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第十八話

走る。疾走る。はしる。

何度足が縺れようと傷付こうと走り続ける。

生い茂る草を掻き分けてただ進む。

馬車に乗っていては間に合わない。只でさえ他の馬車で道が混んでいるのだから走ったほうが早い。

『三人は馬車で向かってくれ!俺は先に行く!』

『危険です!私が代わりにっ……』

『ヴァレリオ卿は二人をお願いします!二人が襲われないとは限らない!』

『ですがお兄様!』

『頼むから言うことを聴いてくれ!!もう誰も失いたくないんだ!!』

『……分かりました。兄様の言う通りにしましょう』

『アルバ?!』

『私も、必ずお二人を護ります。どうかお気を付けて』

『ヴァレリオ卿までっ…………。

お兄様、約束して下さい。必ず無事でいると』

『あぁ、約束する』

言うだけ言って走り出してしまったのは悪いとは思っている。

だけど説明する時間が惜しかったんだ。

前、と言うか俺の前世の両親は強盗に怪我を負わされた。

偶々俺と双子の弟妹が公園に遊びに行っている僅かな時間の事だった。

日が傾き、夕焼けが帰り道を照らしていた。

行き慣れた道を三人で帰って家の扉を開ければ、只冷たい空気だけが流れていた。

『父さん?母さん?』

何時もみたいに『おかえり』を言ってくれなかった。

背筋が粟立って不安だったのを覚えている。

背中にくっつく弟妹をそのままに、リビングへと入れば____

『ぁ____っ見ちゃ駄目だ!』

リビングでは、母に覆いかぶさるようにして父が倒れていた。

母は覆いかぶさった父の下で携帯を握り締めていた。

父と母は、その体から血を流していた。

これを見せてはいけないと、咄嗟に背後の二人の目を塞ぐ為に抱き締めた。

俺はお兄ちゃんだから、二人を護らなくちゃならないと思ったから。

見せないように二人を外に連れ出せば、外には警察がいた。

近所の人が通報してくれたらしかった。

『お兄ちゃん、お母さんはー?』

『お父さんはー?』

………何も言えなかった。

どう言えば、何を言えばいいか分からなかった。

ただ二人の頭を撫でてやることしか、出来なかった。

救急車に乗せられた父と母。

弟妹は警察官に促され初めて乗るパトカーにはしゃいでいた。

『…………。』

二人のか細い息を覚えている。

今にも死んでしまいそうな青を通り越して白くなった肌を覚えている。

『……捕まえてやる。こんな目に合わせた奴も、こんな事を平然とする犯罪者共を』

何とか一命を取り留めた両親は、中々目を覚まさなかった。

強盗に入られた家で暮らすことは危険だし、近所の目があった事もあり、祖父母に手伝ってもらい新しくアパートを借りて三人で暮らした。

幼い弟妹はアパートに来てくれる祖父母に頼み、俺は警察官になるために身体を鍛え勉強も今まで以上に手を入れた。

平日は大学へ行き、バイトを掛け持ちして時間があれば両親のお見舞い。

休日は弟妹の面倒を見て家事をしたり二人が眠ってからはバイトか勉強の日々。

そして両親の目が覚めないまま二年の時が流れ、念願の警察学校に入ることが出来た。

寮制だった為、今まで以上に弟妹と遊べなくなってしまったが、休日は届け出を出して会いに行き沢山遊んだ。

両親がいなくて寂しそうだった。どうして母さんも父さんも起きてくれないの?嫌いになっちゃったの?と聴かれた時、どれだけこの子達が寂しがって苦しんでいるのか分かって、胸が張り裂けそうだった。

………何とか警察学校を卒業し交番に勤務していた時に、病院から連絡が来た。

両親が目覚めた、と。

高校生になった弟妹を連れて病院に駆け込めば、何年か振りに目覚め、上半身を起こしている両親の姿があった。

涙ながら両親を抱き締める弟妹に、やっと家族が揃ったと俺も涙を流した。

けれど………

『警察の、方ですね……子供達を連れてきてくれてありがとうございます』

『二人が無事で、良かった……』

あぁこれは罰なのだと思った。

両親を護れず助けられなかった俺への罰なのだと。

『お父さん、お兄ちゃんの事覚えてないの?』

『お母さん兄さんのこと覚えてないの?』

『………知り合いなのか?』

『いえ、今日初めてですよ。ご無事で良かった』

『あぁそうだったんですか。忘れていたのならどうしようかと……心配してくださりありがとうございます』

どうしてと目で訴えかけて来る弟妹に内緒だと指を口元に当てる。

二人は苦しげに顔を歪めたが、俺の考えを理解してくれたらしく黙っていてくれた。

病室を出てから弟妹には詰め寄られてしまったが、只でさえ目が覚めたばかりなんだ。負担を掛けてしまえば余計に身も心も休まらないだろうと言えば渋々ながらも納得してくれた。

その時の苦しみは、二度と味わいたくなかった。

この手から溢れてしまう物を失くしたかった。

何も、失いたくはなかった。

だから走る。

魔法で身体を強化して屋敷へと向かう。

今度こそ護るんだ。今度こそ大切な家族にあんな苦しい思いをさせないために。

「くそっ!!」

着いた屋敷は庭が荒らされ窓が割られ、美しかった家が見るも無惨なものへと変わっていた。

家の中には見たことのない者が数多く倒れていた。

もしかしたらこの中に、父と母もいるかも知れない。

だが、微かに音が聴こえた。

剣と剣が打つかる音。

魔法が放たれた時特有の音。

それらが聴こえたのだ。

「俺は音のする方へ向かう!二人はここを襲ってきた連中を逃さないようにしていてくれ」

「「はっ!」」

着いてきてくれた騎士の二人に、失礼だとは分かっていたが指示を飛ばす。

子供が何をと突っぱねられなくて良かった。

ここを襲ってきた連中には、俺の家族に手を出したことを後悔させなければ気が済まない。

指示に従い動いてくれる騎士の二人に背を向け、音のする方へと向かう。

頼むから間に合ってくれ。

俺から、これ以上何も奪わないでくれ!!

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