第百四十九話
「おはようございます、ルイーナ様」
体に違和感はありませんか?
見慣れた部屋の天井に嗅ぎなれた匂い。
そして柔らかに体を包み込む心地のよいベットの上で目覚めボーッとしていれば横から顔を覗き込まれた。
「精鋭さん………」
「はい。水飲みます?」
「お願いします……」
差し出された水を飲んでいればボンヤリとしていた頭が冴えてくる。
そうすれば何故自分がここにいるのか疑問に思うのは当然で…………。
「何故俺はここに?」
「彼女が教えてくれたんです。それで流石にあのままあの場所に居るのは危ないんで」
「そうですか……」
精鋭の彼の背後、ベットのすぐ近くに位置する場所に置かれた彼女専用の止り木からこちらを見下ろすレディに目を向ける。
自身を見る視線に気付いたのだろう。
バサリと羽音をたてて枕元へと降り立った。
「心配かけてごめんなさい」
フワリとあの時も感じた温かさがすり寄ってきた。
手を伸ばし触れれば、確かに彼女を感じれた。
何時の日か手放さなければならない温もりを感じてしまう。
「ルイーナ様。俺はあの場所に何でいたのかは聞きません」
「………。」
「ですが」
そこで言葉を切った精鋭の彼に、レディに向けていた目を彼へと向けた。
「俺達を遠ざけようとしても、俺達は貴方から離れませんからね」
睨みつけるかのように鋭い目を向ける精鋭の彼に、ルイーナは寝起き早々に息を呑んだ。
前髪のせいでその瞳は見えないはずなのに、睨まれているとそう感じたのだ。
だがそれにしても気付かれると思ってはいなかったからだ。
ルイーナは先程まで自身が見ていた夢をハッキリと覚えている。
何を見て何を決意したのかもしっかりと。
そして決めたのだ。
夢の中で誓ったように、夢の中で感じた温もりが今目の前にいる二人であった事を知ったが故に。
自身から遠ざけようと。
過去を呑み込んで思ったのだ。再確認したと言ってもいいだろう。
自分の手は小さく、救おうと手を伸ばしても多くは拾い上げることは出来ない。
自身の身に余る程の大切は救えない。
ならばどうすべきか。
簡単だ。極端な話、大切にしなければいい。大切に想われなければいい。
消えると、居なくなると分かっているのだ。
だからこの感情も何もかも捨てられるように。
手放すものが多いと困るから。自分を繋ぎ止める枷があると困るから。
「どうして?」
だから離れないと言われても困るのだ。離れてもらわないと、俺はきっと彼を殺してしまうから。苦しめてしまうから。
「俺は貴方を苦しめるよ?
貴方がしたくないことをさせるかも知れない。
それでも?」
「いいですよ」
「なら、俺が俺を殺してって言ったら殺せますか?」
自分でも意地の悪い質問であることは自覚している。
けれども出来ないのであれば、彼が何と言おうが連れていけないし何より縛られると動きづらいのだ。
捨てれないようであれば今後の動きに支障が出るし、何より時が来れば俺はあちらにいかなければならない。
だからこその質問であった。
さて、彼は何と答えるのだろうか?
この場凌ぎで殺せると答えるのだろうか。
それとも出来ないと応え、何かしらの説得の言葉でも紡ぐのだろうか。
薄ら笑いを浮かべていれば、彼の口が歪んだ。
そしてゆっくりと開かれる口を、さぁ何と応えるのかと見詰め答えを待つ。