第三十六話
暫くの間歌っていれば、周囲には草木の揺れ動く音と動物達の可愛らしく小さな寝息に包まれた。
『やはりルイの歌は格別だなぁ……』
「んふふ、トロトロ溶けてるね?まだ暫く隠れてるつもりだから時間はあるけどどうする?」
『魅力的な誘いだが、ルイにはまだやるべき事があるからなぁ。
その楽しみは次回に取っておこう』
「やるべき事?」
はて、隠れんぼ以外に今俺がやるべき事などあっただろうか。
『やるべき事と言うよりは知るべき事、向き合うべき事か』
「んんンンン〜…………?」
何やら意味深?な事を言うフィンに首を傾げていれば、のそりと起き上がった彼は俺の膝で寝ている子達を優しく口にくわえそっと柔らかな芝生の上に寝かせた。
少し温かな体温が遠ざかった事で寒く感じたが、矢張り彼の意図が読めない。
何故下ろすのだろうか。
それにあの言葉はどう言う事だ?
やるべき事は陰として生きる為に実力を付ける事。
また陰としてアルバとルーチェを護り支える事……といったものしか思い浮かばない。
あ、攻略対象達と二人が出会う学園についてどうにかしないといけなかったんだった。
この世界では十七歳で希望し、厳密な審査をクリアすれば学園に入学出来る。
二人の場合はファウスト家の次期当主と神の愛娘と言う事もあり強制的に学園に入れられ、二十歳で卒業。
そして卒業と同時にアルバはファウスト家の当主となり、ルーチェは回復魔法が得意なことを活かして医療系に進みたいと言っていたからソッチ系の仕事をするかもしれないな。
問題は俺だ。
学園に入学……は陰となるなら様々な貴族と形がどうであれ繋がりを持ちその背景を調べ上げ、いずれ国の脅威となると判断されれば対処しなければならなくなる。
その為に入学する事は決定事項なんだが、このゲームの本番である学園にアルバやルーチェが入学する頃には卒業間近だし、スケジュールも違う。
そうなれば、二人に攻略対象達が絡んできた時に直ぐに対処が出来ない。
ハッピーエンドを迎えさせる為には、俺が途中で自主退学でもしてそれこそ陰として二人の護衛か何かに付くしか方法はなさそうだし………。
そもそも、俺はこのファウスト家としても御荷物は確定だからいっその事失踪したとでも言って存在を消してしまえばいいんじゃないだろうか?
…………うん。これ、結構いいアイデア何じゃないか?
ルイーナ・ファウストは元々イレギュラーな存在だったんだから、消えたって誰も気にしないだろう。
それに直ぐに忘れるだろうし、ある意味丁度いいんじゃないか??
『……また変な事を考えてるんじゃないだろうな?』
「別に変な事じゃないさ。
ただ、望まれないルイーナ・ファウストは消してしまった方が後々楽そうだなって思って」
『ほれ、またお前はそうやって阿呆な事を……』
呆れたように溜息を吐きながら近寄ってきたフィンは、俺に立ち上がる様に言うと付いて来なさいと言って木々の間を迷い無く進んで行った。
足元の動物達を起こさない様に配慮しつつ、木の上でこちらの様子を窺っていた鳥達に子等が起きたらまた来ると伝えてくれと伝言を頼み、フィンを追い掛けた。
『お前のそれは最早病や呪いの類としか思えんな。
特に本人が自覚していないせいで尚質が悪い』
「えっと、何か………怒ってる?」
ズンズンと何処かへと向かっていくフィンの背にそう声を掛ければ彼はピタリと立ち止まり、振り返った。
あの、何でそんなに呆れた様な目で見てるんですかフィンさん……。
ぶっちゃけ、眼光の鋭さも相まって地味に恐怖を感じるんですが……?
『阿呆め』
「なんでさ?!」
『自分の胸に手をあてて聴いてみろ』
「うーん…………、脈はある」
『なかったら困るだろう』
再度何処かへと歩き始めたフィンの背を見失わない様に近付き彼に連れられるまま進めば、開けた場所には何やら建物の跡地の様な場所に付いた。
「何だここ?
家にこんな場所があったなんて知らなかった……」
『それはそうだろう。上手く魔法で隠してあったからな。
今のこの家の主も知らんだろう』
「へ…?じゃあ何でフィンが知ってるんだ?」
『ルイの父よりも長生きだからなぁ』
「何歳なの…」
『じぃだからなぁ、忘れたわい』
「もう、またそうやってはぐらかす…!」
『ここに呼んだのは声を聞かせるため。
その心でその耳で聞き取り、ちゃんとその瞳で彼等を見なさい』
「待って、またそれ?
大丈夫だって上手くやれるからさ!
皆に迷惑は掛けないから!」
「ルイーナ様」
…………聞こえてきた声に、体の熱が一気に冷めた。
何故、どうして貴方方二人がここに居るんですか??
「何で、ここにお二人が……」
ここ何週間かで見慣れた鎧やマントを翻して立っている騎士の二人が、この場所にいた。
ここは誰も知らない場所の筈だ。
決まったルートを通らないと、入り口から先には行けないし来れないはずだ。




