第二十九話
〜アルバ・ファウスト〜
僕の兄様は格好良い人です。そしてとても強い人です。
ちょっと困る?と言うか僕や姉様以外の人には見せないで欲しいしないで欲しいことはあるけれど、それでも格好良い人なんです。
例えば手合わせの時。
兄様の動きはヴァレリオ卿や僕のように型に嵌った騎士の動き方ではなく、舞のように型に嵌らず自由な動きで剣を扱っている。
捕えたと思ってもこの手は届かず剣の切っ先は兄様の服でさえも捕えられない。
僕の得意な炎の矢でも兄様を捕える事は出来ないし、頭上から無数に降り注ぐ矢を兄様は意図も簡単に僅かな隙間を縫うようにして躱してしまう。
しかも、兄様は戦ってる時にテンションが上がると雰囲気が変わるのだ。
優しく包み込んでくれる雰囲気ではなく、目を奪う抗えない色香と言うか危なくも引き寄せられるそんな雰囲気に変わるのだ。
しかもこの間の手合わせでもその雰囲気になった兄様は僕を傷付けないようにしながら、剣で顎をすくい
「ふふっ……俺の勝ち」
と言ったのだ。それも唇をペロリと舐めながら淡く薔薇色に染まった頬で熱に浮かされたように見下ろしてくるものだから見てはイケないモノを見てしまったような……別に嫌なわけじゃないんだ。
寧ろ普段とは違う兄様の魅力に見惚れて…更に兄様のことが好きになるというか…。
うまく言葉に出来ないが、兎に角凄いんだ。
例えば本を読む時
手合わせの無い日に、兄様は書斎で本を読んでいることが多い。
書斎にはこの国以外の書籍が数多く揃っているし、その量はザッと数えて二千は裕に超える。
兄様は普段は部屋で本を読んでいるが、雨の日は必ずと言っていいほど書斎で本を読んでいる。
お気入りの場所は庭が見渡せる窓の枠に腰掛けているのをよく見かける。
その時の兄様は何時もの兄様じゃなくて、何処か遠い存在の様に感じてしまう。
何処か遠くに言ってしまいそうな、このまま消えてしまうような儚さを感じてしまうんだ。
そんな筈ないと分かっているのに。
兄様は僕達の兄様で、それ以上でもそれいかでもないのに。
それでも声を掛ければ何時もの兄様に戻る。
だから兄様がこの顔をする時は声を掛けて傍にいるのが僕と姉様の暗黙のルールだ。
兄様が何を考えているのかは分からないけど、兄様の居場所はここなのだと、何処にも逝かないように引き止めるのだ。
本を読んでいる時の兄様はメガネを掛けているから、何時もより落ち着きのある理知的な感じがする。
実際に勉強で分からない所や本の内容で理解できなかった所を兄様に聞けば、その殆どを答えてくれる。
勉強を教えてもらう時、兄様はヒントを与え自力で解けるようにしてくれる。
それで答えが理解できて示せたなら、これでもかと言わんばかりに褒めてくれるんだ。
頭を撫でてくれて、好きなお菓子を作ってくれるんだ。
少し厳しいけれどそれ以上に甘くて優しい兄様が、僕は大好きなんだ。
最後に、寝る時の兄様はその日の中で一番甘くて優しいんだ。
夜寝る時、兄様は僕と姉様の部屋に必ず来てくれる。
ランタンの仄かな明かりに照らされ、ベットに潜る僕を見て
「寒くないか?」
「今日も良く頑張ったな」
「また明日、やりたいこと沢山やろうな」
「おやすみ。俺の大切で愛しいアルバ。
お前の行く先に幸あれ。
…………よい夢を」
そう言って額におまじないのキスをしてくれるんだ。
姉様もきっと同じことをしてもらってると思う。
「おやすみなさい。兄様……」
頭を撫でられ、温かく柔らかな手で頬を撫でられて。
甘く愛おしいと語る橙色の瞳を最後に眠りにつく。
いつか、もっと強くなって兄様を護るから。
もっと頑張って努力して、兄様の隣に立てるようになるから。
だからどうか、いなくならないでね。
離れていかないでね。
もう兄様が傷付いているのを見ているだけは嫌なんだ。
兄様は僕を、僕達を愛しいと言うけれどそれは僕達も同じなんだよ。
寧ろ兄様より年季があるから、僕達の方が強いかもね。
誰にも、兄様を奪わせたりしないから。
大好きで大切で、唯一無二の兄。
貴方がいれば何も要らない。
一緒に笑って楽しく毎日を過ごせるように明日も頑張らないと……………。




