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第四十二話

土日は更新お休みです。

「来たか」

「はい。ただいま到着いたしました。

お待たせしてしまい申し訳ありません」

ファウスト家の現当主、ラウル・ファウストとその妻であるアナスタシア・ファウストが他の貴族達に囲まれ会話を楽しんでいると、不意にラウルが自分達の元へと向かってくる三人組を見つけ声を掛けた。

その問い掛けに穏やかに答えたのは、琥珀の瞳を持つ青年だった。

「おぉ!彼等がファウスト家の……」

「えぇ、息子二人と娘です」

「はじめましてルイーナ・ファウストです」

「アルバ・ファウストです」

「ルーチェ・ファウストと申します」

優雅な一礼とともに名乗られ、差し出された手を握られた時、その貴族の男は僅かに目を見開いた。

白魚のようだと言い表せそうな程に白く細い手指はその手からは想像できないほどに鍛えられた者の手だった。

固すぎず柔らかすぎない、剣を握り何度も振るったであろう事が分かる手だった。

何方かと言えば騎士などの剣を握る役よりも魔法使いか学者といった役が合っていそうだが………。

「………今日はこの場をお借りして我がファウスト家の次期当主を皆様にご紹介したくて参りました」

「あぁ、確かにもうその様な次期ですからね。

いやぁファウスト家も安泰ですなぁ」

「えぇ、この子達は私の誇りです。

後日改めて我が邸宅にて正式に次期当主として、アルバを皆様にご紹介いたします」

告げられた言葉に紹介を受けた貴族は勿論、離れた場所で会話に耳を澄ませていた周囲にも動揺が走った。

ファウスト家の次期当主は、誰しもが今も尚その顔に穏やかな笑みを浮かべたままの彼が次期当主であると思っていたからだ。

「失礼ですが、その……長子であるルイーナ殿が次期当主ではないのですか?」

「お恥ずかしながら、余り体が強くないのです。

なので私より弟のアルバが当主に相応しいと父と話し合ったんです。

ご期待に答えられず申し訳ありません」

「いや、こちらこそ失礼した」

不躾な質問に対しても丁寧で柔らかな物腰のまま、穏やかに返答した彼に質問した男は瞠目した。

この年頃でここまで穏やかに対応し、容易に躱す交渉術の高さ。

”勿体ない”というのが男の本音だった。

自分なら彼を当主にするか、もしくは______

「さて、挨拶も済んだだろう。ルイーナ、二人を連れて好きにパーティを楽しんできなさい」

「よろしいのですか?」

「正式な公表は後日行うからな。今日は折角のパーティなんだから楽しみなさい」

「分かりました。お心遣いに感謝します」

失礼しますと一礼し弟妹を連れて人並みの中へと消えていく彼。

無意識に伸ばしかけた手を止め、その姿が見えなくなるまで目で追った。

「いやはや何とも………。素晴らしいご子息で…」

「ありがとうございます」


「お、彼処にいるのはルナ嬢だな。

ルーチェ、ルナ嬢もこのパーティに参加していたみたいだよ」

「そうですね………あの、お兄様」

「大丈夫。俺の事は気にせず行っておいで。

ほら、そんな顔してたら折角の可愛い顔が勿体ないだろう?」

「……はい、行ってきますね」

「ダミアン殿もいるな………。だったら彼もいるだろうからアルバも行っておいで」

「兄様、でも……」

「ごめんな。俺が不甲斐ないばかりにアルバには何時も辛い思いをさせてしまう」

「そんな事ありません。兄様がくれるものを一度だって辛いなんて思ったことはありません!

………でも、ファウスト家の当主は兄様の方が相応しいです」

「そんなことないよ。俺にはない素晴らしいものをアルバは持ってるんだ。

当主に相応しいのはアルバだって言うのは俺の本心なんだよ。嘘じゃない」

さぁ、そんな顔してないでアルバもパーティを楽しんでおいで。

そう言って弟妹を送り出したルイーナは会場を進み、壁に背を向けて寄り掛かった。

張り詰めていた息をゆっくりと吐き目を伏せる様は、何処か儚く今にも消えてしまいそうな幻想を周囲に思わせる。

壁の華となったルイーナを見る目は大きく分けて三つの意味合いが込められていた。

一つは羨望といった好意的な視線。

見目麗しい見た目のルイーナを見ては頬を赤らめ目を逸らす。

もしくは恍惚とした表情でうっとりと彼を眺める者が多く存在していた。

二つ目は当主争いに負けたルイーナを見下す視線。

兄という優位な立場にいたにも関わらず弟に劣り当主争いに負けた哀れな男だと物語る視線が向けられていた。

そして最後は、見下しているがその内に込められたものは余りにも暗くドロドロとした何かを孕んでいる視線。

壁の華となり目を伏せたルイーナの全身を舐め回すように、あるいは品定めでもするかのような嫌なもの。

それらは一心にルイーナを見詰めていた。

「ルイーナ様、そろそろ時間です」

「………分かりました。行きましょう」

そしてルイーナに声を掛けてきた人物を知っている者達には動揺が走った。

何故なら、その話し掛けてきた人物というのは騎士団の副団長であるノックス・クレメンテその人だったのだから。

ルイーナに対して好意的な視線を送っていた者達はその瞳を蕩けさせ、逆にルイーナに対し見下した或いは邪な視線を向けていた者達は何故といった疑問の視線を送ったり、現れた騎士に対し舌打ちを溢したりと反応は様々だった。

騎士に連れられ静かに会場を後にしたルイーナに、その会場にいた誰しもが興味を引かれていた。

「…………何であんな奴に」

そして最後にルイーナが会場に入ってから彼が去るまでの間中睨みつけていた人物の言葉が、賑やかな声に紛れて会場に消えていった。

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