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第百五十九話

 目の前で怒りで顔を赤黒く染め上げる男を、ルイーナは本当に同じ人間なのかと疑問に思っていた。

男もルイーナやアルバを自身と同じ人間だとは思っていないが、男の認識とルイーナの認識では確たる違いがあった。

ルイーナの目には目の前のソレが男の姿をしたナニかに見えている。

ドロドロとした黒く禍々しい、視界に入れるだけでも不快でソレが口らしき部分を開けば周囲に毒を撒き散らすかのようにベチャリとした泥の様なものを吐き散らす。

そんな異形のナニカにしか、見えていなかった。

 だからルイーナには本来であれば感じるだろう人を殺すという行為に躊躇いを感じられない。

だって人間じゃないから。

ルーチェやアルバ、オスカーといった護るべき子らではないから。

ソレは彼等に、彼女に害を齎すモノだ。

排除しておかなければ、後で何をするか分かったものではない。

けれどもルイーナが男をこの場で殺さないのは一重に周囲の目があることと、何より子らにその様な場面を見せたくないからだ。

子供の心というものは酷く繊細で脆く儚いものだ。

小さなヒビでも簡単に壊れてしまう。

まだ知らなくていい。

寧ろ一生知らずにいた方がいいことだ。

この先で知ってしまうかもしれないけれど、今はその時では無い。

その時で無いのであれば、慣れてしまった己が変わりになろう。

陰として、兄として、この世界の本来存在していない異界の者として。

「…………今ならまだ、許しを乞うのであれば先の発言を許してあげますよ?」

「何に許しを請えと?」

「ッ?!私に対してその様な口を聞いたことです!

それすらも分からぬほど無知では無いでしょうに」

「俺は何も間違ったことは言っていない。

お前の口から吐き出される(ことば)は汚らしい。

だから耳障りで、煩いんだ」

子供たちの視界にこの汚物を入れたくない。

だから必要以上にルイーナは男を煽り自身に意識が向くように仕向けた。

その方が何かと都合がいいから。

男は自身を優位にたて、父の事と家の事そして自身の今の立場が揺るぎないものだと思っている。

その地位が脅かされることなど無いと本気で思っている。

自身に逆らう者等いないと思い込み、大きくなり過ぎた過剰心は自信よりも立場も地位も家柄も圧倒的に上の王太子しさえも適応されている。

 己は王太子の護衛であり、父は王を支える宰相である。

だから必然的に己は王太子の護衛から、王となった王太子を支える宰相になるのだ。

だと言うのに、己よりも何もかも劣るファウスト家の長男はそれすらも分からぬ愚か者であったらしい。

イライラと募るのは怒りだった。

生まれた時から勝利が決まり絶対的で揺るぎない立場を無礼にも土足で踏み荒らされたのだから。

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