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第三十一話

「………行きたくないなぁ」

 つい溢れてしまった本音。

 だが今この時だけは許される俺の弱さ。

騎士さん達も今日ばかりは明後日の準備の為に何かしらの用意があるらしくここにはいない。

この言葉をこの心を聴くのは夜空に輝く星々だけ。

「……嫌だなぁ」

 パーティでルーチェが神の愛娘だと言う事実は公表しない事となった。

国王陛下には既に許可は頂いた。

その代わりにある条件をつけられたが、それがルーチェやファウスト家に害のないものだったのがせめてもの救いだろう。

 神の愛娘だという事を公表しない代わりに出された条件は二つ。

 一つ目

ファウスト家の次期当主をアルバ・ファウストとする事。

代々ファウスト家は魔法に優れ国の盾にして鉾、王と民を護る者として仕えていた。

相談役としても戦場の指揮官としても優れた者が多く

国王の右腕。相談役。護衛騎士等、様々な異名で囁かれている。

そんなファウスト家の次期当主をアルバにした理由は簡単。

彼の魔力量、そして魔法を扱う才能が突飛しているからだ。

魔力量が多ければ多い程戦場では役に立つだろう。

だが、平和な世となったこの世界では戦争などはない。

しかし、厄災と呼ばれる驚異は存在する。

もしもその厄災やそれに従事する魔獣や魔物が現れた場合、何も肩書きを持たない者に誰が付いていくだろうか。

答えは否だ。

だからこそ、それを危惧した王はアルバにファウスト家の当主と言う肩書きを与えた。

………上手く魔法を扱えない俺よりも、上手く魔法が使え、尚かつ魔力量も申し分ないアルバの方が当主に相応しい。

そんな事、言われるまでも無く分かっていたさ。

周囲からは長男であるにも関わらす力無き弱者で弟に負けた出来損ないの兄と認識されるのだろうな。

でも俺は誇らしい。

自慢の弟が周囲に認められ称賛される。

影でなにか言われるかもしれない。大人や周囲の汚い欲に塗れた陰謀の中に放り込まれても、アルバの周りには彼の力を認める者が沢山現れるだろう。

 そんな時に当主争いに負けた兄は周囲からは体の良い笑い者となり侮られる。

だからこそ、動きやすい。

害を及ぼさんとする者が下に見て侮っていた者はその相手が自分に歯向かう事など出来ないと思うだろう。

そうなればその首を狩るには丁度良い。

俺は表にいるよりも裏で動くのが性に合っている。

 そして条件二つ目

ルイーナ・ファウストを陰とする事。

表では先の様に周囲から認知されているファウスト家だが、それは表の顔だ。

 遠い昔、ファウスト家は国王と民を護る他に犯罪者や欲に走った者を捕える国の陰としての役割を負っていた。

だがそれも昔の話。今では裏の顔は当主に語り継がれるだけであって存在はしていなかった。

 しかし歴史の狭間に押し詰められていたそれを、王は狭間より呼び戻した。

神の愛娘が現れたと言う事は厄災が訪れる可能性が高い。

そして国を脅かしている犯罪者共や裏で何かを画策する連中が増えて来ていることから、王は陰を求めた。

 そして陰として動くには、俺はピッタリだった。

魔力量は豊富だが派手な魔法は使えない。

アルバの様に派手に魔法が使えれば当主になれたかもしれないが、地味な魔法では周囲に示しがつかない。

だが野放しにするには惜しい。

だからこその陰としての役割を完遂出来る。

 陰になる事は即ちルーチェやアルバの為にもなる。

表では馬鹿にされる存在になるけれど、周囲の評価等は俺には関係無い。

例え二人に兄と思われなくなってしまっても、愛するこの気持ちは消えやしない。

元より俺は二人の幸せを願いその為だけに生きているようなものだから。

「でもやっぱり、怖いものは恐いよ……」

嫌われたくない。

その思いだけがグルグルと頭の中を駆け巡る。

パーティ会場で神の愛娘の事は伏せてファウスト家の次期当主が紹介される。

 その時、二人は俺をどう思うだろう。

優しいあの子達は俺を捨てられるだろうか。

いや、捨てなくてはならない。

あぁでも、捨てないでほしい。

我儘な矛盾しる言葉の数々。

頭では理解していても心が否定するのだ。

痛い、苦しい、怖い、恐い、…………独りに、しないで…。

初めから何も知らなければ、愛さなければこんなにも苦しむ事はなかっただろう。

でも愛してしまったんだ。

大切だと、そう思ってしまったんだ。

「大丈夫、大丈夫…。

思い出があれば、忘れなければ、俺はまだ動けるから」

 消せない。もう手放せないこの想いを抱え苦しくても惨めでも生きよう。

忘れられないのなら、隠せばいい。

愚かでも思い出に縋り醜く生き足掻けばいい。

二人の主役が本当のハッピーエンドを迎えるまで。

………もしそれでも動けなくなってしまったのならば、もうこの心は要らない。俺は、要らない。

動けない俺に価値はない。

 その時、俺は俺という個を殺す。

 砕いた欠片を寄せ集め元に戻したとしても、俺は俺ではなくなるだろう。

だが動けるようにはなる。

それで十分だ。

「……俺のまま生きていたいよっ!!………」

でも今だけ。

今だけは弱い俺を許して。

この夜が明ければ何時もの俺に戻るから。

だから、だからどうか今だけはこのまま…………。

 ルイーナの橙色の瞳から流れた涙が頬を塗らす。

部屋には彼の押し殺した様な小さな嗚咽が響いていた。

 声を上げることなく自身を強く抱き締めるその身体は震えていた。

怯えるように。縋る様に。

誰にも言えない、頼れないのだと自身に言い聞かせる幼子の言葉。

 それは部屋に差し込む月明かりと共に雲に隠れずに見守っていた明星だけが聴いていた。

ルイーナのその弱さと称するそれを星は知っている。

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