第百五十一話
「ルイーナ様の右目は、言うならば妖精眼ですね。
魔力の流れを見ることに特化した妖精特有の目。
魔法を使うも者なら誰もが羨むものですね。
ただ、本来のものとは少し?違うようですが」
長い前髪がカーテンのように広がり覆い隠された瞳は見えない。だと言うのにまるで全て見透かされているかの様な感覚に陥る。
「何を、言ってるんですか?」
そも、この目の事を知っている人はいないはずだ。
知っているのはあの森にいるフィンだけ。
なのに何故彼は目の事を知っていて、剰えその目の名称まで知っているのだ。
「言ったでしょう?俺のこの目は借り物だって。
ルイーナ様のその目のように、本来なら人が持つものでは無いんですけど。
俺自身のある目的と一致しまして、この目を借りてるんです。
だからこの目のお陰で色々と見えるんですよ」
ルイーナ様の目との違いは、この目が妖精眼ではなく精霊眼である点でしょうね?と戯けて見せる精鋭の彼。
妖精眼はその名の通り妖精の持つ目のことだ。
その目が魔力の流れを見ることが可能であるとの文献は読んだことがある。
だが分かっているのはそれだけで、詳しいことは解明されていない。
そして精鋭の彼が言った精霊眼。
これはルイーナでさえもその存在を知らなかった。
妖精眼の書かれている文献にさえも精霊眼の事は一切書かれてはいなかった。
この世界には過去に妖精がいたとの設定があり、様々な文献や子供の読む絵本にも妖精が多く登場する程には有名だが、精霊は存在しなかった筈だ。
もしかしたら設定的にあったのかも知れないが、原作内では妖精は登場しても精霊は登場しなかった。
「精霊は妖精とは違って表には出てこないですからね〜」
「なら、何で貴方は知ってるんですか………」
「言ったでしょう?目的のために必要だったから、その相手と俺とで利害が一致した結果ですって」
意味が分からないと顔に出ていたのか、説明をしてくれた彼だがどうにもはぐらかされている気がしてならない。
いや、実際に要点ははぐらかされているのだろう。
「それで?嘘つきのルイーナ様はさっきのはやってくれるんです?」
「やってくれるって、何を…………?」
「もう忘れたんですか?
俺と契約しましょ?って話ですよ」
ニコリとその口元は笑みを浮かべ声も楽しげだ。
だと言うのに肩を押さえつける手は離さないと言わんばかりに依然としてそこにある。
「意味がないでしょう」
「それはやってみないと分からないでしょう?」
クスクスと笑う彼は楽しげだ。
そも契約などをしても意味がないと言ったのに、何故こうも契約に拘るのだろう。
「嫌ですよ」
「まぁまぁまぁ」
「まぁまぁじゃなくてって、うぁ?!」
こちらの苦言を流そうとする彼に、文句の一つでも言ってやろうと口を開き、その瞬間に流れ込んできた魔力に体がびくりと跳ねた。
忠誠の儀式を行った時の痛みはない。
ただ唐突に体に魔力を流し込まれている何とも言えない感覚がこの体を襲う。
「大丈夫ですって。
ルイーナ様には利点しかありませんから」
「だ、からって…その契約をするもしないにもッ同意というものがッ!!」
「だって信じてくれないじゃないですか。
なら実践したほうが早いでしょう?」
「あの二人といいアンタといい、人の話を聞けっ!!?
俺の、意思を無視してっ好き勝手しやがッ……て!!」
こちらの意見などお構いなしに強引にその契約とやらを行う精鋭に、この現状をどうにかせねば取り返しのつかない事になると頭では分かっている。
分かってはいるが、体内を巡り暴れまわるその不快感のままに暴れようにも押さえつけられているせいで身動きが取れない。
「クッッッソ!!いい加減に、うぐッ……しろッ!!」
「おっと」
それでも彼の下で足掻き続け、火事場の馬鹿力であろう今までで一番と言ってもいい程の力で勢いよく握り締めた拳を彼に放った。
軽い声を上げて避けた精鋭の彼だが、そのよろけた一瞬に拘束が弱まった。
あっさりと避けられた拳は想定済み。
だからこそ直様次の一手を放つ。
「…………ルイーナ様って意外と足グセ悪いです?」
彼の体を蹴り飛ばしベットから遠ざけ距離を取る。
先の魔力を流し込まれた影響か荒れる呼吸を整えながら痛いなぁとさしてダメージも何も無いだろうにそう嘯いて見せる彼を睨みつけた。