第二十話
そこまで難しい魔法じゃなかった筈だった。
両親の傷を治療し、床に転がる連中を縛り付けながら考える。
今思い返せばダンジョンから出てから違和感はあった。
今まで魔法を使う時に使用していた魔力量より、ダンジョンから出てから使った魔法で消費する魔力量が多く感じた。
媒体となっているブレスレットには特に傷もなく正常に作動しているが、念の為に専門の職人に確認してもらったほうがいいな。
最後に使った、指先に空気を集め圧縮させ弾丸のように放つ魔法を使用した後、気を抜いてしまえば倒れてしまうのでは無いかと思えるほどの疲労感が俺の全身を襲い、貧血にも似た症状が現れた。
魔法を寝るのも満足に出来ず、隙を見せれば両親に危害が及ぶため表面上は何とも無いように装ったがその結果あのフード男を取り逃すと言う失態を犯してしまった。
ゲームの中では膨大な魔力量に身体が耐えきれず死んだと設定されていただけあって、アルバにも引けを取らない魔力量はあったから魔力量不足になるというのは考えにくい。
それにこの怠さは初めて魔法を、あの炎の鳥に魔法を使った時の感覚にも似ている。
ダンジョンでも魔法は殆ど使わずに剣でモンスターと対峙していたし………。
「ルイーナ、もうお前も休みなさい。後はヴァレリオ卿に任せよう。どうやら帰ってきたようだからな。
ルーチェもアルバも無事で良かった……」
「父様も母様も余り動かないで下さい。
傷が悪化してしまいます」
「ルイの手当が良かったのね。もう痛くないわよ」
「だからって無理はいけませんよ、母様」
「お兄様!お母様!お父様!」
「兄様!父様も母様もご無事ですかっ?!」
ドタバタガターーーーーンッッッ……………!!
荒々しく、余程焦っていたのだろう髪は乱れ着崩れした服のまま肩で息をするルーチェとアルバ。
部屋に入ってきて俺達の姿を見るやいなや大きな瞳から大粒の涙を溢し駆け寄って、勢いのままに飛び込んでくるのかと一瞬身構えたが、勢いを殺し傷に触らないように恐る恐る手を伸ばされ両親と一緒になって抱き締められた。
「良かった、良かった………」
「もしかしたら間に合わないんじゃないかって、あ、会えないんじゃないかって……怖くて」
………心配を掛けてしまった。また、泣かせてしまった。
笑顔に、そして幸せにするどころか泣かせてしまってばかりだな。
「大丈夫だ。父様も母様も、それに俺もちゃんと生きてるよ。
心配掛けてごめんな…」
「謝らないで、誤ってほしくなんて無い!」
「家族なんです。心配するのは、当たり前でしょうっ?!」
”家族”
俺の護りたかったもの。
俺の、一番大切だったもの。
暖かい場所。
俺の、帰りたかった戻りたかった場所。
『いってらっしゃい』『おかえり』『気を付けてね』『今日のご飯何が良い?』『大丈夫か?』
何気ない言葉が、失ってみて初めてその有難みを知った。
失ってから、もう二度と取り戻せないと思っていたもの。
「………心配してくれ、て、 あり、がとう?」
「無事で、本当に良かったっ……」
抱き締められる温もりに、優しく頭を撫でられ家族の輪に受け入れられる。
決して前世に救えなかった両親を、弟妹を忘れてなんかない。
忘れられない。
……だからこそ、新しい命を与えられたのだから報いたい。
今度こそ護れるように。
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「こんな夜遅くにすみません」
「いえ、我らこそあの様な事があったばかりなのに……」
「その事は、感謝してもしきれません。私達家族を護ってくださりありがとうございました」
夜中、何時ものようにいつの間にか部屋にいた騎士の二人に頭を下げる。
この二人がいなければ、今頃例えあの部屋にいた連中を倒しても再度囲まれ、最悪の事態になっていただろう。
「頭を上げて下さい。感謝される所か、我らは謝らなければなりません」
「どういうことですか………?」
「あー、ダンジョンでルイーナ様にぶつかった人がいたでしょう?
アレ、最近一部の冒険者の中で行われてる当たり屋みたいなものだったんですよ〜。
ぶつかった相手に何かしらの魔法や目印を付けて、ダンジョンから出てきたら襲って金目の物を奪う〜っやつですね」
魔法を使う時、何かしらの不備がありませんでした〜?
そう首を傾げつつ言われ納得する。
だから魔法を使う際に消費量が多かったのか。
「使われたのは簡易的な弱体魔法でしたが、実行犯は捕えました!」
これからは自分に掛けられたデバフも解呪出来るようになるかポーション系を持ち歩いたほうが良さそうだな。
二度と同じヘマはしないよう、常に最悪の事態を視野に入れ行動しなければ。
「今日はお疲れでしょうし、我々も一度本部に戻ります〜。
ゆっくり休んでくださいね〜」
「また後日お伺いいたします!」
「分かりました。お二人もお気を付けてお戻り下さい。
…………ありがとうございました」
騎士の二人が部屋を出ていき静かに扉が閉まった。
明日からまた、鍛錬の日々が始まる。
それにゲームはまだ始まってはいない。
本番は魔法学園だ。
あと数年しかない。それまでに力を付けなければ。
「良かったのですか?本当のことを言わなくて」
ルイーナ様の部屋を出て、隣の同僚に小声で問いかける。
「只の当たり屋では無かったようですが……」
ダンジョン内でルイーナ様にぶつかった男は確かに捕まえた。
捕まえたが、その男は明らかに可笑しかった。
『ダンジョン?そんなとこ行くわけ無いだろ?!』
ダンジョンに行った記憶もなく、更には本来あるべきギルドから発行される書類の類も持ち合わせていなかった。
男を通した警備の者も、そんな男を通した覚えは無いよ証言している。
明らかに裏で何かが動いている。
今回のファウスト家の襲撃もそうだ。
捕まえた連中は何処にでもいるような者達ばかりで貴族であり武芸に長けているここを襲う技量は無かった。
なのに連中はファウスト家当主を追い込み、あと一歩と言う所まで迫ってみせた。
当主からは家のゴタゴタだろうと言われたが、どうもきな臭い。
何者かが、裏で糸を引いている。
「………一度本部に戻り今後の対策を練る。
必ず今回の件に関わっている連中を見つけ出し捕えるぞ」
「はっ!」
ルイーナ様の前では何処か気の抜けるような話し方をされていたが、やはりその話し方や佇まいのほうが貴方様らしいですよ。
護衛騎士団 ジェラルド・アーテル団長




