第二十四話 予定外の第二フラグ
お茶会から三日後、俺は今物凄く眠たかった。
その理由は簡単で俺はこの三日間まともに寝てなかったからだ。
お茶会の日に打ち明けられた攻略対象の一人であるカイル・ダミアンの話から彼のサイドストーリーを知り、ゲームの闇落ちしたアルバと彼が共に行動していた理由が分かった。
彼自身も闇魔法が使えるのと、家族との溝がある点が似ていた二人は互いに支え合うか似通った境遇で仲間意識が芽生えたか。
本当のところはどうかは分からないが、多分この考えと近しいものだろう。
あんな哀しそうで、幼いのに孤独の色を宿す瞳が抱えているそれを少しでも和らげてやりたくて暫くの間家に泊まるよう提案した。
例え攻略対象のキャラだとしても、今の彼は親の愛を求めるただの子供だった。
いじらしく恥ずかしそうに、それでも一生懸命求める彼が愛しく思えてつい甘やかしてしまった。
「さて、こんなものか」
俺には彼の両親の問題を解決する事は出来ない。
俺はこの世界の全てを知っているわけでもないし、転生ものにありがちなチート能力も持ってない。
魔王を倒す勇者になんてなれないし、何か異形を成し遂げる事もできない。
でも、諦めず地道に積み上げる事は出来る。
「上手くいくと良いけど……」
夜な夜な家を向け出しては騎士さん達と共にダンジョンへ行ってはある物を探し続けた。
見付からなければ次のダンジョンへ。
それでも見つけられなければまた違うダンジョンへ。
それを三日間繰り返してやっと目的のものを手に入れる事が出来た。
「妖精の夢、ねぇ……実物を見るのは初めてだな」
”妖精の夢”
ゲームでは特定のものに対してだけ使える回復アイテムであるコレは闇の魔法を抑える効果を持つとされている。
実際にゲームでは闇の魔法の受けた攻略対象キャラを癒やすためのアイテムとして使われていた。
若草色の結晶の中にキラキラとした鱗粉めいたものが入っており、それがまるで妖精が踊っているように見える事からその名が付けられたらしい。
やっとの思いで手に入れたソレの形を整え、ブローチとして身につけられるように作り変える。
元より闇魔法に適正があったアルバにあげようと思っていたが、闇魔法の適性が何故か無かったアルバには必要なさそうだったから、彼に渡そうと思う。
もし闇魔法の適性がアルバに出たならまた取りに行けば良い。
「本当にあげるんですか〜?」
「はい。付き合ってくれてありがとうございました」
「まぁお菓子も貰えたしいいですけど〜、何で会ったばかりの子供の為にそこまで出来るんです?
メリットが無いのに」
「…………メリットとかは関係なく、ただ俺がそうしたいと思ったから。
ただの俺の我儘で自己満足ですよ」
「怪我をしてまで?」
「こんなの彼の苦しみに比べればなんてこと無いでしょう?」
そう言えば何とも言えない顔を向けられた。
分かってるさ。これが只の自己満足なエゴでしか無いことなんて。
でも対処出来るかもしれない方法を知っているのに何もしないなんて出来ないんだ。
何もしないで後悔するよりは行動してから後悔したほうが幾分かましだろうから。
だからやるんだ。
「今日は何時もより多めに作ってきたので、もう一人の方にも渡しておいて下さい。
俺のベットも使っていいので、休んでて下さいね」
「それは貴方にも言えることなんですけどね」
子供のように頬を膨らませた騎士さんにお菓子の入った袋を手渡そうと近づけば、袋を持っていた手を捕まれ強い力で引き寄せられた。
「えっと………?」
「俺は貴方の意思を尊重しますが、次また無理をしようものならこちらにも考えがありますからね?」
目と鼻の先まで近付いた顔に意味もなくドキッとしてしまう。
この世界の人は顔が良すぎる。心臓に悪い。
この世界が乙女ゲームという事もあるからか、話す言葉の中には世の女性が聞いたらときめくか、男も女も関係なく勘違いしてしまいそうな事を言う人も多い。
「この状況で考え事とは、随分と余裕ですね?」
「痛っ?!」
そんな事を考えていれば、白い肌に細かな傷が目立つお世辞にも綺麗とは言い難い腕に噛み付かれた。
痛すぎない?!何で急に噛み付く?!
やっと彼の口が離れたかと思えば腕の皮が切れ滲んだ血を舐められた。
流し目でこちらを見ながらそんな事をされて、顔に熱が溜まっていくのが分かった。
「ば、ばっちいでしょ?!口をすすがないと……!」
「もしも今後も無理をするようなら………分かりますよね?」
「っ?!」
本気だ。今まで聞いたことのない声のトーンに口調。
何より今までは半分寝ているような目しか見たことが無かったのに、今はまるで熱に浮かされたようなそれでいて力強い騎士の名に相応しい、研ぎ澄まされた剣の様な鋭い瞳が俺を見ていた。
否定することは許されなかった。
「わ、分かりました」
俺にはそう言って頷くしか道はなかった。
俺の答えにニコリと笑みを浮かべた彼は持っていたらしいガーゼや包帯で噛まれた俺の腕を治療してくれた。
「その言葉、覚えていてくださいね?」
何度も頷く俺に満足したのか、彼は引き寄せられた時に落としてしまった袋から彼のお気に入りのクッキーを一枚取り出すと口に含んで美味しそうに食べだした。
頬を緩ませお菓子を食べる彼の姿に、さっきまでのは実は夢だったんじゃないかとも思ってしまうが、ジクジクと痛みを訴える腕が現実だったと折れに訴えかけてくる。
心配、してくれたんだろうか………?
じっと彼を見ていればそれに気付いた彼がこちらを振り返る。
「何ですか〜?………またお仕置きされたい?」
「結構です!!!」
今のお仕置きだったの?!なんで?!ってか怖いわ?!
笑う彼の声を背後に走って部屋を出る。
赤くなっているであろう顔を風が冷ましてくれるのを肌で感じながら当初の目的であった人物の元へと向かう。
渡す前から色々あったが、これで少しでもあの子供が笑顔になってくれたらいいな。
「名前を呼ばないって言うその無駄な線引も、そろそろこちらから破ろうか」
扉が閉まり切る直前に、黒い笑みと共に呟かれた言葉は誰に聞かれるでもなく静かに溶けていった。




