第百五十三話
「その目的は教えてくれないんですね?」
「そうですね〜。でもまぁ、大切な家族の為とだけ言っておきます」
「家族…………」
「下に弟がいるんですけどその子がヤンチャでして。
こっちの心配も気付かずに傷ばっか作って、自分の事より他人の心配をするようなお人好しなんです。
優しいのはあの子の長所ですが短所でもあるんですよね…………」
大きな溜息を溢しながら出された言葉は心の底から吐き出された彼の本音だった。
羨ましいと思った。
彼にここまで想われるその家族が。
そして懐かしいとも思った。
だって今精鋭の彼が溢した言葉はルイーナ自身にも覚えがあったから。
ルイーナとなる前の、東として生きていた当時に全く同じ様な事を考えていた事がある。
東の家族は誰よりも家族を大切に想う、東にとって何にも代えがたい場所で存在だった。
将来、もしも自分が家庭を持ったならこんな家族になりたいと思うような理想の家族像であった。
温かく包み込んでくれる優しい母だった。
何かあればどうしたのかと優しい言葉を掛けてくれた。
温かい食事を作り、自身も仕事で疲れているだろうにそれを表にも出さず笑って送り出し、そして労り迎え入れてくれる母親であった。
厳しくも母と同じくらい温かな父だった。
何時だって家族の事を考えてくれて、そして友も大切にする人だった。
長期休暇ではよく旅行に連れてってくれた。
様々な体験をしていろんなものを見なさいと、そう言って固く大きな手で頭を撫でてくれる父親だった。
弟妹の二人はこんな情けない己を兄と呼び慕ってくれた。
初めは二人一緒に抱き上げられるくらいに小さかったのに、いつの間にか抱き上げる事も出来ないほどに大きくなった二人。
あの笑顔に救われたのは一度や二度ではない。
大好きで大切な家族だった。
過去となった今もそう思う程に。
そして誇らしくもあった。
両親も弟妹達も、家族や友人を大切に考える人であった。
例え自身の身が傷付いても心無い言葉を吐かれようと、護る盾となり共に戦い立ち向かう為の剣となるそんな家族であった。
その強さは同じ家族として誇らしく、同時に己のなるべき理想の姿をしていた。
そんな風に誰かを守れるようになりたかった。
背を合わせ信じ合える様な友や家族を作りたいと思えるほどに。
けれども理想は遥か遠くの彼方の星となった。
理想は理想だからこそ美しいのだろうと、今はそう思う。
まぁ何が言いたいかと言うと、家族を思い考動するものは信頼は難しくとも信用には値するという事だ。
「俺は貴方を信頼はしませんよ?」
「いいですよ?」
「危険があるのに?俺は俺の目的のために手段は問いません。
貴方のことさえも利用して、俺の駒として扱うでしょう。
それでも俺を使いますか?俺に、ついてくるんですか?」
「最後のその時まで。
俺も俺自身の目的の為にルイーナ様を利用するんですからお互い様ですよ。
ある意味では共犯者ですね」
「共犯者?」
「互いに陰で動いて、言えないような事をする。
互いの目的の為に利用し合う。だから共犯者」
「ふふ、それいいな」
「お、調子戻りました?」
思わず笑ってしまった。共犯者とは言い得て妙ではあるが、確かにこの関係に名前を付けるならそれが合っているのかも知れない。
「共犯者なら、とことんこっちの目的のために利用するからね」
「望むところです。寧ろ俺も利用するんで覚悟して下さい」
目的のためならば他人でも使えるものは使う。
互いに笑みを深め嗤い合っていれば、唐突にレディが指先を嘴で噛んできた。
放って置かれたのが不服らしい。
「彼女も共犯者みたいですね」
「え?」
「ほら、本人もその気みたいですよ」
「ホウ」
まるでその通りだと言わんばかりに翼を広げる彼女。
いいの?と聞けば聡明な彼女は頷きまた嘴で何度か指先を噛んでくる。
「置いていくようならこの指を噛みちぎるそうですよ」
「こわっ?!」