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第十七話

土日は更新お休みです。

同時刻

ルイーナが敵の本当の狙いを知った頃、ファウスト家は危機的状況に陥っていた。

「アナスタシア、そこの隠し通路から出てここから逃げろ」

「駄目よ!貴方を置いてはいけないわ!」

執務室で頭から血を流し荒い息を吐くファウスト家の当主ラウルは、妻であるアナスタシアを護ろうと剣を片手に戦っていたが、何十人もの敵に襲われアナスタシアを護りながら耐えていたが傷を負い、何とかこの執務室に逃げてきた所だった。

「連中の狙いはこの家の破壊か私達の殺害であれば、あの数と私のこの傷では只の足手まといだ。

だからお前だけでも」

「嫌です!お願いだからそんな事、言わないでっ……!」

「アナスタシア……」

涙を流し、煤に塗れ少なからず傷覆っているにも関わらず、ただ泣き喚き悲壮感にくれるわけでもなくしっかりと今を受け入れ戦う姿勢を見せる妻私は私には勿体のないくらい素晴らしい妻を持ったなとラウルはその顔に薄っすらと笑みを浮かべた。

元々はお互いに一目惚れだった。

今でもハッキリと覚えている。

小さなパーティーで彼女に初めて会った時、私は女神に会ったのかと錯覚したほどだ。

淡い水色のドレスを身に纏った女神が自分の目の前に現れた。

緊張しつつ差し出した手に彼女の手が重ねら初めてのダンスを踊った時はまさに夢のようで。

そこから手紙を出し合って、美しい湖畔や庭園を二人で散策したりもした。

月が綺麗な、幻想的な雰囲気のあの場所で彼女に結婚を申し込み受け入れられた時は、それこそ天にも登る気持ちだった。

そんな彼女との間に出来た息子は愛らしくて暫く執務中も息子、ルイーナの元に足を運んではその可愛い姿に癒やされていた。

だが暫くして二人目の子が産まれ私は、私達は変わってしまった。

只のお伽噺だと思っていた神の愛娘が私達の娘として産まれたのだ。

そのせいだとは言わないが、親族には羨ましがれると同時に妬まれ時には料理に毒を盛られたり事故に見せかけて殺されかけたりもした。

私は今まで良い仲を築けていたと思っていた相手が、裏では死を望んでいると知り今まで以上に執務に取り組まざるを得なかった。

連中よりも強くならなければならなかった。

より強い力を付けなければならなかった。

私が執務に取り組み様々な事業を立ち上げる中、アナスタシアは新たに子供を産んだ。

神の愛娘の瞳に近い緑の目を持った子供だった。

そのせいでアナスタシアを狙う連中も多くいた。

そして神の愛娘を護れ、伝承の通り育てろと周囲から圧力を掛けられ追い込まれていった。

それを助けることも出来ず、自身の事で頭がいっぱいだった俺は妻にも子供達にも何もしてやれなかった。

更には長男であるルイーナが高熱を出し苦しんでいるにも関わらず見舞いにも行かず、ルイーナにはファウスト家を任せられないと早々に見切りをつけ、まだ幼いアルバに手を挙げ怒鳴り自由を奪った。

そんな中、見切りをつけ捨てたルイーナは再び私の前に現れた。

私が覚えているのは良く笑い良く泣く普通の小さな子供だった筈なのに、現れたのは私に近い背丈に橙色の瞳に揺るぎない信念と強固たる意思を宿した男だった。

身体が弱くベットで寝込んでいる、すぐにでも死んでしまいそうだった子供がまるで別人のような雰囲気を纏っていた。

そして私の過ちを言葉にしその力強い瞳で話すのだ。

その覇気に気圧され何も考えられなくなり頭の中が真っ白になってしまった。

そしてルイーナの背後に隠されたアルバを見て、後悔した。

真っ白になった頭は、今見た正確な情報を伝えてきた。

震えていた。私を見て恐怖していた。

私は間違っていたのだと教えられた。

そしてそれはルーチェやアルバの楽しそうな声や笑い声で、私は過ちを犯していたのだとこの目と耳で確信した。

あんなに楽しそうな二人を最後に見たのはいつだった。

あんなに笑う子供達を見たことがあっただろうか。

今まで酷い仕打ちをしてきたのは分かっている。

だがどうしても謝りたかった。

許されるとは、思っても見なかったがな………。

強く抱き締めた子供二人の温もりに涙が流れた。

私の腕に収まるほど小さな体に、私はなんてことをしてきたのだろか。

ぎこちなくも私を父と呼んでくれるルーチェとアルバ。

そして追い込まれているのに気付いてやれず支えてやれなかった不甲斐ない夫である私を未だに愛してくれるアナスタシア。

大切な家族。護りたいと願った家族がそこに居た。

だが、どうしてもルイーナとの距離感が掴めなかった。

今までルーチェとアルバを支えてくれたのはルイーナだろう。

私を恨み嫌っているのだろうな。

その証拠に、ルイーナは私のことを父とは呼んでくれなかった。

最後にまたあの時のように、一度でいいから父と呼んで欲しかったな。

足音が近付いてくる。

終わりが近付いてくる。

アナスタシアだけでも護らなければ。

そして子供達が、三人が帰ってきて『おかえり』と声を掛けてもらわなければ。

例えそこに私が居なくても、きっとあの子達なら大丈夫だ。

あの子達の誇れる父親にはなれなかったが、最後くらいは父としてもファウスト家の当主としても格好良いと少しでもいいから思ってもらいたいな………。

部屋に武装した連中が雪崩込んでくる。

ボヤけつつある視界に連中の持つ鈍く光る剣が見える。

「男は魔力を抜き取ってから殺せ。間違っても女は殺すなよ。大事な神の愛娘を産ませるための母体なんだからな」

…………なるほどな。

また誰かが俺を殺し妻を良いように使おうとしたのか。

「お前らのような連中には勿体ないほど素晴らしい女性だ。

そして愛した女性を手放すわけがないだろう。

奪わせは、しない……っ!!」

剣を構え愛する妻を悪漢の汚い目に移させない為にしっかりと背後に隠す。

「ラウル……」

「大丈夫だ。必ず護る」

「最後まで私は貴方と一緒よ…?」

「ふはっ、心強いな?

それは尚更負けられない」

舌打ちと共に襲いかかってくる連中の剣を弾き魔法を防ぐ。

一人また一人と倒していくが、連中は次々と部屋に入ってきては襲いかかってくる。

血が流れ過ぎたのか身体が小さく震え足元が覚束なくなってくる。

だが倒れるわけにはいかない。

護るべき愛する人が私の後ろにいるんだ。

剣を握り締め敵を見据える。

奪わせない。拐わせはしない。

私のこの命が尽きるまで戦おう。

奪いたければ私を殺してみせろ。その代わりお前らも私の大切を奪おうというのだから、その命を賭けて向かってこい。


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