第三十七話
『私があの場にいなかった他の子等にここまで案内させたからな』
「何でっ……?!」
あっけからんとそう言うフィンに感情のままに吠えた。
何で、どうしてとその言葉だけが頭の中をグルグルと回っている。
今まで彼が、フィンがこんな事をすることはなかった。
それこそ俺が嫌がることは尚更。だからこそ、何故だと胸が苦しくなる。
『言っただろう。知るべきだと』
「それが何だって言うんだ。俺は独りで出来るって言ったのにっ………!!」
『彼等は違うようだが?』
「ルイーナ様、俺達の話を聞いてくださいませんか」
「…………何でしょうか?」
背を向けていた騎士の二人に、何とか何時もの俺としての顔で振り返る。
ここで弱い俺を見せてはいけない。
まだその時ではない。まだ、俺の弱さを誰かに、誰にも、見せるわけにはいかない。見せたくない。
彼等とはまだ時間を共にしなければならない。
ルーチェとアルバが幸せになるまで、二人に向けられる欲望がなくなるまでは彼等と共に二人を護っていかなければならないのだから。
ただでさえこんな子供の指示を利かないといけないのだから、これ以上…………。
「俺達は貴方を独りにはさせません」
「と言うかさせるわけないよね〜。俺達の大切な主にはさ」
「………主??」
その言葉に呆気に取られて、浮かべていた笑みが崩れた。
だって何時もの巫山戯たような物言いも、今ばかりはその内に込めた気持ちというか、何かが違くて………。
何時もの真面目な顔なのに、何時もの緩い笑顔を浮かべているのに、その言葉に込められているものも俺を見る目も、何もかもが何時もとは違っていた。
「そう、主。本当はもう少し囲んでから言おうと思ってたんだけど………、その時にはもう遅いだろうからね〜」
「………こんな餓鬼に何言ってるんですか。今日もお菓子を作るので勘弁して下さい。
帰り道は俺が送ります。今ルーチェとアルバとヴァレリオ卿とで隠れんぼっていう遊びをしているんです。だから俺がここにいた事は内緒でお願いしますね」
「はーい、ロベルト君。捕まえてー」
「なッ!?………手を離して下さい」
顔を見られないように伏せながら口早に話し、彼等の横を通り過ぎようとしたが右腕を掴まれ引き止められてしまった。
「離したらまた、貴方は逃げてしまうでしょう?」
「………逃げませんよ。だから」
「嘘だね。現に今手を掴んでるロベルト君の顔も俺の事も見ようとしてないし」
随分と痛い所をついてくる人だな。
今までのは演技かそれとも本心か……俺以上に隠すのが上手い人だ。
掴まれた腕は離そうとすればする程、強く掴まれる。
せめてもの抵抗として顔は伏せたままだが、それすらも子供の癇癪と言うか幼稚な行為にも見えて自分でやってて嫌になる。
でも、そうでもしなければ今以上に情けない姿を晒してしまいそうなんだ。
こんなの、見せたくない。
だって余りにも情けないじゃないか。
主だ何だのは意味が分からないが”独りにしない”と言う言葉が、例え只のお巫山戯で言ったのだとしても、ほんの少しだけ…いや、本当に嬉しかったんだ。
だから、今すぐに彼等から離れたかった。
このままでは俺は戻れなくなってしまう。
折角、独りになっても大丈夫だと自分に言い聞かせたのに、そんな言葉を聴き続けていれば思い出してしまう。
心の奥底に沈めていた物が、浮かんできて溢れ出してしまいそうになる。
「これは俺達の意思で決めたことで、そこには他の誰かに言われてなんて事は絶対にない。
俺達は、ルイーナ様と共にいたいと願う。
そしてその願いを叶えるために、今こうしてるんだよ?」
「私達は貴方を支えたいんです。そして共に歩み、叶うなら最後まで共にいたいと思っているんです」
何で、何でそんな事を言うの?
止めて、止めて、お願いだから……。
「止めて、下さいよ…。もう手を掴んだままでいいので早く行きましょう?」
これ以上俺の心をかき乱すのやは止めてくれッッッ!!!
静かなだった水面が石を投げ込まれたように波がたち揺れる。
沈めて閉じ込めていたその場所の扉を叩き壊す勢いで無遠慮にノックと言うには大人しく、これはもう殴っているだろう。
それ程に、力強く今までのように無視の出来ないものだった。
「これは、俺達が本心で望んだんだよ。
君は独りでいようとするけれど……それ、嫌なんだよね。
何で独りになるの?何で君が独りにならなくちゃいけないの?
何で君が、君だけが悲しい気持ちを抑えなければいけないの?」
「我慢することが必ずしも良いことでは無いんです。
………頼って良いんです。それは恥ずかしいことではないのだから。
貴方が独りでその痛みを抱えて苦しんでいる事の方が、私達はとても苦しいんです」
「幸せになって良いんだよ?君があの二人を『愛してる』と言ってそうまでして自分を追い込んで苦しむのなら、それは俺達も同じだよ。
俺達も君を『愛してる』んだ。だから君の支えになりたいと願って、今此処にいるんだから」
俺の頬を、態々手袋を外してまで両の掌で壊れ物を扱うように優しく包まれた。
「この世の中に幸せになってはいけない人なんて誰一人いないんでしょう?なら君も、幸せにならないと」
促されるように顔を持ち上げられ、歪む視界に優しく微笑む騎士二人の姿が目に入ってきた。
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