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第三十五話

 アルバとルーチェと三人でイチゴのタルトを食べゆったりとしたお茶会をした後はヴァレリオ卿を巻き込んでの前世で言う隠れんぼをする事になった。

「それじゃあ、ヴァレリオ卿が鬼で俺とルーチェとアルバは隠れるぞー。

鬼は……百数えたら探しに来て下さい。目は閉じてないと駄目ですからね」

「よーし、三人共見付けますからね!」

「絶対に見つからない所に隠れますよ!」

「僕も絶対に負けません!」

「んふふ、気合も十分みたいだし……早速始めましょうか」

ヴァレリオ卿が両の掌で目元を覆ったのを確認してから開始を宣言し、鬼が数を数えている声を背後に三人で走り出した。

 この隠れんぼでは隠れる場所は危険な場所、特に訓練や非常時の為に備えてある武器庫や地下は無しでその他の場所、この家の敷地内ならどこに隠れてもいいというルールになっている。

ルーチェは家の中に隠れるようで家の中に入っていった。

アルバは俺と同じで外に隠れるようだった。

「アルバも外に隠れるのか?」

「良い秘密の場所を知ってるんです」

「そっか、じゃあお互い頑張ろうな」

「はい!」

 手を振ってその秘密の場所とやらに走って行くアルバを見送り、俺も目的の場所へと移動する。

この家の裏手は木々が生い茂り、余り手入れのされていない場所がある。

 そこには、美しい小さな泉があるのだ。

偶然見つけたその場所は、何より心を落ち着けてくれる。

何処から入り込んだのか小動物が周囲を走り回るその場所に足を踏み入れれば、途端に足元を動物達に囲まれた。

「元気だった?」

その俺の問い掛けに鳴き声は様々だが元気よく答える姿にアルバやルーチェと時と同じように癒やされながら、泉の側にあるこれまた美しい大木の幹に背を預け座り込む。

「今は弟と妹と、俺の戦い方を教えてくれる先生とで隠れんぼって遊びをしてるんだ。

この前皆でやったのだけど……覚えてる?」

それに二匹のリスが目の前に飛び出し、一匹は目の部分を手で隠しもう一匹は俺の胡座をかいた足の間で身を隠すように丸くなった。

そして目を隠していたリスが手を外しキョロキョロと周囲を見回して、俺の足の間で丸くなるリスを見付けると駆け寄ってきた。

「そう、それで合ってるよ」

 この世界の動物達は流石ゲームの世界とでも言うべきか、人の言葉を理解し表現力に長けているらしい。

その証拠にこうやって隠れんぼと言うゲームをジェスチャーで表現し、俺に合っているかと確認までしてきたのだ。

その小さくフワフワとした頭を指先で撫でてやれば、もっとと言うように擦り寄ってくる。

要望に答え撫でていれば、この子達だけでは無く鳥やキツネ、猫等といった様々な動物達が集まってきた。

「お、フィンも来るのは珍しいな。怪我はもう良いのか?」

『ルイの手当のおかげでな』

のそりと草木を掻き分けてやって来たのは白銀の美しい狼だった。

 彼と出会ったのは随分前で、この場所を見つけた時に傷だらけで倒れていたのを俺が治療した狼だ。

初めは近寄れば唸り声をあげられ治療の為にと体に触れれば、その鋭い牙や爪で噛まれたり引っ掻かれたりしたものだ。

今となっては俺がここに居ると分かると寄ってきて側に寄り添ってくれる大切な友人だ。

獣人…、では無いらしいが魔力量が多いモンスターや動物は人語を操り人との意思疎通が可能になるらしかった。

まぁその数は限られているから、俺が彼と出会えたのは最早宝くじに当たるよりも確率が引くく、滅多にない幸運を全て使い切ったも同然と言えるだろう。

 彼と出会った時の俺は今以上に馬鹿みたいに我武者羅に強くなろうとして必死だった。

早く早くと焦り過ぎて身体を壊し療養の為にと出してもらえなかった部屋を抜け出した結果、彼と出会ったのだ。

そして段々と心を開いてくれた彼はそんな俺を見てただ一言、馬鹿だと言ったのだ。

『人の身体は脆い。それに子供であるお前がどう足掻こうが、身体を壊していれば何も力は付かない。

護りたいのであれば自身の事もその対象に入れろ』

そう言われたんだ。

 でも、俺は未だにその言葉に返せる言葉を持っていない。

 確かに人は怪我をすれば最悪の場合、というのは理解出来る。身体を壊してしまえば護る以前の問題だという事も、頭では分かっているんだ。

でも、この世界に元々俺は必要のない人間だから。

主人公であるルーチェやアルバを最高のハッピーエンドに導かなきゃいけないから。

護るべきなのはこの世界の主人公の二人で、俺はその護る対象には入れられない。

そも俺は、護られる様な存在じゃない。

主人公達の兄ではあるが所詮はモブで、路傍の石の様な存在だ。

そんな俺を護って何か良い事でもあるか?

答えは否だ。

何も無い。何もないなら、何も返せないのなら俺には護られる価値なんかない。

俺と、あの二人は違うんだ。

「今隠れんぼをしてるんだ。だから暫くはここにいて、時間を見て見付かりやすい場所に行く予定なんだ」

『なら今のお前はふりーと言うやつだな』

「んふふ、そうそう。今の俺はフリーだよ。

何か用でもあったのか?」

『いいや?だが、面白い客人を連れてきたなと思ってな』

「客人……?」

俺以外にここには動物達とフィンしかいない筈だが…。

『まぁ悪い者ではない様だからな。

なぁルイ、歌ってくれ。最近中々寝付けなくてな』

「えっ、ちょっ……!客人ってのは……」

『離れた場所に居るから大丈夫さね。

いいから……ほれ、皆が待ってるぞ?』

「マイペースだなぁ…」

 警戒心の強いフィンが言うなら、まぁ大丈夫だろう。

そもこの場所は迷路の様な道なき道を決められた手順で進まない限り来れない不思議な場所だ。

例え入って来たとしても、ここには来れまい。

「ほら、皆もおいで。

子守唄を歌ってあげるから」

 元より俺の膝の上に乗っていたリス二匹と、その足に顎を乗せ既に寝る体制になっているフィン。

背を預けている大木の枝には鳥達が止まり、他の動物達も俺達を囲む様に円となり集まってきた。

「語るは過去。紡ぐは未来。これは遥か遠い星を巡る旅人の夢」

 小さな俺の友人達が良く眠れるようにと願いを込めて歌う。

何処かで聴いた不思議な歌。

聞き慣れているのに聴き慣れない歌。

遠い星に手を伸ばし、星星を巡る旅人の詩。

お休み我が子。我等の愛し子、護り手よ。

次に目を開いた時、きっと世界は輝いている。

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