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第四十四話

目を覚ませばそこは見慣れた自分の部屋ではなく、薄暗くジメジメとした石造りの部屋というよりかは牢屋の様な場所だった。

「ここは……あぁ、連中のアジトか何かだろうな」

容赦なく痛めつけられた体のあちこちが痛い。

ご丁寧に魔封の拘束具である手錠まで付けられている。

「うーん、困ったなぁ」

魔封じの拘束具があっては自力での脱出は難しいだろう。

「………随分と呑気だな」

「んー、泣き喚いても何も変わらないからねぇ〜。

狼くんは大丈夫?」

「これで大丈夫そうに見えるならお前の目壊れてんぞ?

それに俺は人狼族だ。」

「俺の目には傷だらけで拘束具でグルグル巻きにされて見えるよ」

「目は正常だな。可笑しいのはお前の頭だ」

「この髪は生まれ付きだよ?」

「毛の話じゃねぇよ頭、脳みその話だよ」

「んー?」

「もう嫌だコイツ」

煤や泥に塗れ燻ぶってはいるが、それでも尚輝く銀髪を持つ青年。

そしてその青年に呆れたような目線を向けるのは灰色に赤の混じった毛並みに、同じ様に赤い瞳の子犬程度の大きさの狼がその体を鎖で雁字搦めにされ床に転がっていた。

「これからどうなるだろうね〜」

「ふんっ!奴らが来たらこの牙で噛み千切ってやる!!」

「痛そーだねー」

「………お前のその能天気加減はどうにかならないのか??」

そんな会話をしている二人の耳に、コツコツと此方へと向かってくる足音が複数聴こえてきた。

ピタリと会話を止め、二人はこの部屋の唯一の出入り口に目を向けた。

「剣の天才に赤毛の人狼……検体にはもってこいの人材だぁ」

部屋に入ってきたのは白衣を身に纏った痩せ痩けた男。

そして数名のゴロツキ。

そして中でも二人が息を呑んだのは最後に部屋へと入ってきた一人の男だった。

鍛え上げられた体躯。

その体躯と似通った大剣を携えた所々白髪の混ざった灰色の髪の男。

その男の纏う空気は、この部屋の誰よりも圧倒的だった。

鋭く冷たい空気を纏った男は、その場にいるだけで威圧感があり、背筋が震え本能が警告を放つ。

この男は危険だと。

今の自分達の実力では到底敵わないのだと。

「これで我々は更にあの方に近付くだろう……」

ヒヒヒヒヒヒ………、と不気味な笑い声を出しながら近寄ってくる白衣の男など目に入らず、二人はこちらをジッと見る男だけを見詰めていた。

「さてさて、まずは手始めに………」

白衣の男の手には細い針のついた物が握られている。

それで手始めに血を抜くのだと笑う男。

「血を抜いたら次はどうしようか…。

君達は大事で珍しい物だから、死んでもらっては困るからなぁ」

ジッとその男だけを見詰めていたからこそ、二人はその場の誰よりも早く変化に気付いた。

「これ以上彼等に傷が付くことを主は望まない」

針が青年の腕に突き刺さるその瞬間、男が動いた。

針はまるで硬い壁に阻まれたように甲高い音を立てて空中に留まり、白衣の男が目を見開き驚きを顕にする中、同じく部屋にいたゴロツキは意識はあるものの床に倒れ動かない。

「何をしている?!」

「何を?私は私のするべき事を行っているだけだが」

「貴様のすべき事は僕の護衛だろう?!」

「否、私は主の”お願い”に答えるまで」

「その主は僕だぞ!どれだけ金を注ぎ込んでやったと思ってるんだ!!」

「あの様な汚い金は触れるのも悍ましい。

それに貴様が私の主だと?

私の主は主だけ…………あぁ、御出でになられましたか」

「嫌な役目を押し付けてすまないな。怪我はないか?」

「はい」

闇の中から現れたのは、それこそ闇を切り取った様な小柄な人物だった。

踵の高い靴が床を踏む度にカツカツと音を立てる。

深く被ったフードから覗くのは目元を覆う白銀の仮面。

薄暗い中でも鮮やかな夕日のような色を持つ橙色が輝きを放っていた。

「な、何だ貴様!!何処から入ってきた?!!」

「スペランツァ様、子供達は全員保護しました。ですが我々では子供達の恐怖心を和らげる事が出来ず………」

「あぁ成程……すぐに行く。

まずは彼等を保護しようか」

「巫山戯るな!!こいつ等は検体だ!僕が実績を上げるために!優秀であることの証明のために使う材料だ!!誰にも渡すもんか!!」

新たに闇から這い出た男。

その男の言葉に言葉を返し、二人に近寄ってくる小柄な男に、隠し持っていたらしいナイフを突き立てようとした白衣の男は、そのナイフをその体に突きつける前に阻まれた。

「俺の主に何をする」

「私達の主を傷付けることは何人たりとも赦さない」

その痩せこけた首にそれぞれ剣を突き付けその動きを止めた。

ツーっと一筋血が流れゴクリと白衣の男が唾を呑み込んだ。

自身を護るように立ちはだかった二人の男。

一触即発の空気となった室内に小さな笑い声が響いた。

「ふふ……、ありがとう二人共」

でも大丈夫だよ。と小柄な男は笑っていた。

そして白衣の男にゆっくりと近寄り、後数センチで鼻の頭がくっ付くのではないかという距離まで顔を近づけ囁いた。

「君も大人しくしていてよ。

…………余り手荒なことはしたくないからな」

その言葉にへにゃりと腰が抜けたらしい白衣の男は呆然と、そして頬を僅かに赤く染め恍惚とした表情で彼を見上げていた。

「助けるのが遅くなってすまなかった」

丁寧な動作で鎖や手錠を解かれ、手を差し伸べられた。

そして銀髪の青年はその手を取り、赤目の未だ狼姿の人狼も差し伸べられた手にすり寄った。

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