第二十六話
カイル・ダミアンが彼自身の家に帰った数日後、俺のもとに二通の手紙が送られてきた。
一通目はカイル・ダミアンからだった。
ルイーナ・ファウスト様
先日はお世話になりました。
貴方に話を聞いていただいたお陰で、目を背け逃げていたものと向き合うことが出来ました。
本当にありがとうございました。
それに貴方から頂いた妖精の夢のブローチを身に着けてから周囲の人とも話せるようになりました。
貴方が言ってくれた言葉も頂いたブローチも、全部大切な宝物になりました。
本当に、ありがとうございました。
今度は是非家に来て下さい。ファウスト家で頂いたお菓子や紅茶ほどではありませんが、母や弟と作ったお菓子をご用意させていただきます。
カイル・ダミアン
子供らしさも残しつつも丁寧な手紙だった。
家族ともうまくやっていけてるようで安心した。
これできっと彼もアルバと共に闇落ちする要素は全部、ではないかもしれないが確率的には下がっただろう。
感謝と温かな気持ちの現われた文面や文字を見て、つい笑みが溢れた。
この手紙を書いている時の彼はあの作った笑顔ではなく本当の笑顔を浮かべられているだろう。
二通目の手紙は彼の父親からだった。
ルイーナ・ファウスト様
この度は息子のカイルが大変お世話になりました。
息子の話を聞いて頂けただけでも有り難いのに、妖精の夢や私達家族のことまで気にかけて頂いて本当に感謝しています。
お陰で息子と話す事ができました。
取り返しの付かない言葉を言ってしまって以来、息子と話すことな無く距離も離れていっていました。
ですがあの子が帰ってきてから、今まで抱えていた不安をさらけ出してくれて、私自身も息子と向き合いやっと本当の家族としてのあり方を取り戻せました。
この御恩は忘れません。
もし何かお困りの事があれば何でも仰って下さい。
ダミアン家の当主として、必ずやお役に立ってみせます。
ダミアン家当主 テネブラエ・ダミアン
カイル・ダミアンが我が家にいた時、彼の父親から届いた手紙は当時の彼のように深い悲しみと不安が文字や文章に表れていた。
でもその中に子供を想う親の優しさが確かにあった。
子供の幸せは家族がいないと成り立たない。
子供は親に甘えるものだ。甘えて愛して愛されるべきものだ。
親も子供も、血の繋がった唯一無二の大切な家族なのだから。
望まれない子供なんていない。
望まれない親なんていない。
確かに家族に関する事件や事故は前世でも数え切れないくらいあった。
でも、誰も産まれるのを生きるのを望まれないなんて事は絶対に無かった。
誰かの死は誰かの悲しみに繋がる。
誰かの幸福は誰かの喜びに繋がる。
その誰かは分からないだろう。だが確かに生きることを望まれているんだ。
信じられないと言われればそれまでだが、俺は確かに知っている。
だてに警察をやってないし、世の中の良い所も悪い所も見てきたわけではないのだ。
消えてしまう前に諦めてしまう前に、知って欲しかった。
確かに君達は望まれて産まれてきたのだと。
それを伝えられない、聞けないのは悲しく苦しいものだ。
今回俺が彼等にした事も、只の俺の自己満足でエゴでしかない。
俺が見たくなかっただけ。
ただそれだけの無責任な理由で好き勝手やっただけだ。
だから感謝されても、感謝されるだけの綺麗な事はやっていないんだ。
それを受け取る資格は俺にはないよ………。
これは彼とその家族が諦めなかったから出来た事だ。
互いに寄り添い合った結果なのだから。
彼等が動かなければ、その一歩を踏み出さなければ何も変わらなかった。
互いを想い合うそれがなければ、何も起きなかった。
だから俺は何もしてないよ。
二通の温かく幸福の踊る文を撫でる。
これから先何が起こるのか分からない現状の中で、協力者と言うか頼れる場所が出来たことは大変良い誤算だった。
近い内に貴族間で定期的に行われるパーティーがある。
父の知り合いが多くいる会場でルーチェやアルバも参加してのパーティーだ。
普段も可愛いし愛らしい二人が正装に身を包んで会場に現れれば周囲の目を攫い、月さえも二人の姿に見惚れ恥ずかしさの余り雲に隠れてしまうだろうな。
そしてそんな二人の兄として気は抜けないな。
只でさえ将来色んな意味で狙われる事の多くなってしまう二人だ。
隠していても輝きを放つ宝石を、そのまま全て隠しておける筈がない。
イレギュラーである俺がいることで、語られる事の無かった場所で二人がキャラ達と出会いフラグをたててしまえば、所詮モブでしかない俺は今のままだとどの分野においても負けてしまうだろう。
二人の幸せを掴むために、塵も残さずフラグを完膚なきまでに破壊しなければ。
幼少期のエピソードはルーチェにもアルバにも余り無かったはずだが、アルバがカイル・ダミアンと既に知り合っていた事や、カイル・ダミアンが抱えていたものを少なからず払拭したことで、今後の展開は読めなくなってしまった。
まぁそもそもヒロインが王太子とのフラグを立てるはずのあのお茶会で王太子と会っていない時点で、俺の知るストーリーとは違ってしまっているがな。
パーティーまでルーチェの神の愛娘としての力を公表するのかしないのかをハッキリさせなければならない。
それにファウスト家の当主教育を受けている筈のアルバについても、今後のことを現当主である父としっかり話し合わなければならないな。
「忙しくなるぞ……」
ルイーナという名に恥じぬよう、二人を苦しめるモノは何であろうと誰であろうと俺が破滅に導いてやろう。




