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第三十四話

「あれ、兄様?」

「お兄様?」

「おー、どうしたー?」

 朝食後に騎士の二人やヴァレリオ卿からの剣術や魔法の指導を受け、空き時間となった午後の時間を使い厨房で作業をしていれば匂いに釣られたのかアルバとルーチェが扉から顔をひょこりと可愛らしく覗かせた。

「何か作ってるんですか?」

「ちょっと作りたくなってね」

厨房へと入ってきて手元を覗く二人に見えやすいように手に持っていたボールの中身を見せる。

「クッキーの生地?でも何か違う……?」

「よく分かったなー。クッキーはクッキーでもタルトの為にちょっと変えただけなんだけどな」

「タルトを作るんですか?」

「何か食べたくなってな〜」

 冷やしておいた生地をボールから取り出しまな板の上へ。

そして取り出した生地を薄く伸ばし型に嵌め余った部分は丁寧にカットしていく。

これは後から別焼きにしてタルトの飾りに使ってもいいし、ちょっとした味見様にしてもいいだろう。

俺は良くこの余った部分にクリームとかをディップして食べてたな。

「これはタルトに使う果物ですか?」

「そうそう。イチゴは二人共好きだろ?」

「甘くて美味しいですよね!」

「んふふ、そうだなー。兄ちゃんもイチゴは甘くて好きだなー」

フォークで穴をあけオーブンの中へ。

生地が焼き上がるまでは、タルトに敷き詰めるクリームや飾りのイチゴの準備だけだが……。

「一緒に作るか?」

「「はい!!」」

じっと見上げてくる弟妹にそう問い掛ければ眩しい笑顔と元気な返事が返ってきた。

 二人に手を洗わせ厨房に常備してある小さいエプロンを着せる。

ルーチェの長い髪を結い上げテーブルの上に飾り付け用のイチゴやクリームを作る為の材料と使う器具を並べていく。

「じゃあイチゴのヘタを取る係とカスタードクリームを作る係を頼もうかな。

すっごい大切な係りだけど、二人に出来るかな?」

「出来ますよ!

ねぇアルバ、私イチゴの係りでもいい?」

「頑張ります!

いいですよ、姉様」

 小さい子に言う様な言い方をしてしまい一瞬子供扱いしすぎたかと焦ったが二人共特に気にしていないようで安心した。

この年頃の子供は何でも出来ちゃうからなぁ……。

前世の記憶にある双子の時は良く『子供扱いしないで!!』って怒られたし。

「よし、じゃあやっていこうか」

 材料の分量や器具の扱い方、材料の混ぜ方を教えれば直ぐにコツを掴んだ二人は真剣な表情で黙々と作業にのめり込んでいった。

時偶確認として質問をしてくる事はあっても直ぐに作業に取り組んでいる。

その様子が可愛らしくてカメラが無い事に血の涙を内心溢しつつ、オーブンで焼かれているタルトの様子を確認すれば…………、うん。いい具合に焼けてるな。

「あちち……」

 オーブンから生地を取り出す。焼き上がりのタルト台は生地が崩れやすいので、しばらく冷ましたあとにゆっくりと型から取り外し底部分がきちんと焼けているか確認する。

しっかりとした焼き面に芳ばしいバターの香りが鼻孔を擽る。

「お兄様、イチゴの用意が出来ました!」

「カスタードクリームも用意できましたよ!」

「おぉ!凄いな二人共!!」

 凄い!天才!と褒めてきちんと清潔にした手で二人の頭を撫でれば嬉しそうに、そして誇らしそうな顔で笑顔を浮かべる俺の弟妹がこんなにも可愛い。

「それじゃあ、最後の盛り付けをしようか」

 十分冷ましたタルト台の中にアルバの作ってくれたカスタードクリームをたっぷりと流し入れ、その上にルーチェの切ってくれたイチゴを二人が並べていく。

「花みたいにするのか?」

「はい!」

「あ、姉様……このイチゴはここでいいんですか?」

「えぇ!とっても可愛い!」

 ルーチェの指示の下に完成したイチゴの花は店に出しても可笑しくないレベルの完成度だった。

「二人のおかげで凄く美味しそうに出来たな。

さて、じゃあ手伝ってくれた二人にお礼として兄ちゃんとお茶会は如何かな?」

「是非!」

「うふふ、お呼ばれに預かりますね?」

 問いに対する二人の答えに口元が緩む。

完成したイチゴタルトと紅茶を持って、折角天気も良いのだから外で食べようと三人で移動する。

屋敷を出て庭に備え付けられているテーブルにそれらを並べ席に付く。

切り分けたタルトは日の光を受けて宝石の様に輝いて見えた。

「それじゃあ、みんなで食べようか」

フォークを手に持ちタルトを切り分けすくい取る。

すくい取った一口を口に含み咀嚼すれば、サクサクとした芳ばしいアーモンドの香るクッキー生地に甘さが控えめのカスタードが口の中で絡み合う。

そして瑞々しいイチゴの甘酸っぱさが、カスタードの味をこれでもかと言わんばかりに引き立てる。

「美味しい……」

「兄様のお菓子はやっぱり世界一ですね……」

「二人が手伝ってくれたから、最高のものができたんだよ」

言葉だけでなくその表情からも美味しいという感情がダイレクトにこちらに伝わってくるようだ。

………こうやって一緒にお菓子を作るのも話すのもこれで最後かもしれないな。

 今日こうしてイチゴのタルトを作ったのは、俺の女々しい弱さのせい。

イチゴの花言葉は『幸福な家庭』『あなたは私を喜ばせる』等といった意味がある。

こんな兄でごめんな。

臆病で愚かな兄を、どうか許してほしい。


 今目の前のこの愛おしい時間がこのまま止まってしまえばいいのに。

叶うはずが無いと分かっていても願ってしまう。

残り時間はあと僅か。

完全なイレギュラーでしか無いコレが、この後どうなるかは分からない。

分からないからこそ、悔いの無いように残りの時間を過ごそう。

「二人はこの後何か予定とかはあるのか?」

「「何も無いですよ!」」

「じゃあ、俺も特に予定はないから二人と一緒にいたいんだけど……駄目、かな?」

「「駄目じゃないです!!」」

声を揃え嬉しそうにそう言葉にする二人は、一緒にいられるのが嬉しいと言ってくれた。

あぁ、俺も嬉しいとも。

 その笑顔が例えもう二度と向けられなくなってしまったとしても、俺は二人を必ず護ってハッピーエンドに導くからな。

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