第百四十六話
懐かしい夢を見た。
まだ弟妹達があの時よりも幼い古い記憶。
まだ父さんも母さんも笑顔で己の名を呼んでくれた頃の、もう戻れないあの愛しい日々の夢を。
『東〜?どこ行ったのかな〜?』
『咲希〜?結縁〜?』
父さんの呼ぶ声が聞こえる。
母さんが妹と弟を呼ぶ声が聞こえる。
『んふふ、ぱぱもままもさがしてるね』
『にーに!にーに!』
『にちゃ!』
『かくれんぼたのしい?』
『『あい!』』
フクフクのほっぺをピンク色に染めて、キラキラとした目で己を見る二人の顔は楽しいと笑顔だった。
二人と初めて顔を合わせたときは、お猿さんみたいにしわくちゃで小さかった。
初めて見る自分よりもずっとずっと小さな二人に、初め触ることが出来なかった。
だってあんなに小さいのだ。
触ったら壊れてしまいそうで怖かったのを覚えている。
父さんに促されて近くに行ったは良いものの、触れないよと父の足にしがみついた。
それに両親は可笑しそうに笑って、なら声を掛けてあげてと二人を抱き締めていた母さんが身を屈め己に近寄った。
『はじめまして………。お、おにいちゃん…だよ?』
恐る恐る父の足元から顔の半分だけを覗かせてそう声を掛けた途端、今の今まで静かに眠っていた二人は火が付いたかのように泣き出した。
ピャッ!と情けない悲鳴をあげて父の背後に隠れた。
母さんがあやしても泣き止まない二人に、自分も泣いてしまいそうだった。
『あらあら、急にどうしたの?』
どれだけ母が揺らしても二人は泣き止まない。
『んー、東。ちょっとごめんなー?』
何を思ったのか、父が突然背後に隠れていた自身を二人の前に突き出した。
『はっ?!えっ?!なんでさ!!』
泣き叫ぶ二人をこれ以上刺激しないように驚きつつも反射的に暴れそうになる体を叱責しながらそう父に訴える。
『ほらほら〜、君等のお兄ちゃんだぞ〜』
だが父はそんなのお構いなしに笑って二人に声を掛けた。
するとどうだろうか。
あれだけ泣き叫んでいた弟妹達の声が小さくなり、完全にとはいかないが泣き止んできていた。
『やっぱり。
この子達はお兄ちゃんに会いたいんだよ。
大丈夫。優しく触ってあげればいいんだよ』
見上げた父は穏やかに笑っていた。
その笑みに背を押されるように、今度は自分から弟妹達へと近寄り手を差し伸べた。
泣かれるかな?怖くないかな?と不安は以前あったが、それはすぐに消え去った。
『パパの言う通り、お兄ちゃんと会いたかったのね』
『将来はお兄ちゃん子になるかもな〜』
差し出した手の、その指先を小さな手が二つ握り締めた。
プニプニとして、でも案外力強い手に握られた。
泣きもせず、眠そうに欠伸さえ溢してみせた二人にあぁ、本当に俺の弟と妹なんだなと実感した。
柔らかくて温かくて小さな俺の新しい家族。
『おにいちゃん…?』
『そうだ。この二人のお兄ちゃんになったんだよ』
『ねぇお兄ちゃん。この子達をママとパパと一緒に守ってくれる?』
父に頭を撫でられ母に微笑みかけられ、その時己は強く誓ったのだ。
『うん。まもる。おとーともいもーとも、ぱぱとままも!
だっておにいちゃんだもん!!』
何も守れやしないくせに