第十六話
「アルバ様、右からゴブリンッ!」
「はい!」
「お兄様!右の通路から集団でモンスターの反応があります」
「おう!」
ダンジョンに来て時間が経てば経つ程、感覚が研ぎ澄まされていく様に感じる。
魔力の消費を抑えるために最小限の魔力を込めた魔法を的確にモンスターにぶつけたり、周囲にある岩や水なども利用して対処する。
剣で戦うのであれば急所を的確に突き切り裂く。
モンスターは基本的に胸の部分にモンスターの心臓とも言える魔石を破壊するか身体から抜き出せば倒せる。
戦いながらその場その場で的確に自分が動ける最大の行動を行う。
互いに足りない部分を補い支え合う。
そうする中で自分では分からなかった隙や戦闘時の癖なども理解出来、訓練以上に経験値が貰えているような気がする。
「回復しますね」
「いやー、パーティー内に回復魔法が使える方がいると安心感が違いますね!」
「だからといって自身の怪我を気にせず無茶な戦い方をしないで下さいよ」
「ハハハハ………面目ない」
「アルバ、ヴァレリオ卿のソレは持病の様なものだから諦めな。
ルーチェも無理して全回復させなくて良いんだからな?
ヴァレリオ卿はもう少し落ち着いて下さいよ………」
毎度毎度敵を見付けては猪のように突っ込まれていてはこちらの身が持たない。
鞄から水を取り出しコップに注ぎ三人に手渡す。
周囲を警戒しつつ軽い休憩をしていれば、耳元で声が聴こえた。
『出入り口で誘拐犯の仲間を捕えました。
恐らくまた何も知らない只の下っ端のようですが一応ここを出てからもルイーナ様は警戒を怠らぬようお願いします』
「……了解」
騎士さんは透明にもなれるのか。何でもありだな。
だけど耳が擽ったいから次はもう少し違う方法で伝えてほしい。
「何か言いましたか?」
「何でもないよ。そろそろ先に進もうか」
不思議そうな顔をする二人に笑って先に進もうと促せば頷いて先の分かれ道を確認すると言って向かっていった。
「何か進展でもあったんですか?」
「ダンジョンの外で誘拐犯の下っ端を捕えたようです。
なのでここを出ても警戒を怠らないようにと」
「なら出る時もルイーナ様が前でお二人を挟んで私が最後に出ましょう」
「お願いします」
ダンジョンとモンスターが関わらなければ、又は戦闘が関わらなければ頼りになる先生なのにな。
それらが関わらなければだけどな?
だけど下っ端とは言え誘拐犯の連中が捕まってよかた。
だけど、これでハッキリした。
ルーチェやアルバの行動は監視されているか信じたくはないが何処かから情報が漏れているのかもしれない。
情報が漏れているのであればその出処を探り排除しなければならないな。
「分かれ道にモンスターの姿はありませんでした」
「トラップの類も見られませんでした」
「ありがとう。二人のお陰で安心できたよ」
走り寄ってきた二人の頭を撫でながら言えば、二人は互いに目を合わせ照れながらふにゃりと相貌を崩した。
やっぱり俺の弟妹最アンド高。
その笑顔だけで今日の疲れが吹っ飛んだ。
そして二人の言った通り、道中モンスターにもトラップにも脅かされること無く進むことが出来た。
外での話をしたからか途中から真剣な顔で周囲を見回し警戒するヴァレリオ卿の姿に
「兄様、ヴァレリオ卿は何かのトラップにでも掛かったのですか?
その、最初と比べると随分と静かな気が………」
「私も念の為に解呪の魔法を掛けてみてはいるのですが………」
「ブフッ……いっいや〜、帰ったら手合わせする約束をしたら……ね?」
「あぁ、なるほど。そういうことでしたか」
「お兄様、今日はお疲れでしょう?休んだほうがいいのでは……」
「大丈夫。鍛錬は一日にしてならずって言うからね。
何時もみたいな手合わせじゃなくて軽いものだから心配しなくていいよ」
手合わせをする約束で静かに、そして真剣になることを、なるほどで納得されるヴァレリオ卿。
真剣に二人のことを考えてくれているヴァレリオ卿は格好良いがその二人に彼がどう認識されているのかが分かってしまい、不覚にも少し吹き出してしまった。
「そろそろ抜けます。俺が先に行くから二人は俺がいいと言ったら出てきてくれ」
二人が頷きその背後のヴァレリオ卿も頷いたのを確認してダンジョンのを出た。
そしてその直後____凄まじい強さで腕を掴まれ、ダンジョン近くにある林へと連れ込まれてしまった。
深くフードを被ったローブ姿の、掴む手の大きさや力強さで恐らく男性だろう相手に、普通は抵抗するか何かしらの行動は起こすべきだろう。
だが、俺は彼を知っている。
「手荒な真似をして申し訳ありません」
「大丈夫。何かあったのか?_____セル」
セル。セルペンテ・カウケマール。
俺の数少ない友人の一人で、俺の直属の部下でもある男だ。
彼はゲームでも出てこない所謂モブだったが、偶然出会い意気投合した上、忠誠を誓われてしまったんだよな。
彼の家は軽くだがゲーム内で設定はあったんだ。
皇室にも他の貴族や権力者にも従わず、ただ己が主と認めた人物にのみ忠誠を誓い主の手足となり目となり耳となって、様々な分野で主を支えるのだ。
彼等彼女等を手にした者は巨大な富と皇室にさえも引けを取らない権力を手に入れられると言われている。
何故そんな彼と俺が出会ったのか?
それは、本当に只の偶然だった。
家の近くで騒ぎがあって、その中心にいたのが彼だった。
その時の俺は彼が誰かなんて知らず、ただ助けただけだったんだが懐かれて今に至る。
普段は影に徹して明るい場所に顔を出すことのない彼がこうして現れたとなれば、何かしらの事態が起こったということ。
「ルイーナ様のご弟妹の方々を狙っているとされる連中ですが、そいつ等の本当の狙いは別にあります」
「別に…?どういう事だ」
「連中の本当の狙いはファウスト家の、奥様とご当主様です」
「なんっーーーーー?!!」