第百四十五話
「姉さんだって。俺のことも兄さんって呼んでくれて………嬉しいものだね?」
「ピュイ!クルルルル」
精鋭の言葉に嬉しそうに鳴くレディ。
互いに幸せそうに眠るルイーナを見て笑った。
こんな寒い場所に居ると慌てたように自身の元まで呼びに来たレディを見た時は驚いた。
「それで?もう話してはくれないのか?
さっきはあんなに話してくれたのに」
ルイーナには見せたことのないニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべてレディへとそう声を掛けた精鋭。
抱き締めていたルイーナの頭を自身の膝にずらし置いた精鋭の手は絶えず彼の頭を撫で眠りを促しているが、レディを見るその瞳は愉しそうだ。
「………相変わらず意地が悪いのね」
「お褒めに預かり恐悦至極」
「あら、褒めたつもりは無いのだけれど」
先程まで鳥の鳴き声を溢していたはずのフクロウは、その瞳同様に知性を感じさせる理知的な人間の女性の様な声を発した。
それも人間のように翼を手に見立て肩をすくめる様な動作と共に。
人の言葉を話すのも人のように肩をすくめて見せるのも、精鋭の彼はただただ面白そうに目を細め眺めるだけで驚いた様子はない。
それどころか軽口を叩く余裕さえある。
「ルイーナ様に言わないの?
話せること。喜ぶと思うけど?」
元より精鋭はフクロウであるレディが話せることを初めから知っていたのだ。
そして互いの意見が一致したために精鋭はレディがルイーナの元へと違和感なく行けるようお膳立てをした。
そしてレディ自身もまた彼女の目的のために精鋭と手を結びルイーナの元にいる。
「言葉を話すことの出来ない相手にこそ話せることもあるのよ。
確かにルイと今の貴方のように話せたらと思うこともあるけれど、それじゃあ私がこの子の所に来た意味がないわ」
レディは知っている。
ルイーナがどういう人間なのかを。
だからこそ放っておけないのだ。
「異なる世界から渡ってきた異界の子。
その魂は闇から遠いくせに近い、固くも脆い不思議な子」
詠うように紡がれた言葉を放つレディの瞳はルイーナを、その魂を見ている。
小さくも光り輝くその魂に影が指すのを見ている。
「異なる世界ねぇ………。
まぁ関係ないけど。だって彼はここにいる。
こうして話せて笑うルイーナ・ファウストと言う人間を俺は彼しか知らないから。
だから異界の子って言われてもそれが何?って感じ」
「ふふ、貴方のそういう所が私は好きよ?」
「わぁお、森の賢者様にそう言って貰えて嬉しいよ」
クスクスとレディと精鋭は笑う。
今この場にいるルイーナという彼が彼たるようにと願いながら。
誰かを救うために生き急ぐ彼が子供らしく自由に生きる事を願いながら。
愛されることを恐れる子供が、救うことでしか生きられない子供が愛されることを受け入れ、ただの子供として人生を健やかに生きれるようにと願いながら。
「約束は守るよ」
「私も、その時が来るまで貴方と協力するわ」
これはゲームではありえなかった出会い。
今この時を生きるルイーナとして生まれ変わった彼が繋げた縁。
それを知るのは、今はまだ彼と彼女の二人だけ…………。