が贄となる為に嘘を付いてまで逝こうとすれば、王の身体は儀式により付けられた鎖によって縛られた。

王が逝こうとすれば枷がその足をその腕を縛り、王の体を縫い留めた。

だが、儀式には双方に代償があった。

王を縛り付けた者達は、王へと誓った忠誠を疑えば身体を呪いに蝕まれる。

そして王に災いが降り掛かれば、自分達もその災を背負う。

王への忠誠の証として自身の心を差し出し、その身体を巡る魔力を王へと注ぎ込まねばならない。

忠誠を誓われた王は、己の身体を差し出さなければならない。

そして自身と違う魔力をその身体に受け入れ、寿命以外で死ぬ事は許されない。

儀式を終えた王は厄災の元へと逝くことが出来ず、城に閉じ込められた。

だが、王を贄へと様々な人間が城を襲い王を厄災の元へと向かわせようとした。

しかし、その全ては王に忠誠を誓った者達の手によって阻まれた。

そして人には飽き足らず、最後には厄災自身が城を襲い王を奪おうとした。

忠誠を誓った者達は死力を尽くして戦ったが、遂には厄災に王を奪われてしまった。

例え(まじな)いが身体を縛り付けたようとも、厄災の手に墜ちた王は動けない。

意思を奪われ自由を奪われた。

そして、王を知る全ての者達の記憶から王が消えた。

誰も王を覚えていない。

だが儀式を行った者達は奪われそうになる記憶を必死に繋ぎ止めた。

だからこそ、王を取り戻せたのだ。

厄災が何度その手を伸ばしても、その手が王に触れる事は無かった。

「そしてその後、厄災は天界から舞い降りし女神と妖精達によって滅ぼされたのです。

お終い」

「待ってくれよ。その王様を知ってる奴らから王の記憶は奪われたのに何でその伝承が残ってるんだ?

と言うか、俺の知ってる厄災を鎮めた女神と妖精って本にそんな事書いてなかったと思うんだが?」

「これは本じゃなくて手記なんだよ〜。

多分書いたのは忠誠の儀式を実際に行った人達の誰がじゃないかな?

只の妄想話だって色んな人は言って信じなかった。

……でも、やっと分かった。忠誠の儀式は実際に存在していてあの手記はデタラメでもなんでもなかったんだって」

「魔力を注ぎ込むってのは?」

「忠誠を誓った王を縛り付けるのに、その儀式を行った者の魔力を使うみたいだよ。

だから忠誠を誓われた王は命と同等の価値を持つ魔力を受け入れなければならない……って感じかな?」

何処か興奮したように語る銀髪の彼に、疑問を口に出してしまった数分前の自分を憎みつつ興奮をそのままににじり寄ってくる彼の顔を、そのフサフサとした自慢の尻尾で叩き離れさせた。

「つまりその儀式をやるくらいスペランツァさんがヤバいか、その儀式をやったこの人達がヤバいって事だろ」

最早投げやりにそう言葉にすれば、銀髪の彼はそうだけどそうじゃなくて………とブツブツと言葉を溢しつつも渋々といった様子で自身の席へと戻った。

「………ふむ。その手記は何処で読んだんですか?」

「王宮の書庫で」

「今更となってしまい申し訳ありませんが、お二人の名前を教えて下さいますか?」

「ノア・チェイスと申します」

「………エイダン・アドルファス」

「なる程。王太子直属の部下で次期護衛長として指名されているチェイス様に人狼族次期長様でしたか」

「様付けは止めて下さい。どうか先程までの様に」

「俺も、様はいらない」

「ではその様に」

微笑むノアにそっぽを向き言うエイダン。

それは今までよりも肩に力が入っておらず、年齢に見合った自然体の笑みを浮かべていた。

「確かに私達はスペランツァ様に忠誠の儀式を行いました。

それはあの方にこれ以上辛い思いをして欲しくないと言う私達の独断で行いました」

「なら、スペランツァさんは儀式の内容を知っているんですか?」

「いいえ。あの方は儀式の事については何も知りませんよ。

先程も言った通り、儀式を行ったのは私達の独断ですので」

「………それって色々と大丈夫、か?

だって双方に代償があるんだろ?」

「もう一人の方が愉快犯でして、もし代償や儀式における縛りに触れたなら話そうと…」

「えぇ…」

何処か窓の外へと向けた目を遠くに飛ばしながら話すカテーナにエイダンは困惑した表情を隠す事なく向けた。

「そろそろ城の近くに付くよ〜………って、カテーナどうした?」

「いえ、何でもありません。了解しました」

覗き扉を開け、馬車の中にいる三人に声を掛けたカングに、遠く窓の外へ向けていた目を戻し答えたカテーナ。

その様子に首を傾げつつも、出れる準備をしていてくれと言って扉を締めたカング。

それに息を吐き肩をすくんで見せるカテーナに、ノアとエイダンは揃って小さく笑い声を溢したのだった。

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