第四十一話
「ルイーナ様、ルーチェ様、アルバ様、そろそろお時間ですよ」
「ああ、もうそんな時間なのか。教えてくださってありがとうございますヴァレリオ卿。
それじゃあ準備も出来たことだし、そろそろ行こうか」
「はい、お兄様」
ふんわりとドレスのスカートを揺らしこちらを振り返るルーチェ。
結いあげられ顕になった項から真珠のように白い肌が覗く。
足先から段々と紫から青に変わっていくグラデーションのドレスが良く似合っている。
未だ幼さの残る風貌が化粧によってより一層の愛らしさを引き立てている。
「兄様も姉様も、とってもお綺麗ですね!」
ルーチェと共に返事を返し俺とルーチェの装いを褒めてくれたアルバ。
何時もの柔らかな髪はカッチリと固められ、その幼いながらも端正な顔立ちが覗いている。
夜空のような色合いの正装が、彼の気品や誠実さをより一層引き立てている。
「ありがとう。
アルバもルーチェもとっても良く似合ってるよ」
各言う俺も、今日ばかりは貴族としての正装を身に纏っている。
まぁ余り肌を見せるような服は好まない性格のせいかこの様なきっちりとした服のほうが動きやすい。
細やかな刺繍が施され、シンプルながらも気品を感じさせるケープを羽織りその下に着ている急所を護る為の胸当てやその他の防具類を隠す。
ルーチェやアルバは自身の魔力を使ってその体に目には見えない程に薄くも銃弾等は軽く弾ける防御壁を常に展開している。
俺の場合は魔力を温存しておきたいので、防御壁ではなく防具を着用している。
ヴァレリオ卿に先導されるまま馬車に乗り込む。
お茶会の時に使った馬車ではなく、こちらも貴族専用といった豪華絢爛な馬車。
ルーチェの手を取り馬車に乗り込むまでエスコートし、アルバが馬車に乗ったのを確認して俺自身も馬車のテロップを踏み乗り込んだ。
最後まで見送ってくれたヴァレリオ卿に行ってきますと言って、動き出した馬車に揺られる。
向かうはパーティー会場と言う名の貴族の戦場。
そこでは各貴族の次期当主のお披露目だったり、自身の娘や息子の結婚相手を物色したりと様々な思惑が巣食う魔境。
「まあ会場に行く前から既にグロッキーなんだけどね〜………」
「大丈夫ですか………?」
「兄様、少し横になりますか?」
「大丈夫〜、降りれば直ぐに治るから」
意気込んで乗り込んだは良いが、矢張り馬車と言うか乗り物は駄目だった。
気の持ちようだと言い聞かせても、前世からの持ち越しであるコレには敵わないようだ。
馬車に乗り込んで数分もしない内にグロッキー。
うーん、コレは美味しくない。
アニメとかで言ったら綺麗な花畑の映像とかが流れそうなくらいのグロッキー具合ですよコレは。
パーティ会場には先に来ていた両親の他に既に多くの貴族達が集まっていた。
賑やかな場には会話に花を咲かせる者や自分の子供について話をしている者も多くいる。
だがそれも、二人が会場に入るまでの僅かな間だけだった。
「やっぱり人が多いですね」
金糸を束ねたような美しい金髪に月明かりに照らされた海のように澄んだドレスに白い肌の、まるで神話にでてくる女神チェレスティーナの様な女性。
「姉様、足元に気をつけて下さいね」
そしてその女神と見紛う程に神秘的な美しさを持つ女性の右手を取るのは女神を支えるように歩く青年。
彼女が女神なら、彼はそれを護る彼は最後まで女神を護った騎士だろうか。
女神と共に厄災を退け加護を受けて妖精術を使った夜空の騎士。
掻き上げられた髪も服の上からでも分かる細身ながら鍛えられた体付き。
鞘に収められた剣が抜き出された時、その瞳はより一層輝きを増すのだろうか。
「ふふ、アルバは紳士だね」
そして女神の左手を取るのはケープを羽織った青年。
穏やかな微笑みに甘さが溶け出した様な柔らかな声。
物腰柔らかく自身の隣を歩く男女に向ける瞳を見てしまえば、それを自分にも向けて欲しいと望んでしまいそうになる。
例えるなら毒だと分かっていても、手を伸ばし呑み込んでしまいたいと思わせる一種の麻薬のような。
神話に出てくる、言い方は悪いかもしれないが厄災のような危険な香りに危険だと分かっているからこそ近くに行ってしまいそうなそんなもの。
会場にいた誰もが目を奪われる三人組は、周囲の視線に気付いているのか、はたまた気にもとめてないだけなのか。
声を掛けようと近寄ろうとした者達はそれぞれ女神の左右を固める青年二人の鋭い視線や穏やかながらも鋭い流し目にたたらを踏む。
「父様と母様は何処でしょうか」
「何処でしょう?人が多くて見当たりませんね」
「見付けた。彼処にいるよ」
「他の方々がいらっしゃいますけど、私達が行っても大丈夫でしょうか………?」
「あぁ…………、その理由は分かってるから大丈夫だよ」
そう言った橙色の、アンバーの瞳の青年は空いている方の手で胸元に掛かる二対の銀色の涙形のネックレスを握り締め目的の場所を見付けたらしく、そこに二人を案内するように優しく手を引いて行った。




